19日目ー川の街マシイマ

ちょっと"いたい"イケメンに絡まれてしまった。

決闘やらなんやら言ってたけどなんなんだ。

「君はニーナさんをたぶらかしこんな馬車も何もない危険な旅に連れてこさせたらしいね」

「ん?それは違うな。ニーナは自分の意志でついてきた…」

「嘘をつくなっ!」

叶人の言葉を途中で遮ってこの"いたい"イケメンは断固として叶人の言葉を否定した。

「嘘じゃねーよイタメン」

「イ、イタメン?!なんなんだそのダサいの?!」

「いたいイケメンだからイタメンだよ」

「イケメンだなんて…照れるだろ…」

こいつカッコつけてるくせにイケメンって言われると素直に照れるんだな。可愛いところあるな。

「てかお前誰だよ」

そう言うとイタメンはハッとしてコホンと咳払いをしてキリッと真顔になった。

「失礼申し遅れたね。僕はロズクロア。聖騎士をさせてもらっている。能力は騎士の聖剣ジ・ホープオブナイトソードという能力だ」

「愛梨よりも魔王倒してそうな能力だな」

「何よ?」

率直に思ったことを言うと愛梨からギロッと睨まれてしまった。この目が本当に怖い。

「いや、実は本当に魔王を倒すつもりだったんだ。しかしアイリさんに先を越されてしまったんだよ。そこで落ち込んでいる時に出会ったのがニーナさんだ!彼女の美しさに僕は一瞬で惹かれてしまったんだよ!」

分かる!めっちゃ分かる!だけどここで言ってはニーナとの旅が気まずくなるので我慢我慢。

「んで一目惚れした後どうしたんだ?」

「即猛アタックしたね」

ドヤ顔で言われても困るんだけど。叶人はチラッとニーナを見るとニーナは汚物でも見るかのような目でイタメンことロズクロアを見ていた。

「えーと…ニーナはどう感たよ?」

「最初は可哀想だったしギルドの職員として対応しないとなぁと思って応対したらこんなことになっちゃって……ほんと散々ですよ」

顔がマジで嫌がっている顔だった。1秒でも早くここから立ち去ってほしいもしくは、早く立ち去りたいと顔が語っている。

「だそうですけどイタメn…ロズクロア君。早くニーナから手を引いたらどう?」

「イタメンって言うな!」

イタメンって言ったの聞かれちゃった。

ロズクロアは一度間を置くと気を取り直して続けた。

「たった1回嫌がられただけで手を引くだなんて出来ないね。そもそも僕のポリシーに反するし絶対に手は引かないよ」

こいつヤバイ。この場にいるロズクロア以外の3人は同じことを思った。

同時に女子2人のロズクロアを見る目が更に冷たくなった。特に愛梨の冷めた目はやっぱり威圧が凄かった。見られてる方はよっぽどのメンタルがないとこの視線だけで怯むんじゃないだろうか。

叶人は溜息をついて何とかこいつから離れようと交渉を試みることにした。

「えーとですね。とりあえず女子2人が嫌がってるからとりあえず今日のところは帰ってくれないかな?」

「ならば要求を呑んで貰おうか」

ハァ。面倒くさいな。さっさと要求呑んで帰ってもらう事にしよう。

「はいはい。要求って何だ?」

「ズバリ最初に言ったように決闘を申し込む!」

改めて異世界に来たことを実感させられた。

こんなアニメにありそうなイベントがズバズバ出てくるって何なんだろう。

てか決闘とか言われても困る。対人経験ほぼ皆無の戦闘初心者に元魔王討伐目指してたやつが勝負挑むとか冗談にしてもキツイぜ。

でもニーナの悲しむ顔はあまり見たくない。プラス愛梨の目が怖いから早く収めたい。仕方ないし受けるって言うだけ言っておこう。

「あー分かったからもう帰ってくれ」

「言ったね!約束だよ!じゃあ日時は2日後。場所はこの近くのマシイマという町の外れにある決闘場でやろう。その日は人が入らないように手を回しておくよ」

意外と気は利くようだ。人が入らないのは結構嬉しい。俺が恥をかくのを見られずに済む。

いや、恥をかくと決まってはいないが今のままじゃそうなるのが妥当な結末だろう。

「分かった。じゃあ2日後な」

「2日後楽しみにしてるよ!じゃあ」

ロズクロアはニーナに笑いかけながら手を振りながら去っていった。

その間ニーナの目から苦笑いが消えることはなかった。しかしそんな中でも軽くは手を振っているニーナの律儀さに感心した。

ニーナよ、なんていい子なんだ……。

そんな感心をしている暇はない事を愛梨のお陰で思い出せた。

「あんた2日後に決闘するって言ってんのにそんな呑気で大丈夫だと思ってるの?見た感じ私といい勝負出来そうな感じだったわよ」

「ま、マジか…」

強いだろうとは思ったけどそんなにアイツってやるのか?あのイタメンが?人は見かけによらないってやつだな。

「カナトさん勝ってくださいね!応援してます!」

「おう!任せろ!」

ニーナからあんなキラキラした期待を寄せられて応援までされたら頑張るしかないでしょう。

キメ顔で即答してしまったがなんとかなるだろう。というかしてみせる。

「じゃあとりあえずマシイマで宿を探そう。話はそっからだな」

「そうね。この荷物も置きたいし」

愛梨は荷物の殆どを俺に持たせてるくせに何か言ってる。俺のセリフだっての。

まぁ荷物を置きたいのは事実だ。さっさと町へ向かおう。

そうして3人はイタメンことロズクロアが走り去って行ったマシイマへと向かって行った。


入国ゲートで審査を通り隣町マシイマに着いた3人は宿を探そうとゲート付近に設けてあった案内所へ入った。

中に入ると人はあまりおらずカウンターはいくつかあるものの受付の人もあまりいなかった。

そのためカウンターは埋まっていたのでベンチに座って待つ事にした。

叶人は地図が貼ってあることに気づいて地図を詳しく見ようとベンチを立ち上がった。

地図はこの町を上から写していた。

町の真ん中には町を2つに切るように流れる大きな川があった。

マシイマは大きな町なのでこの川を利用して南北で色んなところに行くらしい。

実際町に入ってから船乗りらしき人が多かった気がした。しかしここは内陸なので海には距離があるのだがこの川を縦断して海運や貿易も行なっているらしい。

「カナトさーん順番回ってきましたよ」

地図を眺めているとニーナに呼ばれた。

いつのまにか前に並んでいた人達は案内所から出て行っていた。それなりの時間地図を眺めていたようだ。

叶人は地図を背にしてカウンターへと向かった。

「ようこそマシイマへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「えーと宿を探しているんですけどどこにありますか?」

愛梨が代表で聞いてくれるので正直やることはない。話を聞く振りしといてボーっとしとけばいいだけだ。

「宿でしたらここを北へ少し行ったところの大通り沿いに何軒かございますよ」

「オススメの宿とかっていうのはありますか?」

愛梨は意外と綺麗さを気にする人間なので宿とかも結構レビューを気にするタイプであった。

昔にテキトーにとった宿が最低でそれ以来レビューや評判を気にするようになったらしい。

「そうですね…川寄りにあるカラハタという宿なんかオススメですよ。赤い看板を出しているので分かりやすいと思います」

「分かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。マシイマの日々をお楽しみ下さい」

宿の場所も分かったので3人は案内所を後にしてカラハタという宿へ向かった。

地図では分かりにくかったがこの町は相当大きいらしく人通りも多いためちょっとでも気を抜くと迷子になってしまいそうだった。

特に言われた大通りへ出ると人は更に多くなり出店が並んでいるため人とぶつからずに進むほうが困難になっていた。

3人は縦に並んで人と出来るだけぶつからないようにゆっくりと進んでいった。

少しばかり進むと赤い看板を見つけた。恐らくカラハタだろう。

店の目の前まで来ると倒れこむように流れて入って行った。そんな入り方をするもんだから受付のおじさんもビックリしていた。

「あんたら大丈夫かい?」

「だ、大丈夫です。それよりも2部屋とりあえず2泊分とりたいんですけど大丈夫ですか?」

ここで宿をとらないともう一度今からあそこに戻る元気はない。勝手に願いながら叶人はおじさんに聞いた。

「大丈夫だよ。はい鍵。部屋は3階の303と304号室ね。うちは代金後払い制だから料金は帰りにお願いね」

「ありがとうございます!」

叶人は鍵を受け取ると宿をとれてキャッキャと喜ぶ女子2人に鍵を1つ渡した。

「お前らは2人で1部屋だけどいいよな?」

「もちろんよ!ほらニーナ行こっ!」

「はいっ!」

2人は階段を駆け上がっていった。木の階段なので少しミシミシと音がしていた。

叶人は後を追ってゆっくりと3階まで上がった。

3階につくと廊下があり少し進んで行くと303の扉があった。隣はもちろん302と304である。304には愛梨とニーナがいる。まぁ何か起こるとは思えないが何かあっても隣だし大丈夫だろう。

鍵を使い扉を開けるといい景色が広がっていたわけではないが窓から入る光はなかなかの日当たりで、下を見れば先程の大通りを見下ろすことができた。

叶人は荷物を置くとベッドに飛び込んだ。

「ハァァァァ久々のベッドだー」

叶人は久し振りのベッドの心地良さに包まれながらまだ正午少し過ぎだというのにも関わらず寝てしまった。

2日後の決闘のことも忘れて……。

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英雄妹と平凡兄の異世界日記 高雨未知 @knott

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