ヒョン子さんと俺と依頼人

「ラスタさああああああん!ピッコリなんとか4人前!」


ほぼ全力疾走で厨房へと駆け込み注文を伝える。

息は切れ切れ、体力もきれきれだ。おまけに体は汗でだるだる。もう無理、ラスタさんもう無理。朝はすみませんでした許してください。馬車馬根性もここまでです...。


「ぴっこりなんとカ?ピッコリーニーヴォロルテかい?」


ラスタ、の代わりにそう答えたのは俺と同じくらいの背丈の大きさのお花だった。正確には地面に接する部分が花のガクになっていて、そこから生えた赤い花弁の中央に女性の上半身がニョッキリ露出している。加えてその上半身、なんと腹部や胸部もあられもなく全部露出している。

一応大事な部分は長い金髪で隠れてはいるが、18の俺には十分刺激的だった。


「君がラスタの言ってタ転生者くんかい?私はヒョウ・ラ・シーン・コーネリアス。ヒョン子って呼んでね。ここの元従業員サ。再開するって聞いたからさっき来ちゃったンだ。この時間じゃ忙しかったでシょ。」


「あぁ、そうですね...。」


長くキレイな金髪。スベスベしてそうな肢体。ふわりと香る微かな甘い匂い。そして露出した控えめな胸部。目のやり場に困ってしまうが、むしろ困らないように顔と胸だけを交互に見続けた。


「ハーい。転生者くんガン見してないで、お外のウサギのお姉さんさんたちにコノ葉っぱと、オ魚さんに本日のオススメ持ってっテ。」


スルスルっと彼女のガクから伸びるは触手。器用にも、皿を支えて俺の前に完成した料理を突き出した。

なるほど、この触手を使って大人数を捌いているようだ。


「ほれほれ、ハよハよ」

「あ、すみません」


謎の葉っぱと黄色い肉のようなモノを持って厨房をあとにする。

すると、入れ替わるようにラスタが外から駆け込んできた。


「あ!カガヤさんお疲れさまです!ごめんね、一人で大変な目に合わせちゃって!ヒョン子さんにはもう会った?」

「あ、はい今ご挨拶をしました」

「それは良かった。カガヤさん、ここからは料理と店内の注文はヒョン子さんに任せちゃうから大丈夫よ。私は食器洗いとお料理運び手伝うから、お外のご注文お願いね!」


わかりました、と言う前にトトトっと足早に去っていくラスタ。

どうやら、ヒョン子さんが来てくれたおかげで、だいぶ仕事に余裕ができたようだ。

たぶん、さっきの触手で調理配膳何でもこなす感じなんだろう。


「ヒョン子さん、堆肥追加で7人前〜!あと水も!」

「はーい。リょっかいです」


ふたりの声が店内に大きく響いた。








しばらくして、だいぶ客足も引いてきた。

店外の客は2〜3席分で8人程度、店内もまだ混み合ってはいるものの先程のような目まぐるしさはだいぶ息を潜めたようだ。


「ふたりともお疲れさまです」


ラスタのとびきりの笑顔が、俺とヒョン子さんに炸裂する。朝のブチギレ、昨日の無礼さをどこに潜めさせればこんな笑顔が出せるのか。


「お疲れさまです」

「おつかれ〜イ」


ヒョン子さんは未だに数本の触手を操り、せっせと料理をこしらえているものの、だいぶ余裕を感じる。


「イヤ〜大繁盛も大繁盛。忙しすぎて目が回っちゃうネ」

「ヒョン子さん、ありがとうございました。わざわざ助けに来てもらっちゃって。」

「いえいえ、テンチョーさんの頼みならどうってことないですヨ!」

「うふふ、またまた嬉しいことを。」


ふわり、とまたラスタの笑みが溢れる。

仕事中はいつもニコニコしているわけだが、何故かいつもよりも柔らかく、そして陽の光のような優しさを感じた。

やはり、この仕事において達成感というのがあるにだろうか。お客様に、かつてあったこの居酒屋ステュムパーリデスの鳥の味を雰囲気を楽しんでもらえることに。



「これだけ繁盛したら依頼人さんにも満足してもらえてますかね」


「...そうですね、カガヤさん。」

「アァ...。うん、もうちょっと、カモね」


二人の返答は少しぎこちなかった。


悪い聞き方をしてしまった気がする。

自分の目的を見つけなければと、もしかしたら心では焦っているのかもしれない。

早く満足してもらって天使様のもとに行きましょうよ、と言っているようなもんじゃないか。

きっと2人にはそう聞こえたのだろう。

化け物にはなりたくないが、きっとそんなすぐになる訳でもないだろうに。

焦りすぎた、というより...。いや、焦りすぎた。

バツが悪い空気が流れる。


「ハイ、完成。」


ヒョン子さんが空気を打破するように優しく声を上げた。


「転生者くん、コレおねがい。お外のテーブルさん、トカゲの人のトコロ。」

「あ...、はい、わかりました」

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花も実もありますように! 〜異世界の夢、代行屋さん みはな〜 @magurogyosennoriko

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