17日目ー新たな絆
木の下でくつろいでいた叶人は2人の事が気になって仕方がなかった。2人というのは言うまでもなく愛梨とニーナの事なのだが。
先程格好つけたセリフを言って2人にやる気を与えようとしたまではいいのだが、見た感じではまだロボットに傷を与えることが出来ていないようだった。
「あの時間であの2人が戦っても傷のつかないロボットって……俺やりすぎちゃった感じかな?」
そう思いながらも叶人には手出しすることは出来ない。むしろ手出ししても1番弱いし足を引っ張るだけなのだろう。
「頑張れ、としか言いようがないな…」
そう言って叶人は空を見上げた。
空は雲ひとつない青空だった。
そういえばあの日の空もこんな空だったか。
「ハァッ!!」
愛梨が剣を振り下ろすと同時にニーナはロボットの背後から同様に斬りかかった。
愛梨の攻撃を防いだもののロボットは背後のニーナの攻撃は防げなかったようだ。
背中の装甲にそれなりの切り傷ができた。機械なので硬く、傷が深い訳ではないのだがそれでも初めて与えることができたダメージだった。
ロボットの弱点は人間とある程度同じ様に叶人は作っていたらしく、背中に受けた傷はさすがに応えたらしい。
「やった!初めてのダメージです!」
ニーナはピョンピョン飛び跳ねて喜びを身体全体で表していた。
それを見た愛梨は初めて鉄棒で前回りができた幼稚園児の様だと思っていた。
「ほら、まだ油断しない。こいつをさっさとぶっ壊すわよ」
「当たり前です!」
愛梨とニーナは数時間前までギャーギャー騒いで口喧嘩していた時とは明らかに違う雰囲気を醸し出していた。
それはまるで本当に別人の様だった。
「ようやく私にダメージを与えたようじゃな。だがまだまだ私を倒すにはダメージが浅いようじゃ。さぁ来い」
愛梨とニーナは先程挑発された恨みをまだ返していない。
だから今の愛梨とニーナはこのロボットが思っている以上の実力を出せるはずだった。
2人はまた一気に走り出して行った。
さっきよりも強く足に力を込めて。剣の速度は次第に速くなっていき、切っ先に触れて切れた周りの枝や葉っぱが宙を舞っていた。
「これならいける…!」そう2人は確信した。
……だが現実はそう簡単に事が進むようには出来ていなかった。
息を切らして止まってしまった2人の間にはピンと姿勢が伸びたままのロボットがいた。
傷の数はもちろん増えていたのだが致命傷になるような傷はつけられなかった。
というよりロボットがつけさせなかった。
ロボットは常人にはついていけないようなスピードの剣が2つも向かってくるなかで、剣を上手い具合に受け流して急所に当たらないようにダメージの少ない方へと流された。
ロボットがあれ以上の力が出ないと思ってたかをくくっていた2人の誤算だった。
あのロボットはこの2人がやっても勝てないレベルの強さを隠し持っていた。
英雄である愛梨は基本的にチームメンバーと協力しながら戦ってきたので個人の能力が強いとは言えどもドラゴンを1人で倒せるレベルでは無かった。
ニーナも剣術学校で成績が上位だとしてもそれはあくまでも学校での話だ。
愛梨にはもちろん劣るし、それに実戦経験もほぼゼロに等しい。
今愛梨の剣さばきについていけている事自体が奇跡だと思っていた。
それでも個々の能力は低くない。むしろ平均よりは余裕で高い。
そこらでうろついている剣士や冒険者に比べればその差は歴然としている。
それでもこのロボットには勝てない。
叶人が作ったロボットでこのザマだ。本物の元隊長を相手すると考えるとゾッとした。
「クソ…私たちじゃもう歯が立たない…」
「まさかこんなに強いとは思ってませんでした」
だがまだ2人とも誰もが持っているはずの当たり前のものを使っていない。というより使えないと言った方が正しいだろう。
使えない理由は訓練前に遡る。
ー訓練前
「お前らには1つだけ条件をつけさせてもらう」
叶人は2人に向けて人差し指を立てた。
「何よ?あんたいつ私たちに条件つけられる程偉くなったのよ?」
愛梨は相変わらずの態度を兄に向けていた。
「で、条件というのは?」
ニーナは首を傾げて聞いていた。
ほんとどんな仕草も可愛い。マジで天使じゃん。
癒されるわー。と思いながらも叶人は顔に出さないように必死に堪えた。
「条件ってのはな、能力を使うなってことだ。ニーナの能力はまだ知らないけど使わないでくれ。愛梨のやつなんかそれこそチートみたいなもんだしな」
「あんた私を舐めてるでしょ?こんなクソロボ能力がなくたって余裕よ」
愛梨は自信満々な顔で言った。
ニーナはとりあえず分かったらしく
「分かりましたっ!」
と軽快に答えた。
叶人はまた癒されていた。
そんな流れを経て今に至っている。
「あーもう!能力が使えたらどんなに楽か!」
「たしかにアイリさんの実力行使パワーオブストライカーなら一瞬で壊せたかもしれませんね」
愛梨の能力である実力行使パワーオブストライカーは自身の能力を爆発的に高めることができる叶人の能力と同じ超レアな能力である。
身体能力は最高10倍にもなると言われているがそこに到達する前に肉体が耐えられなくなるためそこまでは使わない。
愛梨は普段約3倍くらいしか使わない。
「あんたの能力聞きたいところだけどまずはさすがにこいつを倒さないとね…」
「そうですね、話はそれからですね…」
そろそろ日が沈みそうになっていた。
沈んでいく太陽が2人の汗を輝かせていた。
2人は視線を鋭くして剣を構え、愛梨がコクリと頷いたのを合図に走り出した。
「オリャアアアアア!」
剣を2人が当てる寸前でロボットは突如として消えた。2人の剣は空を切った。
「なっ…何で消えたのよ?」
愛梨は辺りを見回してロボットを探していた。
ニーナももちろん探している。
だがロボットは一向に見当たらない。
愛梨とニーナが必死にロボットを探していると木の陰から何か物音がした。
2人が視線をそこに集中させているとそこからは叶人が出てきた。
「兄ィ、あのロボット消えたんだけど?」
愛梨はすぐに叶人の元へ寄っていった。
後からニーナも小走りでやってきた。
「消えたから来たんだよ。俺がこの時間に消えるように設定しといたんだ」
叶人は淡々と説明した。
しかしそんな説明でこの2人が収まるはずがない。
なんせ挑発されたうえに勝ち逃げされたようなものだから2人はそれなりにイライラしていた。
「何で勝手に消えるようにしてんのよ!あれは私たちがぶっ壊すのよ!」
「そうですよ!これはひどいです!」
愛梨とニーナから非難の嵐が飛んでくるが叶人は気にせず続けた。
「お前らがイライラすんのも分かるけど俺はあえてああしたんだ」
愛梨とニーナは一旦黙ったようなのでそのまま続けることにした。
「あえてイライラさせておくんだよ。その悔しさやイライラを明日からの実戦で発散してほしい。しかもお前ら予想以上に仲良くなったみたいだしいいじゃん」
「あ…」
愛梨とニーナは今になってお互いを認めたことを理解した。
顔を合わせては言い争いばかりしていた2人が今では汚れてはいるもののキラキラした笑顔でお互いを見合っていた。
「さぁ、もうすぐ夜だし野宿の準備でもしよう」
叶人は荷物を置いている木へと向かって歩いて行った。
その後を追って2人は肩を並べて歩いていた。
何か喋っているようだがあんな口喧嘩ではないことが前を歩く叶人でも分かった。
2人の話には笑いが混じっていたからだ。
叶人はニッと微笑んで空を見た。
少しずつ暗くなっていく空には少しずつ星が出てきた。
明日も晴れるといいなぁ。と思いながら叶人は夕食の準備を始めた。
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