第5話 駅員に必要な事

「美人局だ。気弱で金を持っていそうな男性を見つけてわざと接触して、痴漢だといって示談金をせしめようとしたんだ」


 社会的地位が消失することを恐れた男性は冤罪であると知りながら、事を大きくしたくないため、その場で現金を支払い、うやむやにする。

 警察にも鉄道公安にも届け出が出ないため、把握できないし事件化しないので発覚しにくい。

 ただ、今回は思ったより目標が頑固だったため、痴漢を認めず、示談金にも応じなかったため長く掛かってしまった。

 そしてテルのいる駅まで乗ってしまい、同時に大きな事件になって仕舞ったので発覚した。


「しかし、よく分かりましたね。いつ何処で気がついたんですか?」


 一瞬にして何が起きたかをアレックスが把握して動いたことにテルは驚きと共に見直してどうして出来たのか尋ねた。


「学校の制服がこの駅では珍しかったし、向かう方向が逆だったからな。他の子も方向が違うのに何故あの列車に乗っていたのか不思議だったからな」


 アレックスは自慢げに答えた。

 学校がバラバラで、向かう方向が違うのに何故か乗り合わせていたのが不自然だった。

 後で鉄道公安官から聞いた話だったが、学校をサボる常習犯で、繁華街で知り合って今回の事件を思いついたそうだ。


「取り調べの感触からだが、調べれば余罪が多いだろうな」

「凄いですね。短時間で首謀者に自白させるなんて」

「ああ、カマカケだよ。実際は自白していない」

「嘘を吐いたんですか?」

「捜査のテクニックだよ。バレたら伝達ミスと言うことで頭を下げれば良い」

「良いんですか?」

「仲が良いならこの程度では友情は壊れないよ。あとでお茶やケーキをご馳走してあげる。だが犯罪の仲間なら、疑心暗鬼になってもう悪さを出来る状況じゃないだろう」

「確かに」


 悪さをする時裏切り者がいれば自分がその悪事を全て覆いかぶらされる可能性がある。

 そんな危険を冒してまで仲間になる事は無いだろう。

 その点でテルはアレックスを評価していた。


「どうだ。制服好きも職務に結構役に立つだろう」

「そうですね」


 確かにアレックスの制服好きの知識が無ければ、犯罪を見逃し男性を痴漢として引き渡し冤罪にして仕舞っただろう。


「じゃあ、被害に遭った男性のお客様を確保したのは」

「身に覚えのない罪を女子高生から問い詰められていたからね。パニックになって線路に飛び降りてみろ不法侵入、鉄道営業法違反で完全な犯罪者だ。情状酌量で不起訴になるだろうが犯罪者として取り調べを受けてしまう。それを防ぎたかった」


 痴漢は冤罪でも、線路内に入れば犯罪だ。

 冤罪から逃れようとしたのに本当の犯罪を犯してしまい人生が狂ってしまうだろう。

 少々手荒なことをしてしまったのは、心苦しいが未然に犯罪を防げて良かった。

 後日、男性からテルに感謝の言葉を言われた時、テルは嬉しかった。


「それに今はラッシュ時だ。線路に侵入すれば列車は全て停止。ダイヤは大きく乱れる。混乱するしお客様に迷惑を掛けたくなかった」


 アレックスが確保を指示した理由を聞いてテルはアレックスへの評価を改めた。

 お客様への気遣いが出来るなんて本当は素晴らしい人だった。


「お! バーバラ学園の女子生徒の集団がのった列車。修学旅行で来たみたいだな。やっぱ駅員やっているとこういうことに遭遇できて良いな」


 煩悩垂れ流しで大声で言う。

 やはり、趣味優先のダメ人間では無いか、と思い、先ほどの評価を改める必要をテルは頭痛と共に感じた。


「これも駅員になるために必要な修行なのか」


 まだ人生経験の少ないテルはアレックスの言動に疑問に思わざるを得なかった。




「このテル、石田昭輝という少年は中々優秀ですね」

「そうだろう」


 助役の言葉に駅長は安堵と共に自慢するような口調で応えた。

 大臣である昭弥から、いや表向き石田屋から頼まれ預かり、自分が学園へ推薦を出す予定だ。

 優秀でないと困る。


「期待して色々とお添え込んでいますね、週ごとに配置を換えていますね」


 中央駅は巨大で様々な部署がある。

 人数も多く駅員の多くは専業だ。

 そのため部署を回らせることで仕事を覚えさせた方が良いと判断していた。


「しかし、アレックスに付かせるとは熱の入れようですね」

「公安官の元エースだからな」


 駅員として優秀だったが構内での犯罪や悪事とを見つけ出す天才として頭角を現し、公安へ乞われて転属。公安官時代は私服で乗り込み、いくつもの犯罪を検挙している。

 だが、つい最近、駅員への転属を願い出て駅長が引き取っていた。


「しかし、アレックスは趣味に行き過ぎでは?」


 助役が渋い顔をした。

 優秀だが、制服フェチを公言してはばからず、周りは白い目で見ている。

 勤務中もちょくちょく制服姿の女子高生に目を向けている。

 今のところ苦情はないが、よろしくない。


「アレックスに付けて大丈夫でしょうか? 悪影響を受けないと良いのですが」


 助役の言葉に駅長は黙り込んだままだった。

 自分でも助役に言われた点が本当に良かったのかどうか、自信が無かった。

 犯罪現場と検挙を見せてやれたのは、良かったし、様々な人間が訪れる駅というモノを、時に悪意を持つ者が来て身を挺して守らなければならないのが駅員だと言うことを教えられて良かったと思う。

 しかしアレックスの悪いところまでテルが真似したらどうしよう、恩人である昭弥を困らせないか心配だった。


「正規採用された後の仕事でも真面目になってくれると良いのだが」


 駅長はテルが真面目な駅員に育って学園に入った後の実習で、何処かの駅へ派遣されても真面目に働いて欲しいと思った。


 無事学園に入学し、実習先でテルがどのような活躍をするかはこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816700428393091925/episodes/16816700428393123197

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転移者の息子 臨時雇い駅員編 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou

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