ex4 諦めません、貴方が来るまで(完)
「認めたくはないけど――
あんたの能力だけは、認めざるをえないかもね。
能力だけは!」
大蛇を全て撃退し、再び活気に包まれる街。その城門付近。
意気揚々と凱旋してきた推し部隊を見回しながら――
私は例の親父を睨みつけ、腕組みしつつ言い放った。
自分でも居丈高と分かるそんな私の態度に、親父もみんなも肩を竦める。
アホ天使などは呆れかえってジト目で私を見ていた。
それでも私は言う。これだけは、言わねばならない。
「カイトを助けてくれたのは感謝するわ。
だけど、勘違いしないでよ。
私は絶対に、あんたを『彼』だと認めたわけじゃない。
私が認めるのは、あんたの能力だけだからね!」
そう言った途端、アホウサギが飛び跳ねた。
「えっ!?
それじゃ、彼をここに置いていただけるんですね~!?」
このクソウサギと邪神どもを喜ばせてしまう結果になるのは悔しいけど――
それでも、仕方ないじゃない。
「勘違いするなって言ったでしょ?
これはあくまで、カイトや私たちを助けてくれた礼。
今後も街の為にみんなを助けるって約束してくれれば、一応、部屋を作ってあげないこともないけど?」
ちなみに、新たにやってきた住民の為に私が家を建てたり部屋を作ったりするのは、普通にやっていることである。
よほど嫌な奴じゃなければ。
そんな私の言葉に、今度は親父が飛び上がって喜んだ。
「あ、あ、ありがとうございますぅっ!
正直、戦闘は不得手ですが、その分小銭稼ぎで皆様をお助けさせていただきますんで!」
「そのかわり、ちょっとでもサボったら即刻叩きだすからね!」
「モチのロンです! 精一杯、働かせていただきますぅ~!!」
親父のくせに、子供みたいなその喜び方が――
やっぱり、どこか『彼』に似ていて。
私は思わず、目を逸らしてしまった。
――この親父を受け入れることは出来ても、やっぱり、私は、どうしたって……
喜ぶ親父に、無邪気に駆け寄っていくパッセロ君。
早速、住民登録の手続きを説明し始めるサイガ。
それをちょっと離れて眺める私。
そんな私の肩を、後ろからカイトがぽんと叩いた。
「へへ、悪ぃな。
なーんか俺のせいで、あいつを認めることになっちまってよ」
言葉とは裏腹に、何故かカイトの表情ははれやかだ。
「悪いと思うなら、少しはそれっぽい顔しなさいよ」
「いいじゃねぇか。
これで当分、お前がこの世界を捨てることはなくなったみたいでさ」
サイガもパッセロ君も、ついでにあのアホウサギも親父を取り囲み。
朗らかな談笑の輪が出来ている。
そうだ――
とりあえず、この街は安泰だ。
「でも……
やっと分かった気がするぜ。お前が、あいつに惚れた理由」
「あいつって?
言っておくけど、あの親父は『彼』じゃないわよ?」
「だけど、あの親父さんを元に、お前の『彼』が生まれたんだろ?」
「違うってば。
だからぁ、あの親父は元の世界の親父と、コピー世界の彼が無理矢理合わさったキメラで……」
「そのへんは未だによく分からんけど、要するにさ。
お前の『彼』を構成していた要素が、あの親父にあってもおかしくないわけだ」
「言わないで……頭痛くなってくるから」
それでもカイトは楽しそうに、親父を眺めている。
「なるほどな。惚れたはれたとはまるで無縁の見かけしてるが、あぁいうのが実は結構、モテたりするんだぜ。
細かいとこに気が付くし、機転はきくし。
腰が低そうに見えて、意外と芯が強いってのは俺でも分かる。
それに、マジでいい奴じゃねぇか」
「あんたねぇ……調子のいい」
ついさっきまで渋い顔してた癖に、何言ってんの。
そう言いたくなったが――カイトのほっとしたような横顔を見ていると、何も言えなくなる。
考えてみれば、ここにいるみんなが安心するのは当たり前だ。
事と次第によっては、私の一存で、世界が終わるかも知れなかったのだから。
やがて輪の中から再び、オルゴールの音色が響いてくる。
親父を囲み、サイガもパッセロ君も、幸せそうに笑っていた。
そして、あのうさ耳天使も――
「って、あんた!!
他の皆はともかく、あんたが何で何事もなかったかのように呑気に笑ってんの!!」
「ひ、ひぇえ!? う、うさ耳は引っ張らないでくださ~い!!」
「うるさい! 大体の元凶はあんたとクソ邪神どもなんだから!
言っておくけど私、これで『彼』を諦めたわけじゃないからね!!」
「へ、へぇっ!?
そ、そそ、そーなんですか!? 諦めて親父さんを受け入れるんじゃ……」
引っ張られるうさ耳を押さえながら目を見開くアホ天使に、私は言ってのける。
「親父を受け入れるとは言ったけど、『彼』を諦めたなんて、一言も言ってないでしょ?
だからさっさと、邪神どものところに頭下げに行きなさい。
今度こそ、ちゃんと『彼』を連れてこいって。
ついでに、この親父よりも能力は高めでお願いね」
「む、無茶言わないでくださぁ~い!
彼のレベルじゃ、この親父さんの能力が精一杯で……イタタタタタ!」
「無茶でも何でも、やってもらうわよ!
これだけ待たされてヤキモキさせられてるんだもの、それなりの代償は払ってもらうから!!」
そんな私とアホ天使に、かけられた声は。
「まぁまぁ、今夜ぐらいはいいじゃないですか。
うさ耳のお嬢さんも一緒に、お祭りを楽しみましょうよ~」
――また、『彼』の声がした気がして、思わず顔を上げる。
そこにいるのは勿論、あの親父に違いなかったが。
だけど――
確かにその時聞こえたのは、『彼』の声で。
その時見えたのは、『彼』の笑顔だった。
皆の笑顔に混じって、『彼』の憎めないおどけた笑顔が見えた。
あの、思い出の音色と共に。
――大丈夫っす。
何があってもきっとまた、貴方のところに行きますから。
そんな声が、聞こえた気がした。
そうとは知らず、皆と一緒にお祭りの舞台へと向かうヒゲ親父。
「今夜はちょうど、お祭りのクライマックスだそうですねぇ。
大勢の美しい踊り子さんたちと一緒に、皆で舞台に上がって歌って踊る……うーん、胸が躍ります!
サイガさん、私も参加出来ますかね? カスタネットぐらいならやれますんで!」
「いいですよ。
僕もギターは久しぶりなんで、皆でバックアップしてくれると助かります」
「なぁサイガ。
俺にドラムやらせろよ。今日ぐらいいいだろ?」
「き、君のドラムは若干心配だが……まぁ、いいだろう。
パッセロも、今日は会場の警備は他の仲間に任せて、たまには舞台に上がってみたらどうだい?
君の歌は意外と評判がいいと聞いたよ」
「ぼ、僕ですか!? い、いい、いいのかな……
せ、責任重大ですが、がが、頑張ります!!」
「あ、ちょっと、私をお忘れにならないでくださいよ~皆さーん!!」
意気揚々と、舞台へと出ていく我が推し部隊。ついでにアホ天使。
そんな彼らの背中を見ながら、私は改めて決意した。
――うん。
大丈夫だよ。私は、まだ諦めない。
貴方の気配は、前よりずっと近くに感じる。だから、まだ待っていられる。
貴方が来るその日まで。いいえ、それ以降だってずっと――
私はこの世界で、頑張るから。
Fin
※作者注※
このお話の結末どおり、モデルとなった某ソシャゲには未だに推しは来ておりません(大泣)
それでも何とか続けていられるのは、イベントシナリオが非常に良く、原作を深く読み込んでいた出来だったのと、この親父キャラのモデルがこの話のとおり有能だったからかと(他の推しキャラが彼に助けられた奇跡のような場面も実際ありました。いや嘘じゃないです本当です)
ともかく、私の願いはひとつ。早く本命の推しを実装してほしい……!
異世界転生して街を創造しお気に入りキャラ集めてますが本命だけ来なくて大変ブチギレてますマジいい加減にしろこのクソ邪神ども!! kayako @kayako001
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