きょうのあんこ

よろしくま・ぺこり

きょうのあんこは?

『やかましジャンケン。ジャンケンぽん! きょうはくるくるパーのひとが勝ちだよーん。バーカ!』

 毒舌で有名な“やかましくん”のイラつくジャンケンが終わると、ひとときの安らぎのコーナー『きょうのあんこ』が始まる。


『きょうのあんこ……ここは南東北にある小さくて寂れた雰囲気のあるお寺、音雨山仁王寺。その名前通り、山門には阿吽の金剛力士像がお寺を守っています。なんでも県の重要文化財候補になりかけたとかいう由緒のありそうな仁王さまです』


『こちらのお寺の住職、覚詠和尚さま、69歳。若い頃は“薙刀の覚詠”と呼ばれて世間さまや妖怪変化たちから恐れられていたそうですが、今は近所の子どもたちが境内で元気に遊んでいるのをニコニコと見守っている好々爺のように見えますけれども……』


「なに、まだ膂力では若いもんには負けないわ。この前も賽銭泥棒に来たタイ人の若造の首級を薙刀で吹っ飛ばしてのう……あっ、このことは放送でカットしておくれ」


『和尚さん、ごめんなさい。編集さんがカットし忘れちゃったみたいです。まあ、タチの悪いジョークだということにしましょう。それよりも本題ですよ』


「ああ、あんこだったな。わしはあんこでぼた餅とおはぎを作って仏に供えるのじゃ。あんた、ぼた餅とおはぎの違いは知っとるか?」


『さあ、わかりません。こし餡とツブ餡とかかしら?』


「無学よのう。ぼた餅は春のお彼岸、牡丹の花に見立てており、おはぎは秋のお彼岸に萩の花に見立てている。ものは同じじゃよ。覚えておくが良いな」


『はい。ところで和尚さんは“スイーツ和尚さん”と呼ばれているのですよね?』


「まあね。なんか、芝田山親方みたいで気に入らぬが、和菓子を作るのは好きだな」


『そろそろ、ご自慢のあんこを作ってくださいよ』


「仕方がない。もうお彼岸はとっくに過ぎたが特別にというか、事前の打ち合わせ通り、おはぎを作ろう。境内に出よ」


『はーい……あのー、和尚さん。この巨大な釜と鍋、それにクレーン車二台とショベルカー二台はなんなんですか?』


「せっかく作るんじゃ。檀家さんや関係者に配るのだ。もちろんあんたたちの番組スタッフや出演者さんにもな。さて、この釜と鍋は大昔に新日鐵釜石で松尾くんに作って貰った特注品じゃ。さあ、裏の森から伐採して来た杉の木に火を付けるぞ。ガソリンとダイナマイトを使うから離れてヘルメットをつけなされ。とても危険じゃ」


『ひーっ!』


 ドカーン! ドカーン!


『これは特撮ヒーロものの爆発シーンじゃありません。ただのスイーツ作りです。すみません。ちょっと耳が遠くなっています。ああ、杉の大木に火がつきました。火がついたというより炎上しているようです。地元の消防局から放水車が来ていますが隊員さんたちは笑っています。うわー、クレーン車によって巨大な釜と鍋が大火の上に置かれます。あっ。今、気がつきましたが炎のところにはこれまた巨大な五徳が二つあります。これも新日鐵釜石製でしょうか?』


「いや、あれはリンナイさんが特別に作ってくれたものじゃ。火力調節も可能じゃぞ」


『そうですか。あれ? ヘリコプターの音がします。あっ、六機のヘリがやって来ています。あーっ、空から大量の餅米とあずきとお水が投下されて釜と鍋に入りました。続いて釜には蓋がされ、鍋には大量の砂糖が入れられました。和尚さん。お米は研がなくていいのですか?』


「無洗米じゃよ。JA東北さんと航空自衛隊の皆さんの協力じゃ。オタクらの番組のためだぞ。あとでギャラじゃあなくご寄進を弾まれよ。数千万円はかかる。わはは」


『はあ、あの和尚さん。もうどうやって編集しても、コーナーに入りきりません。放送はここまでです』


「なに、食べ物を粗末にはできん。最後まで作るぞ。完成したら局に代引きで送って進ぜよう。おはぎは十個で三万円じゃ。縁起物だからのう。プレミアがつくのだ。三千個くらい送ってやろうの。ははは」


『ぼったくり餅じゃん!』


「おいはぎじゃよ。秋だから」


 おしまいです。

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