窮地
どうにか生かしたまま無力化できればヒルグレイブ公爵の悪事の証拠になるし、この仮面の正体や背後関係にも迫ることができる。
高速の斬撃が仮面の肩口から斜めにマントを斬り裂い――
「!?」
――てない!!
僕が斬ったのはマントだけだった。
手応え皆無。
真っ二つになったマントの中身は消えてなくなっていた。
ぞくり、と全身が粟立った。
真後ろ。見なくてもわかった。仮面に背後を取られている。魔法使いとは思えない身のこなし。細い針のような殺気が迫るのを感じながら、僕は剣を振り降ろした勢いを殺さないように斜め前に転がった。
ダンスホールの床をゴロゴロと転がって起き上がる。
「っ!」
目の前――本当に目と鼻の先くらいの距離――に仮面がいた。ぴったりと張り付かれている。苦し紛れの横薙ぎはナイフで軽々と受け、逸らされた。小さくバックステップした仮面は油断なく身構えた。
魔法使いじゃなかったわけだ。
「今ので
仮面はナイフを構えたまま
まずい。僕がそう思うより早く仮面は動屍体の中に紛れ込んだ。完全に見失った。動屍体が次々に襲い掛かってくる。この中に仮面がいるとしたら、
「くそっ」
いちいち相手をしていられない。
崩れていく動屍体をブチ抜いて仮面が突っ込んできた。
剣で迎撃は……、できない。
ナイフが僕の腹に深く突き刺さった。衝撃と熱い痛みが体を貫く。視界に「猛毒」と「無効化」の文字が明滅する。
仮面はナイフを引き抜き(滅茶苦茶痛い!)、僕の腹部に前蹴り。
尻餅をついた僕を呆れた様子で見下ろしてくる。
「呪いだけじゃなく毒も効かないか……。物理防御は常人レベルでよかった」
ちっともよくない。
強い。仮面の武器はナイフと召喚魔法と呪い。こっちは〈王の器〉で何でもできる。けど、切り替えの隙がある。向こうは自前の
でも、このままじゃいつかやられる。
エンズがいればと思うけど、エンズはヒルグレイブ公爵を押さえにいっている。
……ど、どうしよう?
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