第9話 夏休み前日(終業式後)は、みんなで遊ぶのがお決まりらしい 前編
柚子と姉ちゃんに終始振り回された買い物から数日。
本日は、1学期の終業式だ。
今はまだ大講堂での終業式前。
それにも関わらず、俺のクラスは夏休みの予定に盛り上がるクラスメイト達でかなりの喧騒になっている。
やれ、夏休みはワイハに行くとか、他校に通う彼女と一泊二日のお泊り旅行に行くとか、実に様々だ。
みんな、予定が詰まっているんだな。
モブで、おーるうぇいず・・・じゃない、オールデイズ、基本ボッチの俺には無縁な話だ。
決して羨ましいとかじゃあないぞ?ないったらないぞ?本当だからな?
「・・・何、夏休みもボッチ?ぷすー!可哀想wくすくすwwみたいな顔して見てんだよ、倉橋」
ニヤニヤと頬杖をつき俺を眺める倉橋優奈に半眼で睨みつける。
「ワァオ♪こっわ♪やだなぁー、ボクは別に陽平くんを揶揄ったりしてないよー?今日もキミがカッコイイなぁー♪って、あつーい、メス目線送っていただけだよ?」
・・・コイツ。100%揶揄いにきてるじゃないか!しかも、メス目線とかなんだよ!?はじめて耳にしたわっ!
全く、コイツは・・・。昔とキャラが変わりすぎなんだよ。
「うるせーわっ、心にもない事言って童貞を揶揄うなっ!!」
「ワハハ!別に揶揄ってないって〜♪ほんっっと、陽平くんは可愛いなぁ♪キミが思うほど、女の子は童貞がどうとか思わないよぉ?」
「それが揶揄ってるんだよ!大体お前は・・・っ!?」
瞬間、背筋に凄まじい悪寒が駆け巡る。
背中に感じた視線の先に恐る恐る振り向いてみれば、その愛らしい顔立ちを能面のように凍結させた我が可愛い妹、柚子の姿が見れる。
柚子は哲太をはじめとした、いつもの仲良しグループで夏休みの予定談義に花を咲かせていたハズ。
しかし、今の柚子は、なんというか、すごく、すごく、威圧的だ。
なんか、愛らしい二重ぱっちりお目々からハイライトが消えているんですが?
気のせいかもしれないが、背後からドス黒いモヤのような何かが湧き上がってる風にも見える。
「相変わらずのハイパーブラコンシスターだね〜♪チャンゆずも♪ワハハ!キミもスミにおけないネェ〜?超シスコンな、お、に、い、ちゃ、ん?プー、クスクスww」
「おまっ、いい加減に・・・」
俺を煽る様にイラッとして、ついつい食ってかかるように倉橋へと向く。すると。
「ハァ〜イ♪ンーッ、チュッチュ♡」
かなりふざけた態度で投げキッスをやらかしてきた。更には何やらやたら好意的に手をひらひら振ってくる。
「はぁ?お前、いきなり何やって・・・!!?」
ゾクンッ!?と先程感じた以上の寒気、いや、怖気とでもいうべき冷たすぎるソレが脊髄を走り、俺の脳へと危険信号を齎す。
まさか・・・ま、た・・・∑(゚Д゚)!?
今度は、柚子の背後に湧き上がっていた、ドス黒いモヤみたいなモノが形を成している。
つーか、ほぼ、幽●紋やん。
うちの可愛い妹は、いつから幽●紋使いになったんだ!?
なんか腕組みして仁王立ちする、やたら可愛いマメシバみたいに見えるから、見た目だけなら場に生まれた緊張感台無しなんだけど・・・。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!!と、柚子から放たれる冷たい威圧感がハンパないんで、いつの間にやら教室内が静まり返る始末。
ズシンっ!
ズシンッッ!!
まるで、超重人型兵器が歩行するような足音が聞こえる・・・気がした。
ズシンッ、ズシンッッ、ズシンッッッ!!!
(ワァオー、チャンゆず、超こわっw)
とか、まるで他人事のようにボソッという倉橋。つーか、テメーっ!さっき、分かった上で柚子を煽りやがったな!?
あ、コイツ、口パクで、『がんばってネ♡』じゃねーよっ!無駄にいい笑顔でひらひら手を振るんじゃねぇッ!!
「・・・楽しそうだね?お兄ちゃん」
マメシバの幽●紋を背負ったままに俺のすぐ側まで歩み寄っていた。
ぶっちゃけ、ニコリといつも以上に可憐な微笑みを浮かべてるんだが、西洋人形みたいな作り物の笑顔で超恐い。
さっきからずっと目のハイライト消えてるしな。
もうホラーじゃね?
コレが、アレか?
浮気や不倫がバレた彼氏や旦那の図。
って、待てーや!
俺と柚子は、血の繋がった、実の、兄妹!
禁断の関係でもないぞ、俺には、なにも、疚しいことはないっ!!
たぶん。
「お兄ちゃん?」
「は、はいっ!?」
「何をそんなに慌てているの?」
「あ、慌ててなんか、いないぞ?」
「ふーん・・・」
だから、なんなんだ、今の状況はっ!?なんで俺が柚子から『あなた、わたしという妻が居ながら浮気したのよね?そうなのよね?』的な針の筵(むしろ)状態に遭わなきゃならない!
「おにいちゃん、座席を後ろに下げて」
「・・・は?」
は?椅子を後ろに下げる?いや、意味が分からんのだが?聞き間違えか?
「聞こえなかったかな?おにいちゃん、席を後ろに下げて?」
聞き間違えじゃないな。と、ともかく・・・席を『空けよう』。
俺は柚子に脅される(うながされる)まま、座席から立ちあがろうとする。
「待って」
「え?」
「お兄ちゃん?ゆずは、おにいちゃんに、『座席を後ろに下げて?』とお願い(強迫)したんだよ?なんで、席から立ちあがろうとするの?ねぇ、なんで?どうして?」
こ、コワイ。我が愛らしいハズの妹ちゃんが超恐い。何このホラー。
誰かボスケテ(T ^ T)
「おにいちゃん?座席、下げて?」
未だに指示される意味がわからないけど、仕方ないので言う通りに下げる。
「まだ、もっと下げて」
再び下げる。
「まだ」
三度下げる。
「もう一声」
ヤケクソになって一気に下げる。
「うん、オッケー!」
幽●紋使い様は満足そうに頷く。
結局、下げ幅は机から俺の足が20cm離れるくらいになった。
「それじゃあ、お兄ちゃん?動いたらダメだよ?」
「は?お、お前、何する気だ!?」
柚子が俺の前にその安産型の眩いばかりの臀部を晒したかと思えば。
「よいしょっ♪」
俺の膝の上にライドオンしてきた。
完成!お兄ちゃんライド妹ちゃん!いや、なんで、戦隊ヒーローモノの合体ロボ演出だよっ!?
『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!?』
クラスメイト全員(倉橋と哲太除く)の驚きの叫びが教室にこだました。
「ちょ、おまっ!柚子っ?な、なにしてるんだ、お前ぇっ!?」
「〜♪お兄ちゃんの膝の上、温かぁーいっ♡」
温かぁーいっ♡じゃ、ねーよっっ!!周りが色めき立ってるじゃねーかぁっ!?
曰く。
「わぁー、柚子、だいたぁーん♡」
by妹の親友A。
曰く。
「朝の教室で、コレやるブラコンは日本広しといえども柚子くらいじゃね?マジ、ブラコンを極めし者。ブラコンオブブラコン!」
by妹の親友M。
「てつ!助けろぉ!!つーか、助けてください、後生ですからっっ!!!」
頼りになるはずの幼馴染に救いを求める。
「すまん、陽平。俺には無理だ」
「え?」
救援を求めた幼馴染、哲太は無碍に断ってきた。
「俺には、今の柚子を止める手段がない。むしろ、こういう時に唯一止められるのはお前か桃姉くらいだ」
無駄に爽やかな笑顔で語る幼馴染の男。
おい、哲太の隣の席にいる自称清楚のヤリ●ン浮気女。なにが哲太きゅんかっこいい・・・♡、だっ!隣のクラスのサッカー部所属の彼氏持ちだってのに、援交するは、顔が好みなだけで股軽、尻軽にホテルへ付いていって、ずっこんばっこんしてるのは、知らないの部活に熱心な彼氏くんだけだぞ?
「大変だねー、陽平くん、キミぃ〜?というか、妹ちゃんもブラコンがすぎるのはどうかとボクは思うなぁ〜wいくら兄妹でも重すぎる愛はドン引きされちゃうよ〜?」
絶妙なタイミングの嫌味だな、倉橋。そんなお前にも、ぶっちゃけ、ドン引きだわ。
「ふーん?倉橋さんの言いたいことは分かったよ・・・」
まあ、煽られた側の柚子にはしっかり効果は絶大だっ!みたいだけどな。負のオーラ?が3割増しになったし。
つーか、妹よ?いつまでライドオンを続けるつもりだ?
お前のお尻の温もりとやわっこさがリアルすぎてヤバイんですが?
クラスメイトという衆人環視の中でこれを決行するお前の行動力には敬意を評するが時と場合というものがあってだな?ていうかおまっ!?何お尻の位置をより深く密着させてくんだよ!いやほんとマジで柚子のお尻柔らかー・・・じゃねーよ!何考えてんだよ俺!マジありえないだろ!柚子は妹だ!ここで立ち上がってしまったら社会的に死ぬッッッ!!引きこもり生活確定だ、それは避けたい、何か妙案を考えつけ、俺!お前ならやれる、頑張れ、朝方陽平ぃっ!!(ここまでの脳内シンキングタイム凡そ10秒)
「い、妹よ・・・」
「おにいちゃんは、今は静かにしてようね?」
「・・・はい」
兄、敗れる。無念なり。
「あは、は、ガチな時の柚子は陽平くんでも止められないかぁ・・・」
「ヤンデレブラコン妹ちゃんとかラノベのヒロイン設定じゃん・・・」
おい、そこ!柚子の親友MとA!見ていないで、どうか助けてくださいっ!!
「「・・・・・・_(┐「ε:)_」」
救いを求める健気な眼差しは、そうして華麗にスルーされた。
オワタ。
「倉橋さん?『ゆずの』お兄ちゃんに面白半分で手を出すのは止めてくれないかな?」
ハイライトの消えた病んでるアイのままに倉橋を見つめ微笑む妹。こわいこわい。つーか、柚子、さっきから一人称が中学2年の頃まで退化しているぞ?
「あっれー?妹ちゃん、何様かな?キミは『所詮』妹だよねー?なら、アナタがお兄さんである陽平くんの交友関係にまで口出しするのはおかしいんじゃないかしら〜?」
おいこら、だから煽るな、倉橋ぃっ!
コイツもなんで、柚子が相手の時はこうも底意地が悪くなるんだよー、勘弁してくれぇ・・・。
つーか、倉橋、お前も昔のお嬢様時代の口調になってきてるぞ?むしろ、そっちがやっぱり本性なのか?
「ぐぬぬぬぬぬぬっ!!」
「むむむむむむむっ!!」
仇敵、此処にあり、とばかりに睨み合いを続ける二人。
一見、一人の男を囲る熾烈な女の一騎打ちにも感じれなくもない雰囲気・・・なんだが、絵面がなぁ〜。
かたや俺の隣席に座り、眼前の敵を睨みつける倉橋優奈。
一方で俺の膝上にライドオンのまま自らの身体を密着させて居座りながら、謎の勝者の笑みを浮かべて倉橋を睨み返す我が妹、柚子。
雰囲気だけなら、宿敵、龍虎、相対す!
なんだがなぁ・・・。
場面が場面だけにシュールすぎて、ラノベによくあるちょっとズレた緊張感しかない気がするんだよ。
「な、なあ、二人とも。もう少しで終業式だし、この辺りで・・・」
「お兄ちゃんは」「陽平くんは」
「「黙っててっ!!」」
「・・・はい」
情けないなぁ、俺。将来、嫁さんができたとしても、ほぼ、尻に敷かれるコース決定なんだろうか・・・。
「とにかくっ!今後一切!!お兄ちゃんを揶揄って遊ぶのはやめてもらうからねっ!!」
ズビシッ!!と、倉橋を指差して高らかに告げる柚子。いや、妹よ・・・。他人を指差しちゃいけませんって、お前習わなかったのか?
「あーら、ゆずちゃん?ワタシがいつ?どこで?陽平くんを揶揄って遊ぶなんてことをしたのですか?ワタシにはまったく身に覚えがありませんっ!」
勢いよく柚子を指差し返す倉橋。お前も、人を指さすんじゃありません。
眼光鋭く睨み合い続ける二人。
妹にライドオンされ続ける俺。
いや、これいつまで続くの?まさかの千日手とかならないよな?
「とにかくっ!アンタがなんて言っても!お兄ちゃんはゆずのお兄ちゃんなんだからぁっ!!」
「んぶぅ!?」
怒りゲージというものが、実際にあったとしたら、きっとこういう感じで爆発するんかな?と想像させるように、幾度も感情任せに倉橋を指差しながら激情をぶちまける。その末に身体を凡そ90度向け、クラスメイト全員の視線をものともせずに俺をきつく抱きしめてきた。
言葉通り、俺は、柚子のものだと、最大限の威嚇をもって倉橋に愬えたのだ。
ていうかさ、妹よ。
俺の頭をお前のお胸に押し付けるのやめてくれない?
息ができないんです。
・・・最近、俺、こういう展開ばかりに巻き込まれてないか?
誰か助けてぇーっ!?
◆
また酸欠で失神するまで、このままになるのか?
そんな予感が過った時、遂に救いの主が現れた。
「うーし、お前らぁー、席につけー。今日から夏休みだからって、腑抜けていた・・・ら?」
教室前方の扉が開く音と共に耳に飛び込んできたのは、眠気混じりのやる気がなさそうな若い女性の声。彼女こそ、我がクラスの担任である、皆藤美波女史だ。
「なんだぁ〜?おい、朝方兄妹!なぁーに、朝っぱらから、堂々と教室で近親相姦だなんてしてんじゃねーぞっ!?」
ちょっ!なに言ってくれてんだ!?この万年彼氏募集中ヤンキー女教師めっ!!
「あ゛ぁーん?おいこら、朝方兄のほう!だーれが、万年彼氏募集中の非モテ非リア充女教師だ、ゴルァっ!!」
非モテ非リア充だなんて、後が怖くて言えるかぁ!
つーか、思考してた事よく分かりますね?しかも、俺、いま、妹の豊満おっぱいに顔面沈んでるんですよ?それでわかるとか有り得なくね?というか、可愛い我が妹よ、あんちゃん、息できなくて苦しいよ、仮に今日がバレンタインデーだったとしても、俺みたいな非モテ男子すら、きっとこう思うはずなんだ。
ギブミー、酸素。
息ができなくてつらたん。
でも、例え、酸欠気味でも顔面は幸せな柔らか触感なのが、あらま不思議。
あー、なんか、苦し気持ちいい・・・。
「オイ、実兄に万年発情期の朝方妹ぉーっ!」
「なっ!?みなみちゃん!万年発情期ってなんですかぁっ!?」
「公衆の面前で堂々と無駄に育った、その
うしちちを兄貴の顔面に押し付けて、はぁ、はぁ、してるような女は万年発情期扱いでちょうどいいんだよっ!胸が小さめなオレに喧嘩売ってんのか、朝方妹ぉーっ!!」
売ってはいないと思うよ、先生。
先生が勝手に端から拾ってお買い上げいただいているだけです。
というか、酸素、ください。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん、胸、くすぐったいよぅ・・・あ」
なんだよ、その、・・・あ、て!?
そうだよ!息苦しいんだよ!!
「ご、ごめぇーんっ!!!」
思い切り兄の頭部を掻き抱いて、自らの胸に押し付けていた事も今更恥ずかしくなったのか慌てて柚子は立ち上がって避けてくれた。
た、たすかっ・・・た。
あー、酸素がうまいぃー。
「クスクス♪災難だったね?陽平くん?あー、それともシスコンなキミにはむしろご褒美だったかな〜?ぷー、くすくす♪」
椅子の背もたれに寄りかかって脱力する俺をイジる悪魔、倉橋。
「おいこら、倉橋ぃーっ。朝方兄は奇跡のシスコン、インモラル野郎だから、あんまり近付くと感染るから気を付けろよぉー?」
あんた、仮にも先生なのに、そこまで言うか!?なんだよ、奇跡のシスコン、インモラル野郎って!?しかも感染るとかなんだよ!俺は新型の奇病持ちとか、そういう扱いなん!?なんか、泣きたくなってきた・・・。
「ちょっと、みなみちゃん!?お兄ちゃんに意地悪しないでよっ!!」
「ほぉ〜ん?先生様たるオレに逆らうとは、さすが、我が校が誇る奇跡のブラコンおっぱい妹!」
「お、おっぱい妹ってなによ!みなみちゃん、セクハラ!」
いや、妹よ、我が校が誇る奇跡のブラコンのラインはスルーなんだ?
普通の思春期っ子は、その部分を全力否定すると思うんだが・・・、柚子はたしかに『普通の』思春期っ子ではないか。
「お兄ちゃん!?」
「はい、いいえ!なにも余計なことは考えていませんよ?」
「朝方兄ぃー、なんだよ、はい、いいえ!ってのは、前々から思っていたが、お前、妹の巨尻に敷かれすぎだろ!」
「ゆ、柚子のお尻はそんなに大きくないもん!普通に安産型なだけだし!!」
「それを巨尻っつーんだよ!なんだ、オラ!貧相なオレへの当て付けかぁっ!?」
今度は柚子VS残念不良女教師(独身)の新たな闘いが幕を上げ、激化していく。
そんな不毛な争いに、クラスのみんなが不思議と早く講堂に移動して、終業式済ませたいと願ったのは無理もないことだったのかもしれない。
◆
不毛な争いから幾星霜(大ウソ)。
なんとか全校生徒が集った大講堂にて、学園長からの有り難くない長話を聞かされている俺たち生徒一同。
ちなみに、不良女教師VS学園の新アイドルの不毛な争いでしっかり遅刻した俺たちのクラスだが、さっきまで散々オラついていた不良女教師がひたすら平謝りしていた様はかなり痛々しかった。
『学園長先生、ありがとうございました。続きまして、生徒会執行部からの連絡事項です。杉城生徒会長よろしくお願いします』
あ、いつの間にか学園長の長ったらしい話が終わっていたっぽい。
1人の高身長な男子生徒が舞台袖から壇上中央に向け歩いていく。すると、周りの女子が少々色めき立ち始めた。それもその筈、壇上を闊歩する男子生徒こそ、うちの学校の現生徒会執行部会長、杉城太陽その人である。
現生徒会長様は、全国統一模試5位、強豪で知られる、我が校の男子テニス部所属で全国大会常連という、まさに絵に描いたような文武両道を地で行く人、らしい。まあ、女子からキャア♪キャア♪言われてるのは、その部分が主ではない。単純に顔面偏差値が高いんだよ。所謂イケメン。見た目としてはなんだ?あー、機●戦士ガ●ダムOOに出てくるグラ●ム・エ●カーみたいな容姿だな。そりゃ、モテるわ。キャー、カッコイー(棒)。
「お兄ちゃん?どうかした?」
イケメン死すべし!とか思っていたら、隣に立つ柚子が不思議そうにこちらを見ていた。
「あー、いや、相変わらず、現生徒会長様は人気者だなぁ〜ってな。あれで家もお金持ちなんだろ?いやになるね、何が天は二物を与えず、だか。目の前に、二も三も四も与えられてる奴がいるだろーがっ。とかは、思ってないぞ?」
「ふぅ〜ん?思ってるんだね、お兄ちゃんは?」
柚子の俺を見る眼差しが残念な何かを見るそれになっている!?い、いかん!これでは兄の威厳が!?そんなものはないだって?ハッハッハッ、馬鹿を言っちゃいけないよ、お猿さん。ブラコンを超越せしブラコンである我が妹、柚子に限ってそんなことはー。
「じとー・・・・・・・はぁ」
思い切り生暖かい眼差しで見られた上に溜息を吐かれただとぉっ!?
「ゆ、ゆず、さん?」
「お兄ちゃん?杉城生徒会長は見た通り実際にカッコいいんだから、気にしたって仕方ないと思うよ?うちのクラスでもいいなって言う子いるもの」
シスコンの兄としましては、可愛い妹の口からハッキリと他の男を褒められると内心はとても複雑でしてね?いや、でも・・・。
「でもね?あたしにとっては、お兄ちゃんよりカッコいい男の人はこの世にいないよ♡」
柚子さまぁ・・・!はっ!?
背後から突き刺さるような寒気がして、後方を見てみれば、倉橋が俺を刺殺さんばかりの視線で睨みつけている。
いや待て、なんでお前が睨んでくるんだよ、倉橋ぃ・・・。お前、いま、何にも関係ないじゃないか。無視だ、無視、無視。放置プレイ、放置民だ。俺は奴など知らない。
「・・・お兄ちゃんは、そぉーんなに、あの女が気になるんだ、へぇー、ふーん、ほーん?」
「いや、現在進行形で俺に一番威圧感出してるのはお前だ、お、ま、え」
今度は逆に俺がジト目で睨み返す番・・・なんだが、柚子のやつ、如何にも今拗ねてます!ってむくれた顔してるんじゃねーよ、ヤバい、俺の妹が可愛すぎて堪らん件!
「お兄ちゃん、シスコンが過ぎない?ホントに・・・しようがないんだから」
嗚呼、柚子が、妹が!こんなにも、こんなにも!お兄ちゃん、しようがないなぁ〜、今日は特別に許してあげるミ☆でも、次は、メッ♡しちゃうからネ!ってしてくれて(していません、ただの妄想です)尊い!
「お兄ちゃん・・・はぁ、これがなければ、みんな、もっとお兄ちゃんに絡み易くなると思うんだけどなぁ・・・」
すっかり妄想トリップ劇場の住人と成り果てた俺の耳に、そんな妹からのため息混じりのつぶやきが届くわけもない。そして、呆れたようでいて、愛しむような複雑な感情がない交ぜになった視線にもついぞ気付けなかった。
◆
長かった終業式からの一連行事も無事に終え、俺たち生徒一同は各々の学年別クラス単位でマイペースに教室へ戻る途中。
クラスの集団から離れて歩く俺の前では、クラスの中心メンバーを軸に随分と盛り上がっているようだった。
まあ、そんな事は割とどうでもよかったりはする。さっきの終業式からの全校集会だが、現生徒会長の引退に伴う生徒会の解散と、次期生徒会長選挙候補の立候補開始が告げられていた。
まだ入学して数ヶ月だし、怠惰で平々凡々な日常を好む俺は生徒会長だなんてものに興味はない。
しかし・・・だ。
俺と柚子の姉である朝方桃華、姉ちゃんは興味ありそうなんだよなぁ・・・。まあ?売れっ子のプロモデルmomo.でもある、多忙極まる我が姉上にそんな暇があるのかとか諸々はあるけど。少なくとも、この学校の生徒会長選挙立候補には、自薦他薦問わず、夏休み半ばまでが立候補期限ではある。
そして、夏休み後半にて他薦された候補者の場合は、実際に会長選挙に挑むか否かの確認期間が割り当てられている。
つまり、姉ちゃんみたいな現役芸能人等の有名人が多い、我が校らしい仕組み、というわけだ。とても多忙な生徒会長をこなせないなら、他薦されてもしっかりお断りできる。だからこそ、ひとまず、有名人に生徒会長へなってもらいたい層なんかから神輿として担ぎ挙げられる犠牲者が毎年それなりにいるようだ。
姉ちゃん、生徒会長に興味あり気なんだよなぁ〜・・・。でも、モデル業も忙しいし、やっぱりないか?・・・うーむ。
「なーんか、盛り上がってるねぇ〜?陽平くんはどう思う?」
思考に耽る俺に話しかけてきたのは倉橋だった。
俺と同じく、基本単独行動なこいつがいつの間にやら隣を歩いている。
「・・・さあな。まあ、うちのクラスは根本的に騒ぐの好きなお祭り好きが多いし、あんなもんじゃないか?」
「そうかなぁ?なんか、体育祭とか文化祭の雰囲気と似たような雰囲気を感じるんだけどなぁ〜」
ふむ、確かに日頃大人しい勢まで妙にテンション高めだな。なんかいい事あったのか?
「お兄ちゃんっ!」
「なんだ、今度は柚子か。どした?」
またも思考中に襲撃者現る!?って、妹なわけだが。
「なんだ、とは何だよー!?ぶー、ぶー!!」
「悪かったって、どうした、そんなに息を弾ませて・・・」
見れば、柚子は肩を軽く弾ませていて、息も多少乱れている。どうやら、前方の集団からこちらにそれなりの速さで駆けてきたようだ。
「妹よ、廊下を走ってはならぬぞ?」
「・・・お兄ちゃんはいつから時代劇の住人になったのさ」
「時代劇好きなのは、よく知ってるだろ?」
「あたしが、お兄ちゃんの好きなもの知らないわけないじゃん。なんだったら、最近お気に入りのえちぃマンガとかまで言えるよ?」
妹よ、それは、言われたら、兄の学校での尊厳にすら関わる案件だぞ・・・。つーか、また勝手に俺の秘蔵本漁ったのか・・・。
「ふーん?それはそれは♪ボクも興味あるなぁ☆キミのえっちな嗜好にww」
あ、爆弾が側に居るのを完全に失念していた。
「ふんっ!アンタなんかに教えてあげるわけないじゃない」
得意気に倉橋を挑発する柚子。まるで、マウントを取ろうとするかの動きだ。
「別にわざわざ教えて貰わなくても、陽平くんの性的嗜好なんて、ボクにかかれば暴くのはお茶の子さいさいだよ!」
「うわぁ・・・、それ、完全にストーカー思考な物言いじゃん。こっわー!お兄ちゃん、お兄ちゃん!やっぱりこの女、警察に連行しようよっ!」
おいこら、妹よ。煽るな、煽るな!ここはまだ俺たちのクラスの教室じゃないぞ。倉橋もなにハンカチ取り出して、悔しげに噛んでんだよ!?
「「・・・・・・!!」」
無言だが険しい眼差しで睨み合う2人。つーか、思い切り、他の人達からの視線が痛い。
はぁ・・・、仕方ない。
「お前ら、いい加減にしろー」
「アイタっ!?」
「あうっ!?」
睨み合う2人の脳天にそれぞれ手刀を落とした。当たり前のように痛かったのか、涙目で2人から睨まれてしまった。
「いや、睨まれる筋合いないんだがな?お前ら2人、しっかり迷惑だぞ・・・」
俺からの指摘に、廊下のど真ん中でやり合っていた事実に気付いたのか、バツが悪そうに2人共憮然とした様子ではある。
「それで?なんか用だったんだろ?柚子」
「あ。ごめん、言うの忘れてた」
妹の可愛くてへぺろする様は、シスコンの俺にはご褒美以外のなにものでもない。部外者が誰もいない家とかなら、ありがたや、ありがたやー、とでも拝むのだが、まだ警察のお世話になりたくもないから自重しよう。
「あのね、あのね!この後、クラスのみんなでR●UND1に遊びに行くことに決まったんだけど、お兄ちゃんも当然、行くよね?」
余程楽しみなのか、全身から喜びが溢れんばかりの様子に自然と目尻が下がってしまう。
まあ、俺たち姉兄妹はよく駅前にある其処を利用して遊ぶ機会が多い。体を動かし、柚子の好きなカラオケに興じたり、休日に丸一日居たりしたことすらある馴染みの場所だ。
だから、テンション鰻登りなんだろうな。
しかしながら、なぁ。
「悪い、俺は行けないわ」
「・・・え?」
俺からのお誘いお断りの返事に、満面の笑顔だった柚子の顔が凍りついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます