三・ネコマタカレシ、天国の弁当を味わう

 アタシの学校での時間は、教室以外は殆どこの屋上庭園と言っていい。最近はそこで『彼氏』と過ごすようになった。といってもまだお友達からではあるのだけども。おまけに種族違うけども。猫又だけども。

 まあ、ツッコミどころは満載なものの、まあ可愛いし、猫だけど紳士だし、一緒にいるのは居心地がいいんだよね。

 という、わけで。

 今回はお弁当を作ってあげる話になったのだけど。


『味付けやおかずは人間と同じでいいですよ、猫又ですから』


 とは言われたんだけど、身体が小さいのだから塩分過多はやっぱり怖いよね、と思ってなるべく出汁を利かせたものにしてみた。幸い、モノが腐ることを心配するような気候でもなし、薄味でも許されるでしょう。


「というわけで、寅さんの口に合うといいんだけど」


 ぱかりとお弁当箱を開けた瞬間、寅さんの目はくりんと丸く、そしてきらきらと宝石のように輝いた。可愛いな。まず猫って時点で可愛いからずるい。ただ、ゆらゆらと嬉しさに揺れる尻尾は二本なんですけどね。

『ああ、卵焼き! これも、撫子さんが焼かれたので?』

「そうだよー? いやアタシ頑張ったんだからね? 褒めて?」

『そりゃあもう! こんな国宝級の御馳走を頂けるとは幸福の極みです!』

「それはちょっと褒めすぎですね」

 さて、と。アタシはそこで自分の箸とは別の、用意していた箸を手にする。猫又の寅さんは、猫なので当然お箸を持てない。かといって猫みたいに弁当箱に顔を突っ込んで食べるのも、なぁと思ったものだから。

「じゃあ、食べましょ?」

 箸でささみのチーズ巻きをつまんで、寅さんの前に差し出した。あ、因みにチーズは減塩タイプを使用している。気を遣ってるアタシは偉い。


「はい、あーん」

『あーん⁉』


 寅さんはひゃん、と数センチとび上がった。まるで胡瓜に遭遇した猫みたいだ。まあ猫なんだけど。

「だって、寅さん箸持てないっしょ? だから食べさせてあげますし」

 ね? と言いながらささみチーズを更にずい、と差し出すと、寅さんは『明日召されるかもしれません……ここは天国でしょうか……』と涙ぐみながら、食べ始めた。ここが天国なら既に召されてるよなあ、なんて思いながら、アタシはマグロの柔らか煮を箸でつまんだのだった。

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ネコマタカレシ 来福ふくら @hukura35

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