ex3 弱ったキャラにヘイト集中させるのやめろ

 

 蛇の尾が突然、激しい砂塵を巻き上げながら砂の中から飛び出してきた。

 それも、カイトのすぐ背後から。

 カイトもその動きに即座に気づいたものの、鋭く黒い牙にも似たそれの動きは、彼の反応速度さえも上回り。


「ぐっ……!!」

「カイト!?」


 気づいた時にはカイトは背中からまともに蛇の尾の攻撃を受け、紙のように吹き飛ばされていた。

 砂の上に転がされてしまうカイト。さらに悪いことに――


「まずいです!

 あの蛇の尾、先端に麻痺毒が入ってます!!」

「何だって!?」


 慌ててサイガを振り返るパッセロ君。

 それを聞いて、私もさすがに自分の顔色が青くなるのを感じた。

 案の定、アホウサギが騒ぎ立てる。


「あぁ、ほら! 言わんこっちゃないですよぉ!!

 あんな盗賊ほっといて、丈夫な盾役でも一人入れてれば……!」


 今そんなことを言ったって始まらない。

 麻痺が完全に効いてしまったのか、砂の上に倒れたまま動けないカイト。

 悔しそうに唇を噛んだまま、必死で立ち上がろうとするも、足がろくに動かない。よりにもよって自慢の足が。

 そんなカイトをじろりと睨み、いい獲物を見つけたとばかりに突進してくる蛇。

 あぁ――この世界の魔物どもって、弱った奴をめがけて攻撃してくるんだ。戦いってのはまず弱い者から攻撃されがちだけど、この世界の魔物どもは異常にその傾向が強い。

 狙われるのは決まって、弱った者とか動けなくなった者とか、もしくはまだレベルの低い新人君とか。

 だからカイトはこういう時、やっぱりやられがちなのだ。そこを敢えて利用して作戦を組み立てる時もあるけど、今は違う。


 観念したのか、動けないまま思わず両目を瞑ってしまうカイト。

 そんな彼を一気に叩き潰そうと再び振り下ろされる、大蛇の尾。

 その時――



「カイトさんっ!

 今、お助けしまぁ~す!!」



 どこからか、「彼」の声が響いた。

「彼」の声じゃないけど、確かにあの「彼」の言葉が。

 どんなに緊迫した状況にも構わず、どこか気の抜けるような声で叫んでいた「彼」。

 でもそれが、なんだか可愛くて、面白くて――


 叫びと同時にカイトの周囲を包んだのは、暖かな光。


「……こ、これは!?」


 動かなかったはずのカイトの四肢が、再び敏捷さを取り戻し。

 上から殴りかかってきた大蛇の尾を、紙一重で躱した。

 今の今までカイトがいたはずの場所に、虚しく叩きつけられる大蛇の攻撃。

 激しい砂塵が舞い上がる。


 その後ろから慌てふためいて駈け込んできたのは――

 あのヒゲ親父。



「カイトさん、ご無事でしたか。

 間に合って良かった!」

「お、お前……

 今、この治癒術やったの、お前かよ?」

「は、はぁ。

 普通の治癒術に比べると、発動は遅れがちですがねぇ……

 それでも、旅先ではそこそこ役に立つんですよ」

「そこそこなんてもんじゃねぇよ!

 麻痺も治った上、なんか元気出てきたぜ。ありがとな!」



 そう言うが早いか、カイトは再び短剣を閃かせ、猛然と駆け出した。

 それを見て、サイガも咄嗟に指示を下す。



「今だ、パッセロ!

 一気に攻撃をかける!!」

「分かりました!」



 そんなサイガの号令と同時に、幻影術を使用したカイトが凄まじい速度で何人にも分身し、大蛇の頭に飛びかかる。

 完全にこちらを見くびっていたのか。虚を突かれて明らかに動揺し、カイトの攻撃をまともに食らってのけぞる大蛇。

 サイガもパッセロ君も、ここぞとばかりに斬りかかった。

 さらにあのヒゲ親父も、全員に支援術をかけていく。


 

 親父の行動をきっかけに、完全に立ち直った我が推し部隊。

 カイトの攻撃で素早さも回避能力もガタ落ちした大蛇は、ほぼ動きを止めてしまい。

 サイガがとどめを刺し、彼らが見事大蛇を成敗するまで、そう時間はかからなかった。


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