18日目ー無礼なイケメン

夕飯も終わり眠くなってきた頃。

叶人は焚き火の前であくびをしていた。

愛梨とニーナは今日の一件ですっかり仲良くなり女子トークをテントの中で楽しんでいた。

「えー、ほんとに?それ羨ましいぃー」

「そんなことないよー。愛梨さんの方がいいですよー」

声は叶人の耳にもしっかり入ってくるくらい賑やかであった。

「っし。そろそろ寝ようかな」

叶人は焚き火の火を消し、重い腰を持ち上げた。

そして翌日の水を入れる為に川へと向かった。

ボトルの蓋を回すとキュッと小さな音が鳴ると同時に本体と分離した。

叶人は膝をつき、川の中に手と一緒にボトルを突っ込んだ。

コポコポと音を立てながらボトルの中に水が入っていくのを感じた。

今日は継続して能力を使い続けていたので疲れがいつもより多く出ていた。

水がボトルに満杯に入ったので叶人は再び蓋を回した。

目をこすりながらテントへと向かって歩いていると叶人は一気に眠気の冴える光景を目前にした。

タオルを一枚巻いただけの愛梨とニーナが着替えを片手にこちらへ歩いてきていた。

叶人は2人から目が離せなかった。その視線は男なら誰しも向かうであろう所へとしっかり向いていた。

2人は叶人に気づいたらしく2人揃って細い目でこちらを睨んでいる。

「な、何だよ?」

「何って…兄ィが私たちにやらしい目を向けてるからでしょう?」

「その通りですよ」

ニーナにも言われて少しショックだが確かに落ち度は俺にある。

だがしかし、俺にもまだ反論はある!

「お前らもなんでこんな所から既に服を脱いでんだよ?それで俺にやいのやいの言ってるけどそれはちょっと違うんじゃねーの?」

そう、こいつら2人が川から少し離れているにも関わらずここから服を脱いでいるのが悪い。

そうだ、そうに違いない。そう言い聞かせた。

「はぁ、あんたがここにいるなんて知らなかったから仕方ないでしょ?ほら早く行って」

愛梨は手でシッシッと俺を早く行くように手で誘導した。

「分かったよ。今回はお互い様。これで終わりだ。じゃ俺はもう寝るから。おやすみ」

「ん」

「あ、おやすみなさい!」

愛梨はそっけないもののニーナはしっかり挨拶してくれた。しかも屈託のない笑顔で。

やっぱりニーナは可愛い。

改めてそう確信した夜だった。

というか思い返せばさっき見たタオル一枚のニーナはスタイルの良さがしっかり出ていた。

思い出しただけで叶人は鼻血を出しそうになっていた。

この程度で鼻血を出していてはこの旅は保たないな。と思いながらテントに入って寝転がった。

疲れからかそのまま何も考えることなくスッと眠りに落ちてしまった。


翌朝気持ちよく目覚めた叶人はいつも通り朝ご飯を作るためにテントを出た。

となりのテントからは物音一つ聞こえない。

まだ2人ともぐっすり寝ているのであろう。

まだ少し早いので起こすのは後にすることにして叶人は朝ご飯を作り始めることにした。

鍋に水を入れて火をかける。

グツグツと沸騰した水が音を立てた。

切った食材に調味料を入れると辺りにはいい匂いが広がった。

そのまま少しの間煮込んでスープが完成した。

出来るまでの間に時間がそこまでかかっていた訳ではないが冷める前に食べてもらいたいので2人を起こそうとテントの幕を開いた。

「おーい2人とも…」

叶人がテントの中を見ると2人の姿はなくテントはもぬけの殻だった。

叶人がテントから顔を出して辺り一面をグルッと見回していると2人が少し離れた場所からこちらへ歩いて来ている様子が見えた。

「兄ィ何やってんの?朝っぱらから私たちを襲うきだったの?」

愛梨は笑いながら歩いている。その姿は小悪魔というより魔じy…。いや、なんでもない。

「カナトさん、おはようございます!」

ニーナも笑って俺に手を振っている。

その姿は愛梨とは正反対な天使いや、聖母の様である。いや、女神でいい。

朝から心を浄化された叶人の顔は緩みに緩んで口角と目がくっつきそうなほどににやけていた。

やはり愛梨からの白い目で見られることに変わりはなかったが。

「んで、何で私たちのテントなんて覗いてたの?」

「ん?あぁ、朝飯が出来たから起こしに行こうと思ってな。まぁいなかったんだが」

叶人は少し溜息交じりに応えると愛梨はそんな少しの反応も見逃してはくれなかった。

「あれ?兄ィ今ちょっとがっかりしてた?」

「んなっ?!」

些細な反応に気づかれて叶人はさすがに焦った。

こんなに俺の反応を見抜くって、我が妹ながらちょっと怖くなってきた。

その才能自体は素晴らしいんだけどね。

でもちょっと怖い。

「兄ィ、もしかしてあんた…」

「さ、さぁ朝飯にしようぜ!」

愛梨が何か言おうとしているのを遮って何とか本題へと持っていくことができた。

愛梨の視線が痛いのは変わらなかったがその視線を帳消しにするほどのニーナの朝ご飯への目の輝きが本当に神の加護の様に感じた。

ご飯に対してのあのキラキラした視線を俺に向けて欲しい。

だなんて思いながらスープを3つの器に取り分けた。

「はい、まだ暑いから舌ヤケドすんなよ」

「はいはーい」

「ありがとうございます!」

愛梨は前の世界でもこんな感じでいつも素っ気なく色々流していたっけか。

それに対してニーナは元気だ。よく一日中こんなに元気に過ごせるもんだ。ちょっと元気すぎるきもするんだが。

だがそこも可愛い。いや、そこが可愛い。

「じゃ、いただきます」

叶人は手を合わせて合掌し、スプーンに手をかけて、器をもう片方の手に持ち食べ始めた。

2人から「いただきます」が聞こえないな。

と思った叶人は2人を見ると既に器の半分以上を食べていた。

「お、お前らなんか食うの早くない…?」

「こっちは朝から色々やってたのよ仕方ないでしょ」

愛梨は食べる手を止めずに答えた。

掃除機で吸っているかの様な勢いでスープが無くなっていく。

「お、お代わりまだあるからご自由に…」

こう答えるしか出来なかった。こんなにバクバク食べている愛梨を見るのが初めてだったから驚いていたのだ。

「それよりもお前ら朝から何やってたんだ?」

朝から2人がいないなんて何をやっていたのか分からない。行動が読めない。

なんせ昨日仲良くなったばかりのなかである。

行動が読めなくても仕方ない。

「・・・・」

愛梨は黙々と食べていてこの様子では食後までは話さないだろう。

「私が答えましょう」

ニーナは食べる手を止めて叶人を向いた。

いきなり目が合ったのでちょっとドキッとしてしまう。健全な男子高校生なら仕方ない反応だ。

「私たち2人は昨日の訓練で実力不足を実感したんです。だからこれから朝早くに起きて2人で特訓しようって」

「へぇ……」

2人がそんな風に考えていただなんて思ってもみなかった。昨日仲良くなったしこれから頑張ろう!

みたいな感じに思っていると思っていた。

けどこの2人は違っていた。

昨日のことで実力不足を感じて向上を目指して特訓する姿勢には大きな成長を感じた。

やはり昨日の特訓はやって良かった。と心から思うことができた。

「うっし!今日もしっかり頑張るか!」

叶人はいきなり立ち上がって拳を高々と上げて心からのやる気を体で表現した。

それに驚いた愛梨はびっくりしてお代わりを入れようとしていた器を鍋の中に落としてしまった。

「あぁぁぁぁぁ!」

「な、何だ?」

「何だじゃないわよ!バカっ!」

パチンという音と共に頬に衝撃が走った。

側から見ていたニーナはニコニコしながら目の前の光景を楽しんでいた。

楽しそうなのはいいんだが助けて欲しかったという気持ちも否めない。

でもそんな中でもこの日常を楽しんでいる自分がいたことも間違いではなかった。


「じゃあ準備もできたし行くか」

腫れた頬に赤い手形を付けた叶人はリュックを背負って向かう方向へ指をさした。

「ったく…キメ顔しても顔が腫れてて元から酷いのが更に酷くなってるわよ」

「うるせー!誰のせいだと思ってるんだ」

赤く腫れた頬は未だ治りそうにない。

能力を使ってなかったとはいえここまで強いとは思ってなかった。これで能力を使われていたらと思うとゾッとする。

「まぁまぁ今日は隣町のマシイマに着く予定ですし着いたらゆっくり羽を伸ばしましょう」

ニーナはリュックをよっこいしょと持ち上げて肩に掛けた。

そうして俺たち3人はまたいつも通り歩き始めた。

森は出口に近いようで先の方が拓けている。

この辺りになってくるとモンスターは少ないようでモンスターに襲われることはなかった。

木々が少なくなっていきついに森を抜けた。

森を抜けると少し離れたところにちゃんと道があり目的の町へと続いていた。

「やっと森を抜けたな」

「ほんとは馬車とか乗りたいんだけどね…」

「そうだ何で使わないんだよ?」

言われるがまま歩いてはいたけど言われてみれば何でそういう乗り物の類を使わないのだろう。

使えば絶対早いのに。

「それは…まぁ些細なことなんだけどね。ちょっと乗れない理由があるのよ。また機会があれば話すわ」

愛梨は何かを隠している。それだけは分かったが結局その話は今回のところはそこで終わった。

その後も変わらず歩いていると遠くから微かではあるが声が聞こえてきた。

「……ん…」

「ん?今何か聞こえたか?」

叶人が後ろを振り返ったが誰もいなかった。

気のせいかと思ってまた前を向いて歩き始めたがやはり声は聞こえていた。

「…さーん…ん…」

気のせいではない。

再びサッと後ろを振り向くとモクモクと砂煙を上げながら誰かがこちらへ走ってきていた。

「おい、あれ誰か分かる?」

叶人は女子トークを楽しんでいた2人の肩をトントンと叩いて聞いた。

「んー。あんな遠くにいると見えるものも見えないわよ…ちょっと待って誰かの名前呼んでるんじゃない?」

愛梨が目を凝らして見ている横でニーナは耳を澄ましていた。

「ほんとですね。誰かを呼んでいるようです」

ニーナはもっとちゃんと聞こうとして手を耳に当てた。

「ん?この声ってまさか…」

ニーナはこの声の主を知っているようだ。

叶人はもちろん知らない。女の声ならまだしも男の声など気になるに決まっているだろう。

「ニーナはこの声の人知ってるの?」

「え、えぇ恐らくあの人だと…」

ニーナは顔を青くしていた。そんなに嫌な相手なのだろうか。

「ニーナさーん!」

はっきりと声が聞こえてきたと同時に姿もはっきりと見えた。大きな剣を背中にかけ、白い鎧を身にまとった金髪のそこそこイケメンな男だ。

「ヒッ…」

ニーナは明らかに怯えていた。体が少し震えている。

男は目の前までくると急ブレーキをして止まった。俺たちに何か言うのかと思えばその目はまっすぐニーナだけを見ていた。

「お前誰だよ?」

叶人は少々無礼なこの男に少しばかり腹が立ったので初対面でも敬語なんか使わずにキレ気味で言った。(叶人はいきなりタメ語や馴れ馴れしくする人間が大嫌いなのである。あとこういうチャラそうな男も。)

「ん?君こそ誰だい?"僕の"ニーナさんと一緒にいるってどういうこと?」

"僕の"だと。ふざけるな。ニーナさんの様な天使はお前なんかのものじゃない!

だなんて言えないのでとりあえず名乗っておく。

「俺は叶人だ。ニーナさんと妹の愛梨と一緒に旅をしている」

「へぇ…君がカナト君か。思ったよりも平凡な男だね」

「あぁん?」

さすがに叶人もイラッとした。平凡だというのは分かっているが初対面のやつにこうも言われるとイライラする。しかもニーナのことを"僕の"とかほざいてるし。

「まぁまぁ落ち着いてくれよ。僕は君に頼みたいことがあるんだよ」

「何だよ?」

「君に決闘を申し込む!」

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