第39話 子供達の撤退戦

 雷の実の群生地帯を抜けたディオール王国の遠征部隊を少しでも長く足止めするために、ナキを殿しんがりとして開始された撤退戦。

 その名の通り足止めは勿論の事、誰一人捕まる事なく村まで逃げる事が絶対条件だ。


 少しでも判断を間違えれば全てが水の泡溶かす、殿を務めるナキにとって今の役割はかなりのプレッシャーだ。

 それでもやらなければならないという事実が、ナキを現実へと叩きつける。


(敵の意識が完全にこっちに向いた、もう後には引けねぇ!)


《ナキ、アイツらおいかけてきたよ!》


 ナキの傍にいた一体の下位精霊が遠征部隊の様子をすぐさま伝えた。

 逃げるナキ達を目の当たりにした遠征部隊は、下位精霊が告げた通りナキ達を追いかけてきていた。


「隊長、獣人ビーストの子供が大量に出てきました!」


「さっきの一匹だけじゃなかったのか!

 今すぐ追いかけて捕まえるぞ、遠距離攻撃できる者は奴らに向かって攻撃しろ!

 絶対に逃がすな!」


「ちょっと待ってよ、置いて行かないで!」


「よっしゃ動物がりだーっ!」


「ダレが一番つかまえられるか勝負しようよ!」


「ヒトモドキ風情が人間ヒューマン様から逃げられると思うな!」


《ってかんじで話してるよ〜》


「内容がムナクソ悪すぎるな! おいっ!」


 風の下位精霊から遠征部隊の会話内容を聞いたナキは、その内容の酷さに憤りを感じていた。

 ディオール王国の騎士隊は完全にクルークハイト達の事を動物扱いしており、元同級生達復讐対象の一部もそれに便乗していた。


 会話の内容から今の状況を完全にゲーム感覚で楽しんでいるようだ。

 一年間も人間主義の国で過ごしていればそうなるのも無理ないが、あからさまに影響を受け過ぎだ。


「アイツら、俺達を見つけたとたんに楽しんでやがる。

 元同郷の身としてはずかしいんだけど!?」


「何それ趣味悪い!」


「完全にディオール王国の思想に染まってる、手加減したら酷い目に合いそうだ」


つぶてを投げる時は問答無用で投げ付けてくれ、ジヒはいらん!」


「それじゃあ心置きなく、それ!」


 ナキから慈悲を掛ける必要はないと言質を出されたクルークハイトは、すぐさま投石器スリングで〝スパーク放電〟の石礫いしつぶてを遠征部隊目掛けて投げ付けた。

 攻撃を仕掛けられたと気付いた騎士の一人が盾で石礫を弾き返そうとするが、盾と石礫がぶつかった直後に魔法陣が起動し、ダメージを追った。


 加えて周囲の騎士も巻き添えを食らい、多少なりとも被害を与えられたようだ。 

 だが、ナキの元同級生の一人である由麻が回復系統のスキルを持っていたらしく、〝スパーク〟でダメージを受けた騎士の治療を開始した。


「ヤバッ⁉ ∫水法:泉のせせらぎ∫!」


「大変、あの子倒れた騎士を治し始めちゃったよ⁉」


「いや、今のでかなりのダメージを与えられたから、すぐには回復しきらない筈だ!」


「だったらあの子も動けないように捕まえちゃいましょう!」


 倒れた騎士の治療をする由麻の動きを封じようと、ローロは〝バインド束縛〟の石礫を由麻の足下目掛けて投げる。

 だが〝バインド〟の石礫が足元に落ちる前に他の騎士が間に割って入り、剣で石礫を斬り割ってしまった。


「うっそ! 石礫斬られちゃったわよ!?」


「そこら辺の石を素材にしたから、簡単にこわされちまうんだ。

 〝フリーズ氷結〟!」


 〝バインド〟の石礫が斬り割られたのを見たナキは素早く〝フリーズ〟を唱え、倒れた騎士ごと由麻を氷漬けにした。

 これには流石のクルークハイト達も困惑した。


「ナキ、あれは流石に不味くないか!?」


「問題ない!

 どうせ連中のダレかが溶かすだろうからあれぐらいが丁度良いんだよ!」


「完全に私情が入ってるよなそれ!?」


「見ろ、ナキが氷漬けにしたから相手も凄く動揺してる!

 アミ、石礫を!」


「わかった! えいっ!」


 ナキが騎士と由麻を氷漬けにしたせいで遠征部隊全体が動揺していたため、この隙にイーサンがアミに石礫を投げるように促した。

 アミも慌てながら〝パラライズ麻痺〟の石礫を遠征部隊目掛けて投げ付けた。


 僅かに飛距離が足りなかったらしく、手前の方で落ちてしまったが上手く魔法陣が起動、尚且つ効果範囲が広かったため数名の騎士を麻痺状態にする事ができた。


「アガガガガガガガッ」


「シビビビビビビビ」


「クソッ! 今度は〝パラライズ〟か!」


「うっうわっ! おじさん達がしびれっちゃった!?」


「静、早く由麻の氷を溶かして!」


「ちょっちょっと待ってよ! 今やってるから!」


 思った以上に戦力が削られてしまい、遠征部隊の騎士達は隊列を乱し元同級生達は必死に氷漬けにされた由麻を溶かす静を急かす。

 急かされる静もかなりいプレッシャーに感じており、上手く魔法が使えないようだ。

 その様子を見ていた下位精霊達が、ナキにある事を告げた。


《ナキ〜、回復役ヒーラーはあの氷づけになった子だけっぽいよ?》


《炎のマホウが使えるのも、今とかしてる子だけみたい》


「それじゃあ今の状態なら、炎系統のコウゲキは飛んでこないって事だな?!」


《すぐゼンセンフッキしないように、ボウガイしてくるね》


《こおらせ直したらすぐ追いかけるから》


 敵側の回復と炎系統の攻撃ができる者が一人ずつしかいないとわかった氷の下位精霊達は、由麻と静が前線に復帰しないよう妨害に向かった。

 そして先程下位精霊達から聞いた内容を全員に共有する。


「今セイレイ達から情報が入った!

 敵側にいる回復役は一人、加えて炎系統のコウゲキができるのが今氷を溶かしてるヤツ一人だけだ!

 しばらくの間敵は回復できない!」


「それじゃあこの隙に人数を減らしましょう!」


「いや、欲張って人数を減らすよりも確実に距離を取って身の安全を確保しよう!」


《ナキ! こっちに矢がとんでくるよ!》


《フツウの矢とマホウの矢がドウジにとんできてる!》


 あえて攻撃に転じるかこのまま村まで逃げるべきかで話していると、カノンが言ったように後方から複数の矢と魔矢が飛んできた。

 それに気付いたシャーロットが、とっさに風魔法を発動させる。


「〝風よ、我を守る壁になれ。ウィンド・ウォール風の壁〟!」


 風の防御魔法を発動させ、飛んできた矢を弾き落とすが魔矢の方は止めきれなかったらしく、数段の魔矢がアミとローロに向かってしまった。


《チェッチェスト〜ッ!》


 だが、魔矢が二人に届く前に護衛として足元にいたノルンが触手で全て弾き落とした。


「あっ危なかったわ!」


「ありがとうノルン!」


《アミとローロはノルンがおまもりするの!》


「ナキ、サポートしてくれ!

 同時に石礫を投げるぞ、クルークハイト!」


「わかった!「せーのっ!」」


「ここで加速だ!」


 ノルンによってアミとローロの安全が確保された事を確認したアネーロは、クルークハイトとの同時攻撃を仕掛けた。

 そこに加えてナキの風魔法による補助も入り、投げられた石礫の速度が加速する。


 騎士達はナキの風魔法で加速した石礫を捉えきれずそのまま直撃するかに思えたが、ナキ達と遠征部隊を隔てるように氷の壁が出現。

 〝スパーク〟と〝フリーズ〟の石礫は氷の壁に直撃し、魔法陣が発動した事で遠征部隊にダメージを与える事ができなかった。


「なんだアレ!? ナキと同じ氷の壁?!」


「俺〝アイス・ウォール氷の壁〟発動させてないぞ!」


「それはわかってるから安心しろ!

 今のは相手側の誰かが出したんだ!」


《ナキ、あの氷のカベはアビリアの子が作ったヤツだよ》


《一つのノウリョクでいろんなことができちゃうマルチタイプみたいだから、きをつけて!》


「氷の能力者アビリア多機能型マルチタイプ、北村の野郎か!」


 下位精霊達から新たな情報を得たナキは、先程の攻撃を妨害したのは浩介という元同級生だと理解した。

 ナキはすぐさま炎の遠距離攻撃魔法を発動させる。


「(エイショウを唱えている余裕はないな……。)

 〝フレイム・アロー炎の矢〟!」


 詠唱を飛ばし〝フレイム・アロー〟を発動させ六発の炎の魔矢を作り出し、それら全てを浩介が作り出した氷の壁に向けて発射する。

 炎の魔矢はたった二発で氷の壁を溶かしきり、残る四発はそのまま遠征部隊目掛けて突き進む。


「俺の氷がとけた!? ギャアアッ! こっちに来る?!」


「こ、コウスケ様とご友人様方をお守りしろ!

 〝ウォーター・ウォール水の壁〟!」


「「「〝ウォーター・ウォール〟!」」」


 自慢の氷の壁が溶かされ、尚且つ目の前に迫る炎の魔矢を目の当たりにした浩介はその場で腰を抜かしてしまう。

 炎の魔矢を目の当たりにした班長は騎士達に指示を出し、すぐに水の防御魔法を発動して防ぐ。


 一見水に炎は有利に思われるが、炎の魔矢が〝ウォーター・ウォール〟に直撃した事で遠征舞台全体が水蒸気に包まれてしまい、周囲の様子を確認できなくなってしまった。


「アイツら、霧っぽい奴に包まれたぞ!?」


「今の内に全力で走れ! 少しでも距離を取って引き離すんだ!」


 意図せず発生した水蒸気により、遠征部隊が動けないと考えたナキは全力で走り距離を空けるよう全員に指示を出した。

 その時前を走っていたシャーロットが、前方を見て指さした。


「皆アレ! 何か飛んでくる!」


「ちょっと何アレ! アレって蝙蝠コウモリ?!」


《ノルンしってる! アレはケイブバット、ドウクツとかにいるコウモリのマモノなの!

 ヨルになると、ドウクツからでてくるんだよ!》


「えぇ! あの蝙蝠さん魔物なの!?」


「なんでこんな時間帯に、しかも沢山飛んでるんだ?!」


 前方上空から大量のケイブバットという蝙蝠型の魔物が飛んできた事に驚きを隠せないでいた。

 それと同時に、イーサンが口にしたように何故今のような明るい時間帯に群れで飛んでいるのかという疑問が浮かぶ。

 だが、今のやり取りを聞いていたナキとクルークハイトはすぐに答えに気付いた。


「ナキ、あのケイブバットの群れ……っ」


「上村の野郎が呼びだしたショウカンジュウだ!」


 前方に飛んでいるケイブバットの群れが和樹が呼び出した召喚獣だと理解したナキとクルークハイトは、すぐさまケイブバットの群れの撃墜に入った。

 クルークハイトはなるべく中心目掛けて〝スパーク〟の石礫を投げるが、ケイブバットにはかわされてしまい、かなり先の方で発動するだけに終わった。


 ナキも〝サンダー・アロー雷の矢〟を発動させ大量の魔矢を呼び出し迎え撃つが、ケイブバットの個体数が多く全て使い切っても撃ち落とす事はできなかった。

 アネーロ達も続いて石礫を投げるが、クルークハイトの時同様躱されるのがオチだ。


「駄目だ、すばしっこいのと小さいとが合わさってるせいで当てられない」


「キャアッ! こっちに来たわ!」


《ナキがピンチだ! みんなで守れーっ!》


《 《 《わーっ!》 》 》


《あっち行け〜っ!》


 ケイブバットの群れがナキ達目掛け突撃してくるのを目の当たりにしたカノンは、ナキのふところから飛び出して周りにいた下位精霊達と共にケイブバットの群れに突撃した。


 ケイブバット達はカノン達下位精霊が見えていないらしく、無抵抗に攻撃されている。

 ノルンも運良く下位精霊達を突破したケイブバットを必死に叩き落とし、アミとローロを守るという役割を果たしている。


 だが、和樹が次々と呼び出しているのか、ケイブバットの数は思うように減らず、ナキ達の進む速度が下がってきていた。


「ケイブバットが多すぎる!

 このままじゃシャーロットを守りきれない!」


「前が見えなくて思うように走れないわ!」


「フィレイ、お願い、ケイブバットを追い払って!」


《任せて!》


 これはたまらないと思ったシャーロットは、自分の契約精霊であるフィレイにケイブバットの群れを追い払うよう頼む。

 フォレイもそれに答え、風の刃を巻き起こしてケイブバットの群れを攻撃するが、それでもケイブバットの個体数は中々減らない。


《シャーロット駄目よ、召喚士サモナーを倒さない限り延々と増え続ける一方だわ!》


「でも、そんな余裕ないよ?!

 どうしたら良いの?」


《ナキー、お待たせーっ》


《ただいまからのえんぐんだよー》


 全く減らないケイブバットの個体数に苦戦していると、由麻と静が前線復帰しないよう妨害のため遅れていた氷の下位精霊達が追いついて来た。

 そしてその内の一体が、ナキにとある報告をする。


《ナキ、ハンチョウってよばれてる人間がサモナーの子にシジを出してる。

「数で勝るケイブバットをぶつけて、ダメージを与えて弱らせるべきだ」って》


「他に何か言ってなかったか?」


《「弱った所で、オレンジ階級ランクの魔物を呼び出して攻撃させよう」だって。

 オレンジランクならウルフやゴーレムのマモノが出てくると思うよ》


「橙階級のマモノならギリギリ対応できる。

 けど今呼び出された対応できない、どうしたら良いんだ?」


 辛うじて橙階級の魔物の対処できる自身はあるが、現在の状況では対応できないと考えるナキ。

 どうすれば良いのか分からないナキが悩んでいると、クルークハイトがある魔法の事を伝えた。


「ナキ、この前話してた派生魔法は?

 村に来る前に大型の魔物を追い払う時に使ってたっていう!」


「そうか! すっかり忘れてた!

 カノン、他のセイレイ達と一緒に皆の耳をふさいでくれ!」


《わかった! みんなてつだってーっ!》


《 《 《わかったーっ!》 》 》


 クルークハイトから助言を得たナキは、仲間達に飛び火しないようカノン達に全員の耳を塞ぐように指示を出した。

 そんなナキの指示に素直に従い、カノン達はケイブバットの群れとの戦闘を止めて二体一組になってナキ達の耳を塞ぐ。


《ナキ、みんなの耳ふさいだよ!》


「そのまま押さえ続けて! 〝サウンド・ボム音の爆弾〟!

 いけぇっ!」


 カノン達が耳を塞いでくれた事を確認したナキは詠唱飛ばしで〝サウンド・ボム〟を発動させ、ケイブバットの群れの中心目掛け魔弾を投げる。


 群れの中心にいたケイブバッドに当たると同時に、強烈な音が発生する。

 〝サウンド・ボム〟にあてられたケイブバッド達は意識を失い次々と地面に落下していく。

 

「えぇっ! ケイブバットが急に落ちてきた!?」


「なんで急に?」


「よし、〝サウンド・ボム〟成功だ!

 これなら当面の間ケイブバッドは動かないはず!」


「ナキがやったのか? 一体何を?!」


「ナキの魔法で音を使った攻撃を仕掛けたんだよ。

 精霊達が耳を塞いでくれたから、これで逃げられる筈だ!」


「それって、ディオール王国の騎士達には聞こえてるって事だよね?」


 クルークハイトが詳しい説明をしていると、シャーロットが遠征部隊にも被害が出ているのではないかと指摘した。

 ハッとしたナキ達は思わず立ち止まって後ろを振り返り確認すると、そこには耳を抑えて悶える遠征部達の姿があった。


「……思いっきり被害に合ってるな」


「めっちゃ効果が出てる!」


《ナキすごーい!》


「意図せぬ意趣返しになっちまった、解せぬ」


「そこはこだわらなくて良いから、早く行こう!」


 今の内に距離を取るべきだと判断したアネーロがナキ達を急かし、再びナキ達は走り出した。

 だがその前にナキはもう一度振り返り、詠唱飛ばしで〝フリーズ〟を発動する。


「そうだ、今の内に……。〝フリーズ〟、それっ!」


 発動させた〝フリーズ〟を班長目掛けて投げ飛ばし、そのまま氷付けにして動けなくする。

 眼の前で班長が氷付けになったのを見た騎士達は慌てふためいた。


(これで連中の統率は取れなくなる、アイツら木村達もどうしたら良いかわからなくてコンランするはずだ)


「ナキ、早く逃げるぞ!」


「すまない、今行く!」


 班長が氷漬けになった事を確認したナキは、クルークハイトに急かされて再び走り出した。

 だが頭上で下位精霊達が騒ぎ始めた事で再度足を止める。


《何アレ何アレ!》


《おっきなショウカンジンだ! マモノをよぶきだ!》


《ケイブバットじゃないよ?》


《おっきなマモノがくるよ!》


「えっ?!」


 下位精霊達の会話内容を聞いたナキは、慌てて振り返り状況を確認する。

 ナキの目に映ったのは、魔法陣を発生させて新たな魔物を呼び出す和樹だった。

 状況を察したナキは、すぐさまクルークハイト達に伝える。


「上村の野郎が新しいショウカンジュウを呼び出すぞ!

 気をつけろ!」


「今度は何を呼び出す気だ!?」


《なにがきても、ノルンがんばってやっつけるの!》


 ナキから状況を告げられたクルークハイト達は、和樹が呼び出そうとしている召喚獣に警戒した。

 だがそこで、後ろを振り返ったアネーロが突如足を止めた。


「何やってんだアネーロ!」


「……なぁ、なんか様子が変じゃないか?」


「「「え?」」」


「変って何が?!」


「……やっぱり変だよ、ディオール王国の騎士達総出で召喚士を止めてる!」


 アネーロにつられて足を止めたナキ達だったが、遠征部隊の騎士達が和樹を止めていると聞き、自分達も振り返って様子を確認する。

 アネーロが言ったように、新たな召喚獣を呼ぼうとしている和樹を遠征部隊の騎士達が慌てた様子で止めていた。


「か、カズキ様おやめ下さい!」


「そんなに魔力マナを注ぎ込んだら高階級の魔物が召喚されてしまいます!

 いくら我々でもお守りできません!」


「うるさいだまれよ!

 お前達が役立たずだからこっちが一方的にやられたんだろう!

 もっと強いヤツを呼んで、アイツらを痛い目にあわせてやるんだ!

 お前ら二人もマナを全部使って僕に協力しろ!」


「魔力を全部だと!?」


「冗談じゃない、そんな事すれば我々が魔法を使えなくなってしまうではないか!」


 班長がやられた事を皮切りに、遠征部隊内では仲間割れが起きたようだ。

 だが会話の内容的に、何やらマズい事になっているらしい。


「なんか仲間割れしてるっぽいけど、ほっといても大丈夫じゃない?」


「また何か呼び出すつもりみたいだけど、止めた方が良いかも……」


「どうしたんだ、シャーロット?」


「わかんない。でも、なんだか嫌な予感がするの……」


 嫌な予感がする、そう告げたシャーロットが言った通り、ナキも召喚陣を見てから嫌な胸騒ぎを覚えていた。


(セイレイ達の様子からして、ケイブバットじゃないのは確か。

 でもなんでだ? あのマホウジンみたいなヤツから嫌な感じがする!)


「いいからさっさとやれよ! ‡魔力源奪ムォリーユェンドォ‡!」


「ギャアアッ!」


「グワァアアッ!」


 和樹への魔力供給を拒む魔法士ソーサラー二人にしびれを切らした友樹が水晶玉を取り出すと静のような法術を使い、魔法士二人から魔力を奪ってしまった。

 魔力を奪われた魔法士達は、力が入らずその場で膝をつく。


「なんだ、あの水晶玉を取り出した奴、魔法士に何かしたみたいだぞ!」


《あの子呪術師だわ。呪術で魔力を奪ったのよ!》


「マナをうばったって、どういう事?!」


《魔法士達が協力しないから、一方的に魔力を根こそぎ奪って召喚士の子に渡すつもりなのよ!》


「それはマズい! 皆、一斉コウゲキで和樹を止めるんだ!

 〝サンダー・アロー〟!」


「〝風よ、礫となりて敵を撃て。ウィンド・ショット風の小球〟!」


 フィレイの証言からこのまま放置するのは危険だと判断したナキは、全員に指示を出し和樹に目掛け〝サンダー・アロー〟を放つ。

 シャーロットもナキに続き、〝ウィンド・ショット〟の詠唱を唱え放つ。


 二人のただならぬ様子を見ていたクルークハイト達も、礫を和樹目掛けて投げつけるが、ナキ達の攻撃は浩介が出したであろう氷の壁に阻まれてしまった。


「また氷の壁だ!」


「攻撃は防がれたけど壁の方も壊れてる、もう一度攻撃しよう!」


「アネーロ危ない!」


《ローロもあぶなーい!》


 浩介の出した氷の壁に阻まれたものの、同様に自分達の攻撃で氷の壁も壊れたため追撃しようと石礫を投げようとするアネーロだったが、壊れた氷の壁の向こう側から炎の魔球が飛んできた事に気づいたローロに腕を引っ張られた。


 加えてノルンも触手をローロの腰に巻き付けて引っ張ったため、アネーロとローロの二人は無事だったが、追撃する事はできなかった。

 炎の魔球を目の当たりにしたナキは遠征舞台の方を確認すると、杖を構える静とびしょ濡れになっている由麻の姿があった。


「クソッ! 氷を溶かして復帰してきやがったか!」


「さっきは良くもやってくれたわね!

 絶対に許さないんだから!」


「和樹、早く強いショウカンジュウを呼び出してちょうだい!」


友樹、早くマナを!」


「わかってるって、‡魔力源与ムォリーユェンユー‡!」


「やばい、魔法士達の魔力が召喚士の奴に渡っちゃったぞ!?」


「皆走れ!」


 怒り心頭な由麻と静に急かされ、友樹は魔法士達から奪った魔力を和樹に注ぎ込んだ。

 その光景を目の当たりにしたアネーロはすぐさま全員に指示を出して和樹達との距離を取る。


「来た来た来た来た来た来た来た!

 さぁこい、僕の最強のショウカンジュウ! 〝サモン召喚〟!」


《ショウカンジュウが出てくるよ! 気をつけて!》


《おっきいのが来るーっ!》


 召喚陣に流れる魔力から大型の召喚獣が出てくると騒ぎ立てる下位精霊達。

 一体どのような召喚獣が呼び出されるのか確認するべく、後ろを振り向こうとした時、地面が激しく揺れた。


「キャアッ!」


「なんだこの揺れ?!」


「地震?! なんだってこんな時に……」


《ジシンじゃなーい!》


《後ろ見て! 後ろ後ろ!》


 下位精霊達の騒ぎ様から、自分の知る地震ではない事を悟ったナキは急いで後ろを振り返り召喚されたモノの正体を確認する。

 直後、ナキは驚きのあまり言葉を失った。


 ナキの異変に気が付いたクルークハイトも後ろを振替し、自分の目に映ったモノに対し驚きを隠せなかった。

 二人の目に映ったのは、巨大な金属のゴーレムだったのだ。



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