第2話
「おにいちゃん!!起きて!」
開け放たれたカーテンから早朝のまぶしい光が部屋全体を明るくした。家は二階建ての一軒家ということもあり、妹の声が家全体に響き渡る。
今日は珍しく妹に起こされる。
情けないと思いつつも、なんとなく体のだるさに気が付く。
「ごめん、なんかしんどいから体温計、、ゴホッ・・・ッ」
最近、ちゃんと睡眠をとっていなかったせいか、体調を崩したかもしれないと、苦しそうに妹から離れながら激しくせき込む。
「えーーー?!お兄ちゃん熱?体温計取ってくる!お兄ちゃんは寝てて!」
「わりぃな、っていうか
苦笑交じりに冗談ぽく言ってみたがこれは本音だ。奏人は盲目だ。一人で歩くことができない。最近、点字の絵本を買ってすごく気に入ってちょっとずつ覚えてきているところだ。
「にぃにー、、、ほいくえん はやくいこう!」
「あーごめんね、ちょっとまっててねー」
保育園に弟を送り迎えするぐらいなら行けるだろうと思い、脇にさしていた体温計を見る。
「おにいちゃん、何度だった?」
「えーっと、、、37.9度」
「それってお熱?」
「ま、まぁね」
37.9度ならちょっとぐらいは外に行けるでしょという甘い考えを持ちながら、朝食を作らねばと思い着替えを済ませ学校に休みの連絡を入れた。
沙綾は先に学校の準備をしているので奏人と一緒に一階に行き、奏人を着替えさせみんなで朝食を食べた後、沙綾は友達と小学校へ、奏人と俺は保育園へ向かった。
奏人を無事に保育園へ送りに行った後、帰りにコンビニでゼリーや、栄養ドリンクを買い、壁に寄りかかりながら家に帰宅した。
家に着き、もう一度体温を測ろうと体温を測ったところ、、、
38.2度になっていた。
まさか上がっているとは思ってもいなかった亜紀斗は沙綾と奏人が帰ってくるまで寝ることにした。
しばらくして、目を覚ますと家のドアがノックされていることに気が付いた。
急いで一階に降りドアを開けるとそこには、
玲と紡は早く入れろといわんばかりに亜紀斗のことを見つめていた。
風音は一人後ろでおとなしく、看病に来たよという様子で立っていた。
「おめぇら、風音をもう少し見習え」
そんなことを言いつつも、三人を家に招き入れる。
自分の部屋に入れた後、玲と紡は当たり前のように部屋に置いてあるお菓子を食べ始めた。そんな二人とは裏腹に風音は亜紀斗のことを心配し、
『大丈夫?』『寝てていいよ』などと優しい言葉をかける。そんな風音の優しい対応に柔らかな笑顔を見せる亜紀斗。風音はその笑顔を火照った顔をでうっとりと見つめる。
紡はそんな二人の様子を羨ましそうに眺めていた。
そんなこんなで、雑談をしながら時間をつぶしていたら沙綾が帰ってきた。すると三人は、そろそろ帰ると言いのこのこと家を出た。
その日の夜になると熱も治った。
*********
今日は風も治り学校へ登校した。一日しか休んでないが、教室が久々に来たように思える。
授業も終わり、帰宅する時間だ。今日は部活がない。
さっさと保育園に行き奏人を迎えに行く。
「にぃに!きょうは、くももおねえちゃんが、ぴあのおしえてくれるひだよね!」
くももおねえちゃんとは、亜紀斗の同級生であり、たまに奏人にピアノを教えに来てくれる人で、本名は
今日はその日だ。
家に着き、数分経った頃インターホンが鳴る。
奏人は、『くももおねえちゃんだ!』と言いながら、はしゃいでいる。
亜紀斗は久百々さんをピアノのある部屋に招き入れて、奏人をピアノの椅子に座らせる。
ピアノから少し離れたテーブルに奏人と久百々さん用の紅茶とクッキーを準備した。
約一時間ほどのレッスンだ。その間に少しだけ覗いて見学させてもらってたまに妹とも一緒に見ている。
ピアノを教えている久百々さんはとても素敵で、姿勢がとてもよく奏人に親身になって教えてくれている。その透き通ったような柔らかな声は二年前に亡くなった母に少し似ている気がする。優しい笑顔で丁寧に、弾けるようになったらその柔らかな声で褒めている。そんな光景を見ていると亜紀斗もうれしくなる。
奏人が生まれたばかりの時、奏人が盲目だと聞いて父と母は大変絶望していた。だが、産まれてきた奏人はいつも笑顔だった。そんな笑顔に励まされるかのように母も父も沙綾も亜紀斗も笑顔が増えていった。
毎回、ピアノの練習を見ているときは時間が過ぎるのが早い。
練習が終わったら、お菓子を食べたり、紅茶を飲んだりして雑談をしてから帰る。
亜紀斗にとって雑談の時間が一番心が落ち着く時間だった。
久百々さんの優しい笑顔を見ながら、久百々さんの柔らかな声を聞きながら、雑談する。こんな贅沢な時間を俺が過ごしていいのかと思うこともある。
でも、なぜか久百々さんとしゃべってるときは胸の鼓動が早くなっている気がする。
いいとこ見せようと思ったり、簡単にいえばかっこつけようとする。
こんなこと思うなんてばかだなぁと思いつつも初めての感情に心の中で戸惑ってしまう亜紀斗がいた。
*******
ある日久百々さんから、突然二人きりでのお出かけに誘われた。
お兄さんの誕生日プレゼントを一緒に決めてほしいからだそう。
亜紀斗は前の日の夜まで服装に悩んだ。
お出かけに行くにあたって、幼馴染の玲、風音、紡にも相談しようと思い、相談した結果、、、
玲は案の定
『亜紀斗、久百々さんとデート?! がんばれよ!!』と言って応援の言葉をかけてくれた。
風音は、なにか明確なアドバイスをくれると思ったが、
『へ、へぇーそうなんだ。』そうつぶやいた風音は少し寂しそうだった。
その一方で、紡は
『あ!そうなんだ!楽しんできて!』と言い風音の顔を覗く
『じゃあ、風音はあたしと二人でどっかいかない?』
その案に風音は同意し、二人でどこに行くかなどを決めていた。
その時の紡の表情はまさに恋する子猫のような表情だった。
友情か恋愛か家族、、、 ららめ @Rarame
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