第3話

「いやだ、死にたくない。」


 何時からだろう、この世界がこんなにも腐ったように見えるのは。決まっている、全てはあの日、あいつの狂った実験から始まった。人類は高度な文明を持った対価として倫理観や道徳観を捨てた。

 いや、捨てらざるを得なかった。目の前の発展という利益に目が眩んだからだ。そのおかげで人類は今の享楽を享受している。

 だが、それは人類からの見方だ。俺たち、人類亜種は人類の我が儘で生み出され、消費されていく。消費といっても色々な形がある。俺たちのように戦わされ、戦死させることでの消費や過酷な環境で強制労働させられ、過労死という消費だってある。   

 一番酷い奴は無茶な性行為による精神崩壊だ。女も子供も分け隔てられなく壊すのがあいつらの常套手段だ。だから、自分はまだましな部類で恵まれていたんだと思っていた。だが、その考えも先日の作戦発表で吹き飛んだ。ガリヤ襲撃の際の防衛戦まではいい。いつものことだし、何より生存率が高い。だが、ガリアの支配領地に攻め込むのは違う。奴らの最深部に行けば行くほど抵抗は激しくなって生存率は低下していく。仕舞にはゼロになっちまう。指令室の馬鹿どもはそれでもなお実行しろという。当然だよな、俺たちのような使い捨ての命である人類亜種は死んでもいいって常日頃思っているもんな。体の言い自殺誘致って奴だ。指令室の奴らは俺ら、人類亜種の事を畑から生える兵士程度にしか思っていない。だけど、俺は死にたくない。生きたい、生きて生き抜いた先でこのくそったれな世界を変えてやる。人類種なんて滅ぼして俺たちだけの楽園を創る。それが俺の生きる原動力だ。だから、逃げる。こんな場所にいつまでも居たくない。後ろから仲間たちの悲鳴が聞こえるが、そんなことに構っている暇なんてない。俺はこんなところで死んでいい存在じゃない。そうして持ち場を離れて数十分が経ったころ合いだろうか。今、俺の目の前には壊れたCLAUDIUSとそれに群がるガリア共がいた。間違えない、あれは俺の所属していた部隊のCLAUDIUSだ。何で?持ち場を離れたと思ったら回り道してまたここに戻ってきたのか?いや、そんなはずはない。だって、俺はちゃんと来た道を戻っていったのだから。戻ってくるはずがない。頭の中が真っ白になった。そんなことは知らずに新たな獲物を見つけたガリアは少しずつ俺に近寄ってくる。嫌だ、死にたくない。俺は…だって…。涙が床に落ちると同時にガリアが一斉に襲い掛かってきた。


「ちくしょー!」


 思わず叫んで目をつぶった俺は来るであろう衝撃に怯えた。けれど数秒経っても衝撃が来ない。不思議に思って目を開けると俺の前に薄黒なCLAUDIUSが佇んでいた。そして、そいつの周りに複数のガリアが者も言わぬ死体となって転がっていた。恐らく俺に飛びつこうしてきた先兵だろう。


「無事か?」


 突如、耳の中に響いてきた声は豪くぶっきらぼうなものだった。


「状況説明を求む」


 また、聞こえた。どうやら死に際に見せる夢じゃないことは確からしい。


「あ、ああ。部隊は俺を残して全滅。俺の機体も散弾が30を切った。絶望的だ。」


 嘘だ、ほんとは残弾が50もある。死にたくないがために嘘をついた。いざとなれば此奴を囮にして逃げる時間を稼げる。意地汚いという感覚はある。だけど死にたくない。俺は自己弁護に必死だった。


「状況把握。前方及び右方のCLAUDIUSに生存者無しと仮定。是より、ガリアの駆除を開始する」


 淡々とした物言いで、とんでもない事を口走ったそいつは両腕にマウントされているソードを折り返すと敵陣に突っ込んでいった。俺は思わず、我を失った。どう考えたって自殺行為だ。案の定、先頭にいるガリアに攻撃されそうになる。もう、終わりだ。あいつは死ぬ。そう思っていた俺の予想は容易く裏切られる。たった一振りで襲い掛かってきたガリアを下から上へ降りぬく事で一刀両断した。その後も次々に襲ってくるガリア共の肉体を人たちで薙ぎ払っていく。そして、どれほど時間が経っただろうかそいつは宣言した通り、大量のガリアを地面にただの肉塊と化していた。それが、俺と奴のファーストコンタクトだった。

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死を渇望する者へ @HIUTHIISI

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