16日目ー訓練

「さて、これからは仲間ということでお前らに1つ頼みがある」

朝起きて出発の準備をしている時に叶人は言った。別にこのタイミングじゃなくてもよかったのだが、また言い争いになってからでは面倒くさいったらありゃしない。

「何よ?朝っぱらから頼みって」

もちろん愛梨とニーナは分かる筈がない。

しかしこれはこの2人に関係する。むしろこの2人がメインの頼みだから。

「まぁ怒らずに聞いてくれよ」

今になって怖くなってきた。この2人に怒られては俺には収集がつかなくなってしまう。

というか今からしようとしてること自体出来なくなってしまう。

2人は準備をする手を止めて俺をじっと見ている。

こりゃ言うしかなさそうだな。

「お前ら2人にちょっとした訓練?みたいなものをやってもらう」

キャー言っちゃた。心臓の音が周りの木々を揺らしそうな程バクバクしてる。

「私たちに訓練ってあんた私たちより弱いのに何さそうとしてるのよ」

「そうですよ。カナトさん言っては何ですが私よりも弱いんですよ」

それを言われては何も言い返せない。それに正しいから本当に何も言えない。悲しいな。兄としての威厳はいつも通りゼロだ。むしろマイナスだ。

「まぁ聞けって。訓練と言ってもただの訓練じゃない。チームワークを発揮する為の訓練だ」

言った瞬間2人は見事に「はぁ?!」と見事にハモったツッコミを入れてくれた。

なんだ、意外とあってんじゃん。

感心しているとすぐに2人から意見が矢のように飛んできた。とても素早く。

「チームワークですって?そんなのこんなギルドの下っ端娘と私じゃ無理に決まってるわ」

「私もちょっともてはやされてるだけで調子に乗ってるどこかの女とは出来ません!」

もーこの2人はすぐこれだよ。絶対一言多いんだよ。困っちゃうな。

「とりあえず呼び方から変えよう。訓練はそれからだ」

「何よこの女をまさか名前で呼べって言うの?」

愛梨は眉間にしわをよせて明らかに嫌そうな顔をしている。もちろんニーナも同じく。

「これから旅をしていくのにそんなに仲違いしててどうするんだよ。お前ら2人は強い。そんなお前らが協力すれば強敵もスムーズに倒せるだろ?」

「そりゃ…そうかもしれないけど…」

愛梨はやはり協力することの大切さを知っていたので多少なりとも俺の意見には同意のようだ。

もちろんニーナも同じく、首を下げて悩んでいた。(それにしてもこの2人所々息が合ってる。協力すれば本当に凄いことになるかもしれない。)

「てか訓練ってどうやってするのよ?」

愛梨は今になって聞いてきた。少し乗り気になってくれたのだろうか。そうだったら嬉しい。

「ん?あぁ言い忘れてたな。ニーナ、剣術学校の先生ってどんな人だった?」

突然話を振られたニーナは私ですか?みたいな顔でこっちを見てきた。

やめろ。そんな顔で見ないでくれ。目が離せなくなるじゃないか!

なんて思っていると愛梨からの痛い視線を受けて慌てて緩みに緩んだ表情を直した。

「剣術学校の先生ですか?どうしてそれを?」

「いや、ちょっと考えがあってだな。とりあえず教えてくんない?」

ニーナは不思議そうな顔をしていたがちゃんと教えてくれた。

「先生は確か王国専属騎士部隊の元隊長で、1人での戦いから仲間との戦い方も全てを1人で教えていました。とても強い人です。確かドラゴンも1人で倒せるはずです」

「なるほど…ってえ?王国専属騎士部隊の元隊長?」

思ったよりも凄い人が教えててビックリした。どうりでニーナも強いはずだ。

「よ、よし分かった。ちょっと待っててくれ」

そう言って叶人は目を瞑り頭の中で想像を始めた。見た目はゲームにいる強いおっさんでいいとして、その強さが問題だ。

ドラゴンを1人で倒せるレベルとなると相当な強さの人物のはず。そして人に戦い方を教えることも出来て……。尚且つ、ロボットであるが人間同様滑らかな動きをしてちょっとの事じゃ壊れない丈夫なロボットを。

「ハァッ!」

叶人が声を上げると叶人の目前にガチガチに武装したおっさんが現れた。

見た目は白髪の長髪で髭も白くある程度生えていた。ゲームによくいる強いおっさんそのものだった。

「このロボットが今からお前らの先生だ」

「兄ィ、あんたいつの間にこんなの作れるようになってるのよ…」

愛梨はどうやら俺の能力の変化に気づいていないらしい。

物を生み出すことがこうも簡単になるとは正直思っていなかった。ロボットすらこんな簡単に生み出すことができたし。

「あの…ロボット?って何ですか?」

「あ……」

そういえばニーナは俺たちが転生して向こうの世界から来たことを知らないんだった。

今この世界の技術力ではロボットなんてあるはずがない。ましてやこんな高性能ロボットを。

「お、俺たちの住んでた故郷にある機械?かな」

嘘は言ってない。間違いなく日本で生産されていたから、断じて間違いではない。

「ほぇー。カナトさんの住んでいたところは技術の発達が凄いんですね」

ニーナは感心してロボットをジロジロと見回していた。すごくキラキラした目で。

「そ・れ・よ・り!あんたこのロボットで何をしろって言うのよ?」

「ん?あぁ言ってなかったな。お前ら2人で協力してこのロボットを破壊するんだ」

俺はやっとこの練習の趣旨を伝えた。

瞬間の沈黙の後愛梨とニーナからまたしても矢のように素早く意見が飛んできた。

「あんたこのロボットを"2人で"壊せって本気で言ってる?あんなガキンチョに頼らなくたって私1人でで充分よ!」

「そうです!破壊しろだなんて私1人でも出来ますよ。こんな人に頼らなくたって!」

2人はお互いを睨み合いグルルルルと聞こえてきそうなほどに鋭い眼光で威嚇をしている。

「何でお前らはそうすぐにいらない一言を言って喧嘩しようとするんだよ!」

「この女が先に言ったんでしょ!」

「あなたの方が先でした!」

あぁもう本当にイライラするよこいつら。

何でこう喧嘩っ早いのか…。



結局この騒ぎが収まるのに15分程かかっていたらしい。お陰で時間が少し無駄になってしまった。

「お前らなぁ…。最初に言ったろこれはチームワークを鍛える為の訓練だ。2人で協力してやらないと意味がないだろ」

「何でよりによってこんなガキンチョみたいな女なのよ…」

「あ!今また私に何か言いましたね!」

隙さえあればすぐ喧嘩しようとするのは本当になんなんだよ。いい加減イライラしてくる。

「いいからやるんだ。何かあったら呼んでくれ。俺はその辺で寝てるから」

俺は2人に全てを任せて寝心地の良さそうな木を探してそこに寝転んだ。



「はぁ…何であんたと2人なのかしら…」

愛梨はニーナと2人になって先程よりもため息の数が増えていた。

「私だって本当は嫌ですよ!カナトさんがやれって言ってないとやってませんよ!」

ニーナも仕方ないからやってるので少しムキになっている。

「もういいわ。あんたはそこで見てなさい。私がチャチャっと終わらせてくるわ」

「そうですか。じゃあさっさと終わらせてきて下さいよ」

愛梨とニーナは再び睨み合った後プイッと後ろを向いて愛梨はロボットの方へと向かって歩いて行った。

「さぁやってやるわ…こんなロボット直ぐにガラクタに変えてやるんだから」

腰元に携えた剣を鞘から抜き出して愛梨はどんどんとその歩くスピードを上げて行き、ついにはダッシュになった。

「ハァァァ!」

愛梨はロボットに剣が当たる間合いまで飛び込んで行った。

そんな間合いまで詰められてもロボットに動作は無く、ただ棒の様に突っ立っているだけだった。

「兄ィもバカね。私を鍛えるだなんて兄ィには100年あっても足らないわよっ!」

愛梨が剣を振りかぶった瞬間目の前にいたはずのロボットの姿が視界から一瞬にして消え去った。

「なっ…何処に行ったの?」

愛梨は直ぐに体制を整えて辺りを見回したがどこにもあのロボットの姿がない。

すると後ろから異様な気配を感じて振り返ると、そこにはいつの間にか剣を抜き、振りかぶったロボットの姿があった。

「いつの間に…」

愛梨はロボットにより振り下ろされる剣を防ごうとしたが少し反応が遅れて鎧に大きな損傷を負ってしまった。

これ以上やられないように愛梨は直ぐにロボットとの距離を置いた。

しかし愛梨は怒りに燃えていた。鎧に傷をつけられたことなんかでは無く背後を取られた自分の弱さに対する怒りだった。

愛梨は背後を取られたことが師匠であったアメノ以外に無く、久し振りに背後を取られたことによる屈辱を実感した。

「やってくれたわねクソロボット…今すぐぶっ壊してやるわ!」



「そろそろ終わったかな?」

ニーナは愛梨が戦っている間ずっと持ってきたギルドにあった図鑑を読んでいた。

図鑑にはこの世に存在するモンスターが載っている。この旅で役に立てば、と持ってきたのだ。

愛梨の様子を見ようと思い戦っている場所へ向かうとそこには傷1つないおっさんロボットと鎧がボロボロになり息を切らした愛梨の姿があった。

「な、何があったの…」

見ていても何も起こらないのでとりあえずニーナは愛梨の元へ駆け寄って行った。

「ちょっと、大丈夫なんですか?」

ニーナが近づいて来てやっと気付いた愛梨は少し微笑んだ。

「どうしたの?私がこんなのにやられて無様ねとでも笑いに来たのかしら?」

英雄が目の前でボロボロにやられているのに笑ってられるほどニーナも鬼じゃない。

どちらかというと本気で心配していた。

「そんな訳ないでしょ!どうしてこんなボロボロになってるんですか…」

「簡単な話よ…あのロボットが強かった。ただそれだけの話よ」

ニーナは驚いた。

あのロボットとやらがそれほどまでに強いとは思っていなかった。

ここまでくると自分も参戦せざるを得ない。

そう判断したニーナはサッと剣を抜いた。

「ちょっと、あんた何やってんのよ?」

「何って私も戦うんですよ!」

いつも言い争いをしているニーナもさすがに目の前でやられている人を放っておけない。

「さぁやりますよ。まだいけますよね?英雄さん?」

「当たり前でしょ。私をバカにしてるのかしら?」

ニーナが問いかけると愛梨はまた微笑み答えた。

「じゃあ行きますよ!」

ニーナが声を上げると突然ロボットが声を放った。

「ようやく2人で戦う気になったようじゃな」

2人はロボットが突然喋るもんだからビックリして目をパチクリさせている。

「しゃ、喋った…」

愛梨は未だに信じられない様子でロボットを見ていた。

「え、あれ喋らなかったんですか?」

人間の形をしていたので喋る物だとニーナは思い込んでいたのだが、愛梨の反応を見ると今まで喋っていなかったらしい。

「そうよ。ずっと私が攻撃を仕掛けたらそれを避けては私に攻撃していただけだったもの」

それを聞いてニーナはまたまた驚いた。

愛梨の剣さばきが速いことは知らない人がいないほど有名な話だった。

その剣さばきを避けて、さらにはダメージを与えたそのロボットに驚いていた。

「さぁかかって来い。2人まとめて相手をしてやろう」

ロボットは落ち着いた口調で喋っているが、こう言われると煽られている気がして仕方ない。

「ねぇ戦うって言ったけどここは一時私たちは休戦してこのウザいロボットぶっ壊さない?」

愛梨がニーナに問いかけるとニーナは少し間を置いてニッと笑った。

「奇遇ですね。私もちょうど同じこと考えてました」

2人の目的、気持ちは完全に一致した。

「ハァァァァッ!」

2人はロボットへ向かって駆け出した。

ロボットは今まで通り棒の様に突っ立って動かなかった。

まず愛梨が斬りかかりロボットは紙一重でそれをかわして続くニーナの攻撃も華麗にかわした。

ロボットはまた落ち着いた口調で喋り始めた。

「あなた達はこの戦闘を行うとき何と言われましたか?チームワークを鍛える訓練だと言われましたね?あなた達が今やっていることは1人が畳み掛けまた1人が畳み掛ける。チームワークでも何でもありません。もっと連携を取りなさい」

ロボットはこの状況を冷静に分析し、更にはアドバイスまで2人に与えた。

このアドバイスがあまりに的確だったため2人は言い返すことが出来なかった。

「連携って言ったって、私やったことないのにいきなり言われたって…」

「私も無いですよ。どうすれば…」

すると突如叶人のため息と声が聞こえて来た。

「おいおいお前ら。やっと一致団結したと思ったら今度はすぐに意気消沈か?」

叶人はどこから見ていたのかは分からないが今までの出来事を全て知っている様な顔ぶりだった。

「兄ィ…あんたまた何か企んでるの?」

愛梨は呆れ顔で叶人に問いかけた。

「まぁ仕組んだと言えば仕組んだな。だけど俺が仕組んだのはお前ら2人がチームワークを発揮できるためのことだけだ」

「私たちのチームワークを発揮するため?」

「あぁそうだ」

愛梨に喋っていた叶人はニーナの方を向いた。

「おいニーナ。剣術学校て成績上位だったんだろ?だったら教科書にも載ってたはずだよな?」

「あ、そういえば…」

叶人はそれだけ言って微笑んだ後、背を向けてそのまま歩いて行った。

「いいか?お前らは絶対に出来ると信じてる。だからあえて俺は何も言わない。さっさとそれぶっ壊して旅を続けようぜ」

叶人の姿は木々の間に消えていった。

「私たちで出来ると思う?」

愛梨はニーナに聞いた。

少し考えた後ニーナは答えた。

「出来る?じゃなくてやるんですよ。私たちならやれます!大丈夫です!」

ニーナがここまで愛梨と積極的に協力しようとした事はこれが初めてだった。

少しずつではあるが2人は確実にその絆の糸をより太くしていっている。

「じゃあ行くわよ!」

「もちろんです!」

2人の少女は無傷のロボットに向かって地面を蹴り上げた。

まだ陽は沈みそうになかった。

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