ハロウィンの夜の夜の夜

@puninnsyura

第1話 

 ハロウィン?ハロウィーン?

 もともとは北欧ケルト民族に起源を持つ死者の祭り。それがアメリカに渡って家族や友人で思い思いのコスチュームプレイをしてお父さんお母さんはワイワイ、子どもたちはトリックオアトリート!

 そいつが日本に渡ってアホが集まってバカさわぎする日として消費されている。まさにまさに。今年もこの日の大通りは仮装して練り歩く暇人たちであふれている。

 ホッケーマスクチェンソージェイソン、バルログみたいな長い爪フレディ、オーバーオールにナイフ持ってチャッキー、白塗りムラサキスーツのジョーカー。たのしいたのしい殺人鬼そろい踏み。この中にはひょっとしたら本物の殺人鬼が紛れているかもな。実際この喧騒の中じゃあちょっと拉致されて暗がりに連れ込まれ、刃物でブスリブスリ。血まみれになったとしても、仮装した酔っ払いが寝てるだけに見えてしまうだろう。実際、ハロウィンを狙った計画的犯罪は毎年多くなってて、今日も警察は警戒体制を固める。荒れる成人式!みたいな感じでここ数年はハロウィンといえば死傷者が出る血生臭いイメージもついてきた。そんなとこに好き好んで出かけるというと家族からは白い目で見られる。だがそんなことに俺はお構いなし。俺は今日のこの機会に便乗して、目的を遂げる。

「サカキくん。吸血鬼なんてふつーだね。もっと斜め上目指してくるんかとおもってたな」

 右から突然視界にフレームインしてきたのは血まみれナース。片手には輸血用の血が入っているように見える透明のパウチーー中身はきっと赤ワインだ。ちょっと酒くさいからーーそんでテロテロの白い生地に鮮やかな赤い血糊がべっとり。それどこで買ったの?ドンキ?百均?みたいなチープさは気になるものの、コワカワイくてよし!

「マユズミさん、血のりにもうちょっと黒混ぜればよかったすね。赤が鮮やかすぎ」「ふーん、あっそ」「ディティールにはもうちょっとこだわらなきゃ、リアリティに欠けるっすよ」「サカキくんこそ吸血鬼ってのはもうちょっと青白くないと。血色良すぎじゃん?健康かよ、吸血どころか献血しそうだね。献血鬼かよ」「うんまあそうかも、おれ肌ツヤ良すぎでは? いやいやでもさ、奇しくも俺らの組み合わせよくないすか、ナースと吸血鬼て」「なにが?」「なにがってほら」

 吸血鬼は血を欲し、ナースは輸血する。合理的かつお似合いの組み合わせ。そういうコンセプトなんだと思ってた。マユズミさんは自分のことしか考えていないふうに見えてちゃあんと調和ってものを考えている。自分勝手さと気づかいとの奇妙な混合ぶりにマユズミさんの魅力がある。キキーッ、ダンッ。太ももに衝撃。自転車が突っ込まれる。振り返ると短いタバコくわえて、前かごにストロングゼロのロング缶突き刺したじーさん。おいおい、こんな混雑してる大通りを自転車で走んな。

「いてぇー。おい、歩行者優先、歩行者優先よじーちゃん。」「すまんすまん」

と小声で謝りそのままスルーして行く。蛇行運転で愚か者どもの間をすり抜けていく。よくみるとじいさんオーバーオールに赤の帽子、正面にM。アル中配管工め。痛い痛い言ってると、血まみれナースが優しくさすってくれる。

「あはは大丈夫?グビグビ」「ちょっとちょっと他人の不幸を肴に酒を飲まんでよ」「いいじゃん減るもんでなし」「減るもん、オレの自尊心」「でさ、サカキくんが言ってた“マボロシの洋館”ってのはこの先にあるわけ」「多分そうす」「多分て…大丈夫よね、わたしこんな人混みを長い距離歩きたくない」

 そうこう言っていると、目の前にそびえ立つゴシック建築のシルエットが浮かび上がる。我々は人混みをかき分けてテクテク歩いていく。


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