エピソード・9 胎動、ガルムザインMK-2
第59話 砂漠への第一歩
――ウナコルダ南西部をほぼ南北に貫くテルビス山地は、その終端部で海に向かい、南方海を睨むエピンドン半島の脊梁を成す――
三年ほど前に改訂版が出た軍用地図の記述を思い出し、ピエゾは無言でうなずいた。目の前には今まさに、その文章が伝える通りのごつごつとした岩壁のように見える山塊が、彼らの進路をさえぎって黒々と横たわっている。
だがその連なりの中ほど、進路やや右手に一か所――斧で切り込んだような鋭さで空が岩壁に突き刺さった場所がある。ピエゾたち三人を乗せたカプリコン型
「モロウブリッジ
「うンむ。バッファに着いたら、まずはハモンド軍の
彼ら三人、ピックアーブ三
帝国の最盛期に行われた海洋進出の拠点の一つ。そして、いまやウナコルダを掌握しつつある軍閥領袖ドローバ・ハモンドが、独立を画策したその事業の端緒で手中に収めた、交通と交易の要衝である。
海岸間近に迫るテルビス山地の岸壁のせいで、居住に適した土地の面積こそ乏しいが、ここからは毎週のように南方諸島への交易船が出るのだ。かの地で栽培されるサトウキビこそが、ハモンド軍の資金力を支える戦略資源であった。
「直接は会えなかったけど、ドローバ・ハモンドってのは豪儀なお人らしいね、兄貴。このカプリコンをポンと貸してくれたんだから」
「だなあ。いつもはうちのパルグルでトコトコ歩くか、せいぜいお前が輸送車を借りてきて、二台に分乗して掘り出し物を運ぶくらいだったが。こんな快適な旅は初めてだぜ」
――ふわぁ……ねえ兄ちゃん、海だよ、海! それにあンな大きな岩がすぐそこォ……
操縦キャビンの上では、三人のうち一番末の妹であるシグルンが、銃座について周囲を監視しているのだが――彼女も今のところは、目の前に広がり始めた雄大な眺めにすっかり目を奪われているようだった。
これまでの彼らの経歴は、もっぱら東の辺境に近い沿岸部での発掘だった。クヴェリの整備士ギルドという、大陸でも有数の買い取り先があるおかげで、一つ一つの
(こんな車輛を貸し出されて、バッファでは護衛の兵士までつけてくれるというんだ……って、ことはだ)
逆に、これから先の仕事がいかに歯ごたえのある代物か、ということが察される。
テルビスを越えバッファを発って向かうその先は、音に聞こえた「ペダル砂漠」――
現在の帝国が生まれるしばし前、「旧主」などと呼ばれる太古からアイボリアを支配した存在との間に、想像もつかないほどの多数の
現在の帝国が生まれるしばし前。「旧主」などと呼ばれる、太古からアイボリアを支配した存在との間に、想像もつかないほどの多数の
砂漠の深奥にあるというオアシス都市、テスコを終点とする街道のそれぞれ東西には、広大な古戦場が二箇所存在している。
ピックアーブ
生半可な装備と準備では、街道を外れたどこかで迷った挙句に太陽に焼き殺される――そのように畏怖を持って語られる魔境でもあった。
(まあ、つまり俺たちは運がいいってことだ! 筆頭騎士殿の指令書があれば、個人じゃとてもできないくらいの万全の用意をして、探査と発掘ができるってな……!)
「よし……ハブマック、シグルン! 今夜はあの港で一番いい店を探して、前祝いとしゃれこもう。こんな暑くて明るい土地柄だ。トリコルダ辺りとはまた趣きの違った食いもんがある事だろうよ」
「悪くないね……! それにバッファといえば大陸に流通する砂糖の、大元の出どころだ……なぁシグルン、なんかしゃれた菓子とかあるといいな?」
――あたいは酒がいいな……聞いたことあンよ、砂糖を絞った後の残りカスからはえらく強い酒ができるンだって。
ハブマックは酒は弱いが、その分甘いものに目が無い。自分基準で妹に水を向けているわけだが、当のシグルンはといえば三人のうちで一番の酒豪であった。
海に面した土地ならではの炙るような暑さは日暮れと共に影を潜め、陸からの涼しい風が吹きだすと、澄んだ空気の中で深い青に染まった空に、月と街の明かりが金色にきらめいた。
そんな夕闇の中を、三人の乗る
懐かしいロボアニメの世界に転生したら、俺のCVがあの人だった件 冴吹稔 @seabuki
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