規制線②

 黒、黄、黒、黄、黒、黄、黒、黄…………規制線は見慣れた警戒色で構成されている。腰より少し低いあたりまでが金属板から、そこより上が金網から成るユニットが横一列に組まれて、アーケードの終端あたり、歩道から車道までを隙間なく覆っている。金網には夥しい数の南京錠が架けられている。あるものは古び、あるものは真新しい。ペンで星型が描かれているもの、ハートマークが描かれているもの、あらかじめ引っ掻き傷の付けられたもの。

 中高生の度胸試しのようなものとして規制線の金網に南京錠を架けて戻ってくる遊びが流行しているらしかった。TikTokを見ればその様子を撮影した動画はいくらでもある。日が落ちて暗くなったアーケードを突っ走り、南京錠を金網に架けて、しっかり締まっていることを確認するとまたもときた道を突っ走って中心街へ戻る。

 金網に南京錠を架けるというふるまいは、二〇一〇年代の後半、横浜で再開発のために学生街の駅前ロータリーが封鎖されたとき学生らによるささやかなプロテストとして行われたことではあった。これは僕も何度か目にしたことがあった。生まれ育ったのが横浜で、大学を卒業するまでは南関東でしか暮らしていなかった。だからこんど徳島で行われているこれらを見たときにも横浜のプロテストを思い出したけれど、彼らはあくまで遊びとして、またささやかな願掛けとして南京錠架けを行っているらしかった。TikTokの動画では、南京錠を架けて戻ってくるまでのタイムを競っている様子もあった。ハートマークの南京錠があるのは、恋愛成就の祈りや恋人同士の関係が長く続くようにとの願いも込められているのだろう。はじめは疎らだったのが今では規制線を画る金網のそれなりの部分を覆っている錠のさまが、境内に架けられた絵馬にも見えた。

 僕は赤いマジックペンでハートマークの描かれた錠を触り、すこし引っ張ってみた。真新しい南京錠は手前に振れ、それきり動かなかった。


※試し読み版はここまでとなります。

※11月23日の文学フリマ東京でこちらの作品が載った『Alt + 』という本を出します。

作者Twitter : @CharlieOfkns19d

『Alt + 』Twitter: @Altplus_bungaku

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