あのドラマと、ホラー。


 小説家になろうにて。「わたしのざまあ創作論」のコメント欄で、『ホラー』の分析依頼をいただきました。その方がみていらっしゃったという『あなたの番です』というドラマを具体例として、ホラーについて述べていきます。




 さて、『あなたの番です(以下、あな番とする)』は、ホラー要素満載のドラマのようです。私は視聴する機会がなかったので、ネタバレサイトで話の流れをざっと学んできました。


 私はあくまで小説から見たホラーについてのお話を主軸としたいので、『あな番』はドラマの一例としてあげます。


(実際に『あな番』を視聴して、当エッセイの「ここは違う」と感じた方は、コメント欄から指摘してほしいです。)




 まず、『あな番』とは秋元康が企画・原案を担当しています。ほかに秋元康が関わっているドラマならば、『漂着者』『真犯人フラグ』を視聴したことがあるので、それらをもとに、若干想像で分析してみました。


 『あな番』の話の概要としては、男女が引っ越し先のマンションでの交換殺人に巻き込まれる、といったところです。ここで重要なのは、交換殺人の動機に関わっているのは住人でも、被害者はマンションの住人以外も含んでいる点です。


 つまり、「舞台はどこか」というのもホラーの中で重要ですが、その前に。




 このドラマは、ホラー単体ではなく、ホラーと同じくらいほかの要素が混ざった作品となっています。もちろん、ホラーに何らかの要素が絡むことそのものは珍しくはありません。




 私にとってホラーは、「恐怖を与える」ことが目的となるジャンルです。その目的のために「どんな手法をとるか」「どんな舞台か」「何側が与えるのか」「与えられるのは何側か」の四つでホラー作品の細かな分析ができるのではないかと考えています。




 そして『あな番』は、「恐怖を与える」ために。「衝撃的な加虐」「マンションとその外という二つの空間」「マンションの住人」「マンションの住人とマンション外」という要素を使っていると分解することができます。




では、ドラマ内での具体例を挙げていきます。


(例はすべて、ドラマの前半部で、なるべく後半部のネタバレを避ける形で書いています)




①「衝撃的な加虐」(手法)


 加虐というとわかりにくいかもしれませんが、このドラマ内での1話ごとのラスト……つまり、殺人が起きるといった描写のことです。1話では、とある方が「テレビのアンテナで首吊り」をしていました。もちろん殺されたのです。


 どうでしょうか、文字を目で追うだけでも、インパクトを感じませんでしたか? そして『あな番』はドラマですから、実際はその場面が映像としてあるんです。2話でも過激なラストでした。


 いま放送中の『真犯人フラグ』でも、強烈な場面がありました。もちろん、特殊な殺人トリックなどを題材とした作品を読み見聞きしてきた方は、ありきたりだと感じる場合もあるでしょう。


 とにかく、この作品では1話ごとにそういった場面が必ず出てくるのです。だいたいその話の終わりを飾ることが多いようです。そのため、これは『あな番』を通してみたとき、作品を構成する一つの要素であると言えるでしょう。


 この要素、言いかえると「サスペンス」「スリラー」「サイコ」に近いものです。「恐怖」を「暴力」で与えているので、「サスペンス」。「恐怖」を「緊迫感」で与えているので、「スリラー」。「恐怖」を「理解のしにくさ」で与えているので、「サイコ」ということです。


 私はこの中でも、とくに「サイコ」が強い要素として出ているのかな、と感じました。(ネタバレを読んだだけなので、視聴した際には違う要素を感じるかもしれません)




②「二つの空間」(舞台)


 まず、『あな番』は交換殺人をしないか、と話す場面が1話で登場します。「殺したい人」を匿名で書いて、その紙をくじ引きのように引いてみよう、というような展開になります。このことがきっかけとなって、殺人が起きるのです。はじめは誰が誰を「殺したい」と投票したのかはわかりません。そして、殺人事件が次々と起こり、誰に投票したのかが明かされていきます。


 このとき、マンション内のみだけでなく、マンションの外……芸能人なども被害者となるのが重要です。なぜかというと、そうすることで「恐怖」を大きくできるからです。私が分析に面白さを見いだすきっかけになった方が、「ホラーでは日常の崩壊というのをどう描くかが重要だ」といった内容をお話しくださいました。


 『あな番』でその点を踏まえると。


 マンションという「主要キャラにとっての日常(私生活の場)」と、マンションの外という「私たちにとっての日常が重なった、キャラたちと共通する日常」の、二つが用意されています。これらを「殺人」という刺激で崩壊させることによって、『あな番』はホラーとなるのです。


 日常というのは日々過ごす小さな範囲のことを指す場合が多いのです。しかし、私たち受け取り手にとっても、「芸能人」「お金持ちのお医者さん」というのは想像できる範囲でも感じられることですよね。これもまた、「身近にある」ということで「日常」と呼べます。


 そうして視聴者の「日常」も取り入れることで、現実味のある「恐怖」を与えられます。




③マンションの住人(加害者)


 先に述べたように、『あな番』は、マンション住民の交換殺人の案がきっかけで起こるできごとを書いていますね。だから、当然視聴者は「マンションの住人が犯人だろう」と考えることになります。オカルトのように「人間ではないもの」が与える恐怖ではないので、これは「誰が事件を起こすのか」という「ミステリ」の要素が入ってきますね。もちろんほかの点からも「ミステリ」は出せますが、主要キャラの身近に「犯人がいる」ことは恐怖だけではなく、視聴者でも解けるかもしれない謎を与えている、ということです。


 マンションというのは老若男女が集いやすい場です。だから、色んな関係性を作り出すことができます。




 大好きという感情は、(※1)ひと対ものでも描けますが、負の感情は(※2)ひと対ひとによって起こるものではないのでしょうか。


 そして、「人間関係」が出せることにより、読者のなかにある「通い慣れた場所=日常」のイメージが崩れ、作品の雰囲気に呑まれる。また、その場所が身近にあるので、「もしかしたら近所のあの場所も、裏ではあんなにドロドロしているのかも」と、現実味のある薄気味悪さを演出できるかもしれません。


 これがホラーに必要な「日常の崩壊」ということだろうか、と考えました。




※1 ホラーではありませんが、最近はよく見かけるようになった「オタク(とくに推しがいるタイプ)が主人公」系の作品は、オタク対好きなものが中心となって話が展開しています。こういった作品は好きなものが中心だからこそ、明るい話が多いです。代表例は「オタクに恋は難しい」でしょうか。これは好きなものを通して好きな人と繋がるタイプのお話です。




※2 ホラーでは、よく題材にされますね。快楽殺人鬼など「殺人(恐怖を与える、煽る)」が手段であり目的であるタイプはのぞき、「殺人(恐怖を与える、煽る)」が手段である場合。多くの人が「痛い目にあってしまえ」と思うような人物が標的となる作品は、評価の高いものほどその標的となる動機がしっかりしていると思います。たとえば「キャリー」は虐められているシーンをしっかり描いてから、復讐する描写が登場します。また、「キャリー」は学校や家庭など、学生時代を経験した人なら誰もが想像できる舞台(日常)を選んでいます。これもまた、「日常の崩壊」を演出しているといえるのではないのでしょうか。




④マンションの住人とマンション外(被害者)


 ②(舞台)でも、マンションの外で「殺人が起こる」ことに注目しました。そちらでは「日常の崩壊」について述べましたが、④では「揺さぶる感情」について述べます。マンション内での被害者というのは、「恐怖」を与えやすいです。なぜならば、より受け取り手の知るキャラ情報が深いので、「生きた人が殺された」──「日常が崩壊された」ことを実感しやすいからです。②で「現実味のある恐怖」と書きましたが、マンション外での被害者というのは、恐怖以外の感情も揺さぶることができます。


 それは③で述べた「どうやってマンション外の人を殺したのか」という「謎に対する興味(ミステリ要素)」の感情だけではありません。たとえば主要キャラのひとりにジムに通う男性がいます。彼は独特な人物で、オラウータンのような動きで考えごとを整理する描写が出てきます。


 オラウータンダンスとジムという身体を鍛える環境が重なることで、「ギャグ」の要素が入ってきます。つまり、「笑い」を誘う演出もしているのです。全体としてはホラーがメインですから、コメディとは呼べないので、「ギャグ」となります。






 このように、『あな番』では、ホラーに様々な要素が加わった状態で話が展開されています。それでも「ホラー」が主軸となるのは、その結末も関係しているからでしょう。




 では、次に小説でのホラーの描き方を考えてみます。はじめに書いた、ホラーを分解する4項目を用いていきます。




①手法


 ホラーという恐怖を伝えるために、次の二つの手法が考えられます。


(1)対比で伝える


(2)恐怖のみに絞る




 (1)対比


 対比ですから、恐怖とは違う感情を組み合わせる手法のことです、たとえば「恋愛」です。




 (2)恐怖のみ


 恐怖のみですから、恐怖に近い感情を直接、描くことになります。たとえば「緊張感」「不安」です。




②舞台


 これは、場所と時間の二つを指しています。




(3)場所


 出入りが制限されているか。自然がどのくらいの距離にあるところか。知名度はどれくらいか。どのくらいの規模なのか。いつからある場所か。などです。




(4)時間


 過去か現代か未来か。物語で時系列はどう進むか。回想を入れるのか、ずっと時間が進み続けるのか。そもそも作中ではどのくらいのペースで時間が経過するのか。時間の単位は現実と同じか。などです。




③加害者


 これは、次の三つになります。




(5)どんな種族か


 たとえば、人なのか、生きものなのか。それとも呪いの込められた人形か。




(6)どういうふうに加害するのか


 たとえば、女性のみを襲うとか。チェーンソーを振りまわすとか。満月の夜だけ行動するとか。




(7)どんな背景があるか


 どうして加害するのか(動機)。どうして加害者となったのか(誕生のいきさつ)。




④被害者


 これは、③と組み合わせることを意識して書いてください。どんな被害者か、どんな加害者かは、どちらを先に決めることは重要ではないと考えます。


 魅力的なキャラを作れるかどうかと言うことなので、ホラー以外の小説でも重視されることです。




 最後に。


 ホラーによく似たジャンルとして、「パニック」というものがあります。小説家になろうのサイトでは、2021年現在、SFの項目の一つとして登録されています。


 パニック(または災害)ジャンルは映画作品が有名ですね。たとえば「ゾンビ系」「サメ映画」などです。生物・非生物のどちらも題材となっています。


 パニックは恐怖より緊張などを強く与えるジャンルです。また、臨場感のあるものほどパニックとされやすいです。やはり災害を取り扱っていますから、映像の方が迫力が出るのでしょう。


 パニックは、「科学技術の暴走によるもの」からできあがった存在が、「パニックを与える側」として登場しやすいのです。だから小説家になろうでは、SFのなかにあるのでしょう。


 しかし、パニック映画のなかにはたとえば、「タイタニック」という作品も含まれています。「タイタニック」は、沈没する船から脱出するというような物語ですね。


(海ではなく空なら、「エアポート1975」という作品があります)




 また、「ミステリ」もホラーに似ていますね。私の好きな作家さんのなかにはどちらのジャンルも書いていらっしゃる方が数人います。ミステリとの最大の違いは、「謎を解くべきか」「その謎はどんな効果があるか」の2点だと考えています。




 ホラーに似ているジャンルはほかにもありますが、とりあえず小説家になろうの中で明確に分けられている「パニック」「ミステリ」について軽く触れました。


 ただ、ジャンル分けというのはは多少は書き手読み手の感覚で左右される者です。「自分がどの方向で書いているか」を意識するときの道しるべくらいに考えた方が、書きやすいでしょう。


 読み手の視点で考えると、好きなジャンルは何か。そのジャンルの特徴は何か。そうやって深掘りしていくと、「この小説のここが好き!」をもっと明確にできるのではないのでしょうか。

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わたしの創作論・分析 旧星 零 @cakewalk

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