バケモノの戦闘
エンズにやや遅れて僕はテラスから屋敷の中に突入した。
ヒルグレイブ公爵と仮面は勿論、エンズの姿もすでに見えなくなっている。
一番新しい足跡がみっつぼんやりと光って
微かにだけど、確かに残った痕跡は僕を誘導するかのように、屋敷の奥へ奥へと続いていた。罠だとはわかっている。わかっていても追うしかない。仮面が公爵に力を貸していたことはタッカーたちの証言で既に明らかになっている。逃がすわけにはいかない。
王宮よりお金かかってるんじゃないかと思うような内装の廊下をずっと進んで、さらに開け放たれた扉の向こう、広い吹き抜けの二階部分に辿り着いた。豪奢の螺旋階段で降りた先は広く、手入れの行き届いたダンスホールだ。
その中央に、フード付きマントで全身を隠した仮面が、影から生えてきたみたいに突っ立っていた。
「やっと追いついた……」
むしろ待ち構えていたって感じなのに《
ダンスホールに降り立ってもまだ、仮面は立ったままだった。
「このままお縄についてもらえるならありがたいけど」
もちろんそんなわけはなかった。
仮面がすう、と掌を持ち上げるのと同時にばん、と大きな音がして二階の扉が閉まった。自分が逃げるつもりも僕を逃がすつもりもないらしい。
仮面を中心にいつの間にか魔法陣が展開していた。見覚えのある
「アルベルト陛下……。わざわざ出向いていただき感謝する。ここですべての帳尻を合わさせていただこう」
冷たい、けれど性別を感じさせない声音で仮面は言った。
かざした掌を振ったのが合図だった。
動屍体が一斉に僕に飛び掛かってくる。
動屍体の動きは遅い。見てから十分対処可能だ。僕はバックステップで距離を稼ぎ、
使用する魔法は《
仮面は既に次の手を講じていた。よっつ、いや、いつつの魔法陣が僕を捕えていた。コレも見たことがある。アップルトン子爵令嬢にかけていた、呪いの魔法陣。仮面の小さく呟く詠唱とともに、それらすべてが同時に起動される。
でも、
「効かないよ!」
状態異常無効のスキルを持つ僕に呪いは通じない。
「っ!?」
表情はわからないけど、流石に仮面も驚いたみたいだった。
「バケモノめ……」
〈王の器〉の性能はどうかしてるレベルではあるけれどバケモノ呼ばわりはないんじゃないだろうか。
技能目録から再度「クラス:剣匠」を有効化。魔法銀の剣を構えて一気に間合いを詰めた。後退する仮面の攻撃手段は召喚か呪い。発動までの時間があれば斬り込めるはず。
――勝った!
僕は確信とともに剣を振るった。
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