レビューから来て一気読みしました。幸運を呼び込むアイテムをモチーフにしながら、このテーマを取り上げるところに、作者の才能を感じます。面白かった、という表現がふさわしいかわかりませんが、心に残る作品でした。
描写や主人公の心情、それらの迫力がすごくて、動悸さえするほどでした。ですが……題材が題材だけに、物語を消化しきれないような感覚が残ります。一度読んだら、心に刻まれ、もう忘れられない、そんな物語です。重い物語ですが、『読むべき物語』だと私は思いました。
どんな選択肢も結局は、「何かを選ぶ」という行為に変わりはない。だけど、それが何と繋がっているのかはその時々で変わる。一人の男の視点で対峙する「選択」は、時に暖かく時に冷たい。私たちの生活も、そんな選択の中にあるのだなと感じるお話。本作を「優しい」と思うか「冷たい」と思うかは、読み手の様々な事情によって変わるだろう。同じ読み手であったとしても、時と場合によって感じ方は変わるはずだ。“ごくありふれた日常”なのに、とても不思議なお話だった。
どこか遠慮がちに流れる、〝執行〟の報道。執行されるべきと断じた社会が抱える、後ろめたさという矛盾。その矛盾を、否応なく、背負わされる執行官。〝殺人〟はその殆どが、主観から沸き立つ感情で行われる。その主観がないままに、人を殺すということの、残酷さ、悲痛、苦悩が、この中にある。