ひな祭り特別思いつき番外編



 ひな祭り特別企画という、ただの朝起きたら思いついただけの無計画企画w


 お楽しみいただければ幸いです。



番外編1



朝方姉妹はお雛様になりたい



 「ゆずがお雛様になるのぉっ!!」


 「お姉ちゃんもお雛様になりたいっ!!!」


 いつもは妹の柚子に遠慮して譲る姉ちゃんが、その日に限っては頑として譲らなかったから、よく記憶に残っている。


 あれは俺たちがまだ小学生だった頃、ひな祭り当日が日曜日。


 せっかくだからと、家族で時代劇好きな我が一家は遠出して、武家屋敷で有名なとある地区を訪れていた。


 その日は丁度観光客向けで立派な雛壇の隣で、女の子がお雛様、男の子がお内裏様に扮して写真撮影をしてくれるというイベントを行っており、父さんと母さんが真っ先に撮影するという意味不明なイチャイチャぶりを見せつけて周囲を沈黙させたが、撮影終了したらしたで、今度、姉ちゃんと柚子が一緒に撮ろうとかなり強引に俺の手を取った。


 すると、こうなった。


 「お姉ちゃん?ゆずがお兄ちゃんとお雛様するのっ!!だから、お姉ちゃんは後で!」


 この頃の柚子は今よりかなり勝気で同学年男子と取っ組み合いのケンカをして負かしてしまうくらいのじゃじゃ馬ぶり。更に末っ子特有のワガママなところもあった。


 「いつもはゆずちゃんに譲ってあげてるけど、これはダメ!!ようちゃんとお雛様するのはお姉ちゃんっ!!」


 対して、いつもは俺たち姉兄妹の理想的なお姉ちゃんたる姉ちゃんなんだが、この日ばかりはご覧の有り様で、普段は駄々甘やかししている妹に対して絶対に譲らないぞ感を全身から向けている。


 「姉ちゃん、柚子もケンカはやめろよー。他にも順番待ちの人いるんだぞ?」


 「お兄ちゃんは」「ようちゃんは」


 「「ちょっと黙っててっ!!」」


 こんな感じで取り付く島もない。そんなもんで当時はすっかり参ってしまい、この時点で着替えて写真撮影だなんてやる気をなくしてしまった。


 「あらあら、どうかしたの?」


 やがて、俺を蚊帳の外においていがみ合いを続ける姉妹。ほとほと困り果てる俺。色々アホらしくなってきた所に、衣装から着替えた母さんと父さんが戻ってきた。


 「柚子と姉ちゃんが、どっちもお雛様やりたいってケンカしだしたんだよ・・・」


 「おや、桃華はいつもこういう時は柚子に譲るのに珍しいね」


 そうなんだよな。思えば、昔も偶にこんなことが幾度かあった。しかし、当時の俺には思いあたるわけもなく、1人悩まされていただけだった。


 俺と同じ様に最初は首を傾けていた父さんだが、やがて、理由を思いあたったのか、一人納得すると母さんと頷き合ったりしていた。俺がどんなに理由を聞いても2人とも教えてくれなかったんだよな。


 「陽平くんに本当に大切な人が出来たら、きっと分かるよ」


 母さんは苦笑いして、それだけは教えてくれた。ただ、


 「桃華も柚子もお母さんの娘だものねぇ。仕方ないというべきか、でも、なんか嬉しいって思っちゃう私は母親失格なのかしら?」


 どこか懐かしい思い出に想いを馳せるような顔で呟いてから、父さんになんとも形容できない複雑な心境がありありと浮かんだ笑顔を見せていた。


 「や!ゆずが、お兄ちゃんの『お嫁さん』するのっ!!」


 「ようちゃんの『お嫁さん』はお姉ちゃんがするのっ!!」


 いつの間にか、お雛様がお嫁さんになっていたんだよ。


 この瞬間は、当時の俺はお雛様がお内裏様のお嫁さんという事は全く知らなかったわけなんだよなぁ。


 だから、この時はなんかむず痒い感じがして、姉妹ケンカを続ける2人から離れていった。そして、迷子になってしまい、父さんと母さんから雷を落とされるというオチがついた。


 尤も、俺が迷子になったことに真っ先に気づいた姉ちゃんと柚子は俺に抱きついてわんわんと大声で泣いていたけど。


 この時は、ただ2人が仲直りしてくれたと感じて、それがなによりも嬉しかった。


 まあ、その日は、帰りの車内から夕飯、風呂、就寝中まで2人がピッタリくっついて離してくれないというオチは付いたが。





 「なんか懐かしいな・・・」


 「何が懐かしいの?お兄ちゃんっ」


 「へ?うあっ!?おま、柚子、背後から抱きつくんじゃねーよ!」


 今朝たまたま見つけた昔のアルバムを見ていたら、すっかり愛らしく成長した妹様に抱きつかれてしまった。


 いや、お前のデカメロンの破壊力は分かったから、是非離れていただきたいです。


 柔っこいのありがとうございます!とは思ってなんかないんだからねっ!?


 「ゆずちゃん、ようちゃんはー、あら?どうしたの?2人して・・・」


 「あー、姉ちゃん?柚子ひっぺがしてく・・・ごふぅ!?」


 更に柔っこいのが追加されただとぉっ!?


 「お姉ちゃんも便乗してみましたぁ〜♪」


 便乗してみましたぁ〜♪じゃ、ねーよっ!?


 デカメロン追加、ありがとうございます!!


 とか、思ってないですよ?


 「お姉ちゃん、ちょっと太った?なんか重いよ?ねぇ、お兄ちゃんっ」


 ピシッ


 何かいけないもの(事象)に亀裂が入る音が鳴り響いた、気がした。


 「ふぅ〜ん。ゆずちゃんもこの前、お風呂上がりに、ギャアーッ!太ったぁ!?って叫んでいたよね〜?お姉ちゃんは知っているんだよ〜?」


 背中に感じる凄まじい負のオーラに振り返るのがめっちゃ怖い!とりあえず、姉ちゃんがめっちゃ無表情でニッコリ笑うという意味不明な状態だということだけはハッキリ分かる。


 「お姉ちゃん!?可愛い妹の乙女事情を暴露とか悪どすぎないっ!?そんなだから、この前・・・!!」


 また言い争いが始まった。


 俺と柚子が高校に進学してからこうだよ。


 勘弁してくれよ・・・。


 


 「お兄ちゃんっ!!」「ようちゃんっ!!」


 「お姉ちゃん」「ゆずちゃん」


 「「酷いと思わないっ!?」」


 互いを指差しながら、俺に意見を求めてくる、昔から美少女姉妹と名高い、俺の姉と妹。


 どうしてこうなった・・・。






 『この撮影をしたら、ずっと仲の良い2人で入れられるんだよ?』


 かつて、姉妹が聞いたそれを俺が知ることになるのはまだまだ未来の話である。







        おしまい

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昔から美少女姉妹と名高い姉と妹が、ある日から何故か日々モブいハズの俺を取り合うようになった件 うすしoh @ususioh

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