エピローグ

 巨大な水槽で埋め尽くされた店内で金魚屋の女が叫び声をあげた。


 「ああ!しまった!鉢を置いて来てしまったよ!!」

 「またですか?あれ高いんだから止めて下さいよ」

 「夏生君。君取って来ておくれよ」

 「嫌ですよ。あーあ。最初に間違えて追い出さなきゃこんな面倒な事にならなかったんですよ」

 「んぁ~!?なっちゃんはアルバイトの分際で生意気だあよ。あんなイレギュラー知るわけないじゃないか」

 「なっちゃんて止めて下さい」


 うわあん、と女は地団駄を踏んだ。

 その喚き声を止めろとでも言うかのように店の扉が開いて、チリン、と鈴の音が鳴った。

 客が来た事に気付き、アルバイトの青年は金魚屋の女を無視して店内へ招き入れた。


 「ようこそ金魚屋へ。君が来るのを待っていたよ」


 店内の水槽で一匹の金魚がひと際強くルビーのような輝きを放っていた。

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あやかし金魚屋の葬儀帖 蒼衣ユイ @sahen

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