15日目ー言い争い

「何故だ…何故こんな状況になったんだ…」

叶人が呆れ顔で見つめる先には2人の女が言い争っていた。一種の修羅場だろうか。

「あんたね、私を誰だと思ってるの?!勝手に割って入ってきた他人が図々しくしてるんじゃないわよ!」

「ちょーっと英雄だってちやほやされてる女の子が年上の私に偉そうにしないで下さい!」

まぁ言い争っているのは言うまでもなく愛梨とニーナなのだが。

目からは火花出てんぞってくらい激しい眼圧だったので俺の入れる隙間はなさそうだ。

旅が始まってからまだ2日目だぜ。こんな感じで大丈夫なのか?


事の発端は約2時間前に遡る。

1日目は特に何も無くただ歩いているだけで喧嘩になるような事は何もなかった。険悪な雰囲気ではあったのだが。

だが2日目に入って森が近くなってくるとモンスターが少しずつ増えていった。

勿論俺たちは戦うわけなのだが、問題はこの戦闘にあったのだった。

ニーナは言っていた通り中々の戦力を持っておりこれと言って心配は無かった。

ただ愛梨とニーナの自己主張が激しいがため我先にと突っ走って行った2人は戦闘中にぶつかるわ押しのかされるわでついに不満爆発。

戦闘こそ一瞬で終わったがそれ以降のここ2時間ずっと言い争いが続いていた。

「兄ィの担当者ってだけで偉そうなのよギルドの下っ端小娘が!」

「そっちこそカナトさんの妹ってだけで何をそんなに言える権利があるんですか!」

さすがにそろそろうんざりしてきた。

ここは兄として、漢として1つ止めに入ろう。

「お前らなぁいい加減仲直りしようぜ…聞いてるこっちが疲れるんだけど…」

言った瞬間鋭い2つの視線がこちらを睨みつけた。その威圧はスネイダーを目の前にした時の威圧より凄かった。

「兄ィには関係無いわよ!黙ってて!」

「カナトさんには悪いですがこれは私たちの問題です!口出しはしないで下さい!」

あぁもうどうすればいいんだ。

叶人が途方に暮れていると木々の間から音が聞こえてきた。

「モンスターか…」

叶人が剣を構えて戦闘態勢に入っているが女子2人は音が聞こえていなかったようでまだ言い争いを続けていた。

(あいつら何やってんだよ!)

急いで2人に教えようとしたが少しタイミングが遅れた。運の悪いことにモンスターは2人の真横から飛び出してきた。しかもモンスターはスネイダーの様に雑魚ではなくもう少し上位のモンスターであるベズリーだった。見た目は完全にクマだった。愛梨曰くクマのベアーとグリズリーの名前から来てるって言ってたか。

てかそれどころじゃねー!

「お前ら危ないぞ!」

俺が声を張り上げると2人はようやくモンスターに気づいたようで武器を取った。が、ここからが凄かった。2人は 「邪魔するな!」とハモったと同時に剣を振っていた。

俺が驚いたのはモンスターが瞬殺されていたことだ。傷口を見ると2人の剣の跡は見事に急所を通る形で切り裂いていた。

あのバカでかいモンスターを一瞬で殺るとは。

叶人が感激しているとふとある事に気がついた。

それさえ上手くいけばこのパーティーは最強の力を手に入れられるかもしれない。

「うっし。いっちょ試してみるかな」

叶人の想像していたことは簡単なことであり、難しいことだった。単純であるが複雑でもある。

この時の俺はその考えの実現があんなにも難しいだなんて思ってもいなかった。



「さて今日はこの辺で休むとしようぜ」

叶人は2人の争いが落ち着いた頃合いを見計らって野宿の提案を切り出した。

「そうね。今日は誰かさんのせいで余計に疲れたし」

「同感ですね。どこの誰かのせいでいつもよりも疲労がたまっていますし」

あぁーなんでこの人達は一言多いのかね。

しかし実際叶人も疲れていたし、今日はモンスターの出現が多かったため疲労が溜まっているのは確実だろう。

幸いにもここは川が近くにあるから川で体を流せそうだ。

「よし、俺は準備しとくから2人は川で汗流してこいよ」

俺は純粋な提案をした。この提案に欲なんか混じっているものか。

「いいけど、兄ィ覗いたら殺すわよ」

「さすがに私もそればかりはカナトさんを許すことは出来ませんのでご了承願います」

「やらねーよ!なんで俺がそんな風に言われなきゃいけないんだよ!」

そうだ。何で言われなきゃいけないんだ?

この煩悩なんて一欠片もない俺の脳みそがそんな事を考える訳がないだろう。

「兄ィ向こうの世界でなんかヤバい事してるって聞いたことあるから」

愛梨から威圧の視線を送られて俺は怯んでしまった。

「そ、そんな変な事した覚え無いぞ!」

話について来れていないニーナはなんのこっちゃと言わんばかりに俺を見ていた。

「ほぉー。じゃあ友達と一緒に合宿中女子風呂を覗くための指揮を執っていたってのも違うのね」

「なっ……」

何で知ってんだよこいつ!誰だよ?!バラしたの誰よ!

「その顔は心当たりあるみたいね。じゃあんたはここでちゃーんと見張りしててね」

クソッ俺の華麗なる計画がぁ!

「か、カナトさん…さすがにそれは引きますよ」

「やめてくれニーナ!そんな顔で俺を見るなあ!」

もう死にたい…。

仕方ないから俺は野宿の準備に取り掛かった。

テントのキットを2つ生み出してせっせと骨組みを組み立てた。何故キットなのか?

それは以前屋敷でテントを生み出したときテントを想像した時の話しだ。

実物のテントを見たことが無かったので形は出来たが耐久性がほぼ皆無だった。

だから今回はアニメで仕入れた情報を元にキットから生み出すことにした。

元から何かを組み立てる作業は得意だったのでスムーズに事は進んだ。

「んで、これを骨組みの上からかける…と」

テントが完成した。やることは無くなった。

「よし」

川の近くで見張りをしよう。

勿論この計画に変な欲など含まれていない。断じてな!

「あら、テント出来たのね」

「カナトさんはこんな物も作れるんですねぇ」

あれ?なんでこいつらここにいんの?

見れば髪は濡れており、木々の間から漏れる月明かりで2人の髪はキラキラと光っていた。

「あ、お前ら上がったのね」

テントを張っている間に結構時間が経っていたらしい。チクショー!

「じゃ…じゃあ俺も川行ってくるわ…」

俺はタオルだけ持ってトボトボ川へ向かった。

木々が少なくなって視界がだんだんと開けてくると目の前には美しい世界が広がっていた。

川は月と星を見事に映し出し空がそのまま川に映されていたため叶人はしばしその幻想的な世界に心を奪われていた。

「これは疲れも吹っ飛ぶな」

叶人は服を脱いで川へ一歩ずつ足を踏み入れた。

「ふぅー。あいつらも明日から仲良くなってもらわないとな」


叶人がテントへと戻るとまたまた言い争いが繰り広げられていた。

あ、これ仲良くするの無理じゃね?

「何であんたが兄ィと同じテントなのよ?!頭おかしいんじゃない?!」

「アイリさんこそなんでカナトさんのテントなんですか?!別にやましいことがないなら良いじゃないですか!」

「何よやましい事って!」

「自分で考えて下さい!」

こいつらなんなんだよマジで。

ニーナ連れてくるってなった時多少の覚悟はしてたけどここまでとはな…。

「はいはーい。お前ら今日はもう寝ようぜ」

何でこうなったかは知らんがもう寝たいしここはなだめておかないと。

「私も寝たいけどこの女があんたと同じテントで寝るって言ったからそれはダメだって止めてたのよ」

「何が止めるですか。アイリさんがカナトさんと同じテントに行くって言ったからですよ!」

おいおい俺感激で涙の湖作っちゃうぜ。

俺で争ってくれるなんて嬉しいわー。

「でもさ、お前ら女子2人が同じテントでよくない?」

そうだよ。それでいいじゃん。現に昨日もそうだったじゃん。

「嫌よ!絶対嫌!昨日一緒に寝て上げたけど寝相が悪いったらありゃしないわ。二度とごめんよ!」

「アイリさんこそ寝言がうるさすぎて中々寝られなかったんですよ!私こそごめんです!」

こりゃダメだ。こいつら喧嘩するほど仲が良いなんて言葉通じねえよ。

「兄ィこそテントもう1個作りなさいよ!」

「そりゃ無理だな。1つの物をずっと維持するとなると意外と労力使うんだよ。スマホとか小さいものなら全然大丈夫なんだけど、テントみたいに大きいものになってくると厳しいんだよ」

昨日一晩テントを生み出したまま寝ていてこの事実が判明した。

携帯やゲームは小さいからまず労力を消費するほどの大きさじゃないから気づかなかった。

大きいものを維持させようとするとそれなりに労力を使わないといけないということが分かったのだった。

「てな訳で限界は2個だ」

2人は犬が喧嘩する時のようにガルルルルと唸りながら目を合わせている。

「ほら、これから同じパーティーになったんだし仲良くなろうぜ?」

と言ったはいいもののこいつら仲良くなれるのか?

結局その夜は俺が寝袋を生み出して1人で寝た。

外で、テントの外で。生み出した本人がこの仕打ちはひどいぜ。言い出したの俺だけど。

キリがなかったので

「俺が寝袋を生み出してそこで寝るからお前らは1人ずつテントを使えば文句無いだろ?」

という提案をして現在1人寂しく寝袋の中でミノムシの気分になっているのだった。

それにしても疲れた。明日からはあの計画を実行に移していくしもっと疲れそうだ。

とりあえず今日は寝よう。明日に備えてゆっくりと眠ろう。

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