大地の下で蠢く意志

高黄森哉

地球は生きている


 マントルの遥か地下、高温のコア、大いなる母なる地球の意志が、脈動する。そうだ、文字通り地球は生きていた。高温ドロドロのケイ素が、未知の工程を経て、人間の神経細胞に酷似した、しかし、遥かに質のいい思考を生み出していたのだ。


 地球は人類の営みを暇つぶしとした。地球はあらゆる、言語を聞き取れたし、もはやそれが言語である必要すらなかった。鳥のさえずりに破廉恥を見出すこともできたし、昆虫の合唱に美学を発見したりした。そのコオロギの身体を貸してもらって、良く見える高台に居座る。なにやら、人混みが出来ていた。


 人類がまた何か言ってるようだ。


 内容はこうだった。どうやら、人類の愚行のせいで、母なる大地がお怒りなんだと。きっと、しっぺ返しを食らうぞなんの。それが昨今の異常気象なんの。地球が泣いている、地球を守らないとなんの。


 おかしい。


 まるで、他人事みたいじゃないか。私は、表面の空気の層が丸ごと無くなってしまっても、コアが冷えたりしないから、大丈夫。第一、そういう時代のほうが遥かに長いから、それが正常なんだけど。だいたい、人類ごときが私を守れるはずがない。

 私は困ったりしない。地球は、汚されても中毒にならないし、暖められても熱中症にはならない。私は強い。

 それにしても、なんで、彼らはそんなに、他人事なんだろう。おもしろくない。さては、現実逃避だな。神経が太い。

 いいか、地球は簡単に死なない。地球は怒ったりしない。悲鳴も上げなければ、我慢もしない。短気じゃない。ずっと、ここにいる。人類を置いて行ったりしない。


 これは、彼らの問題なのだ。最近の異常気象は、私が暴れてるのではない。仮に私が泣いても、ハリケーンにはならないし、私が風を引いても干ばつは起きないのだ。正しく、風評被害である。


 正しくはこうだ、コオロギで歌ってあげましょう。コオロギの羽を震わせて、コオロギ語で歌います、人間達の歌の替え歌です、どうぞ。


 人間は生きている

 人間が泣いている

 人間が怒っている

 人間は中毒になる

 暑い、倒れそうだ

 寒い、風邪ひきそうだ

 人間が死んでいく

 自分達を守らないと


 突然、目の前が真っ暗になり、コオロギから締め出されます。通りがかった人が踏みつぶしたんでしょうか、それとも鳩が攫って行ったのでしょうか。そうですか、そうですか。

 私は、つまらないので、しばらく寝てるとします。面白そうだったら起こしてください、その日まで、おやすみなさい。

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大地の下で蠢く意志 高黄森哉 @kamikawa2001

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