第22話 王都、散策
「ふむ、これは量だけだと思いましたが、味も良いですね。しかし、これは単純に塩のみではないですね。なんでしょう、この隠し味は?」
「ああ、ここの店主は冒険者業も兼ねているから、依頼ついでに採取した薬草やハーブを使っているからなんだ。だから日によって微妙に味が異なるんだよねぇ。それに、この店は朝市の始まる早い時間しか開いていないから、僕が学園にいた頃、休日はよく早起きして食べたモノさ。美味しいからね。」
カトリナ嬢とそう言いながら、店の目の前で“肉と野菜を小麦粉で煉ったモノに挟んだ料理”を食べる。名前は未だに付けて無いらしい。露店の看板も“肉野菜挟み”としか書いていていない。まあ、あれだ、ケネスに言わせれば「サンドイッチに似ている」そうだ。地球って名づけに関してそういうところあるよね。羨ましい。
「・・・なあ、坊っちゃんよ。あんたが学園にいた頃から言っているが、せめてそういうのは俺のいない所で言ってくれんかね。」
「いいじゃないか、おじさん。」
冒険者兼露店の店主はフゥと息を吐き、
「ほれ、頼まれた追加のぶんだ。味付けは変更してある。」
「ありがとう、はい、カトリナ嬢。」
「しかし、お貴族様なのに毒見役とか護衛はいないのかよ。坊っちゃんの実力は同じ冒険者だからわかっちゃいるが、嬢ちゃんは流石に危ないだろう?」
「僕の弟子だといったら?」
「怖いモノ無しだな。なるほどね。なら安心だわな。」
店主とのやり取りを終えると、僕たちは“肉野菜挟み”を食べながら朝市の露店を見てまわる。昨夜、王都邸でカトリナ嬢に今日の僕の予定を伝えたら一緒に来るといったからね。屋敷で朝食は摂らずに、こうして買い食いしている。そして、護衛もいないことはないんだよね。パオロとハシンタが少し距離を開けて着いてきてくれてはいるんだよね。
さて、今日の元々の目的の冒険者ギルドに入る。朝だから掲示板に張り出された依頼をみんな真剣に選んでは受注している。中には被ってしまって取り合いが始まって、それをギルド職員と比較的ランクの高い冒険者が仲裁するという光景も見られる。
僕たちは特級冒険者の僕に合わせて依頼を決める。僕が掲示板に近づくと1人の冒険者が、「おい、今日も来たぞ。特級冒険者のオーギュスト・ユベール伯爵だ。」とささやくように言うと、すぐに僕の前に道が出来た。
「例の3つの依頼を1日でこなしたんだろ?流石だよな。」「あの2人の護衛も相当な手練れらしいぞ。伯爵が狩った魔物とは別に相当数狩ったらしい。」「あの嬢ちゃんも?」「だろうな。命が惜しけりゃ変な事すんなよ。」
色々と言われているなぁ。しかし、良い依頼は無いね。他の上級冒険者の飯の種を奪っちゃうから、一昨日みたいに窓口で割に合わない埃被っていそうな依頼がないか聞いてみよう。
うん、無かったみたい。いや、無いのは良い事なんだけどね。ふむ、それでは、街の散策でもしようかな。貴族街とは違ってお固くないから、気楽に見てまわれるはず。カトリナ嬢も乗り気だし、大丈夫でしょ。パオロとハシンタにも声をかけて冒険者ギルドを出る。
朝市も終わり、店が次々に“準備中”から“営業中”に札をかけ替え始めている。
「カトリナ嬢はどの店を見たいかな?」
「う~ん、特にコレといっては・・・。ああ、ですが、冒険者用の用品を売っているお店には行きたいですわ。」
「よし、そこは最後にしよう。今は、依頼を受注した冒険者で混んでいるはずだからね。取り敢えずは、そこの宝飾店でも見よう。」
そう言って、僕は1軒の宝飾店に入る。慌てて続いてカトリナ嬢が入り、パオロとハシンタは店の外で待機する。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなモノをお探しでしょうか?」
「ああ、この
「貴金属のみのモノということでしょうか?」
「そうだ。それに貴金属も安いモノでは意味がない。言っていることはわかるかね?」
「はい。では、ご希望にそえるモノは店頭にございませんので、保管庫からお持ちいたします。あちらの席でお待ちください。」
流石はそれなりの値段のモノを扱っている宝飾店。客を立たせたまま待たせないようにしっかりと客席が用意されている。僕達が席に着くと別の店員さんが水出し紅茶を出してくれる。
10分も待たずに先程の店員さんが戻ってきた。屈強な男を一人連れて。貴金属を盗まれないようにするための護衛兼運搬係かな。店員さんは何ももたず、その男だけが木箱を一杯持っている。
「お待たせしました。では、1つずつご説明いたします。」
ということで、17個の木箱の中身を丁寧に説明してもらった。
「ありがとう。では、指輪を全てもらおう。」
本当はネックレスとかが良かったんだけど、無いみたいだったからね。ピアスは耳に穴を開けるから却下。ブレスレット系も剣を振る際に邪魔になるか気になるかもしれないので勝手に外した。まあ、プレゼントをするのは僕だからいいでしょ。
「お買い上げありがとうございます。今回、まとめてお買い上げいただけるということでこのお値段でどうでしょう?」
うん、まあ普通よりは安いね。でも、僕も少しは矜持というモノがあるんだよね。貴族でカトリナ嬢の師匠なんだから少しは羽振りの良いところを、本人の目の前で見せたいしね。
「いや、正規の値段で構わない。」
「ですと、このお値段となります。」
「わかった。・・・これでよろしいかな。それと、保管庫まで取りに行かせた手間賃とそこの彼の分の手間賃だ。とっておいてくれたまえ。」
僕はそう言って、お金を払い、商品を収納魔法で異空間に収納する。
「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております。」
最後まで丁寧な接客だったね。こちらは冒険者装備で金持ちそうには見えなかったのに。
「オーギュスト様、あの貴金属らは何にお使いに?」
おっと、渡す人であるカトリナ嬢からそんな質問が来るとはね。まあ、確かにあれだけ買えばただのプレゼントとは思わないだろうね。
「ああ、あれらはねちょっとした細工を施そうと思って。」
「具体的には?」
「黙っていられる?」
コクリとカトリナ嬢が頷く。僕は彼女に近づき耳打ちする。
「物理攻撃の無効。魔法攻撃の無効。毒の無効。呪いの無効。それらを全て仕掛けた相手に返すように魔法を込めるのさ。君の見えない防具となってくれるだろうね。」
そう言うと、カトリナ嬢は慌てて口をおさえる。年頃の娘らしく可愛らしい動作だね。
「なんで、そこまでしてくださるのですか?」
「大事な弟子だからね。それに僕に好意をもってくれているし。」
そう返すと耳まで真っ赤になって俯いた。
扉のある屋敷 @kunibasira
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