規制線


 眉山ふもとまでのびるアーケードは、その尽きる手前で規制線が敷かれ厳重に封鎖されてもう数年になる。新町川の手前の個人書店に顔を出して帰りしなに規制線を見に行く。風が吹いても笠が飛ばないように被りなおし、つとめて足許を見て進む。無人に近い区域では砂を取り除こうとする人もいない。アスファルトやブロックの上に虫食いのように砂が溜まって、海風にあてられて風化した崖の肌のようにも見える。アーケードへ進む橋のうえで既に風化が始まっている。川を覗くと、降り積もった砂が水面からわずかに顔を出している。

 砂が降り出してからというもの、吉野川にも新町川にも、園瀬川にも鮎喰川にも、白っぽい色をした中州がそこかしこに浮かぶようになった。砂をかく努力はなされていないではないとしても、よそから砂を集めてくるような場合には必ずしも手が届くわけではない、ということになるのか。砂はあたかもそこにないかのようだったが、たんに物量としてだけは問題になった。

 除去された砂を埋立地の基礎として用いることはできないか? 検討の結果、砂を新たな輸出品として売買すると決定した国もあった。日本もそれに続いて、シンガポールやベトナム、台湾への輸出が盛んである、らしい。

 新町橋通りのアーケードは共同日覆いではなく片側式で、ほそい柱も歩道をおおう張り出した庇も白く、絵に描いた骸骨のように見えた。人の骨も取りだしてよく洗えば絵のように白くなるのだろうか。焼かれた後に残った遺骨を除けば、人骨をまぢかに見たことはなかった。橋を渡ると町の形だけは残っても、もとが繁華街だったこともあってよりいっそう無人に近付き、歩道にふきこんだ砂の上に足跡を付けて進むことになる。日覆いの一部に穴が開いている。砂の重みでとくべつ弱い箇所が押し潰されたためだった。一度破れてからはほとんど放置されていた庇についても除砂業者を雇って除けるようになったそうだが、今でもそうなっているかどうか。

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