第4話 事情聴取
「おい、テル、頼むぞ」
アレックスが言うと、指示通り反対側のホームに待機していたテルが駆け出し、電車が入ってきた線路に飛び降りようとした男性を取り押さえた。
「うぐっ」
テルは十代前半の小さな体だが、獣人の兄弟が暴れるのを制圧するため投げ技や関節技を研究しており、一般人なら倍の体格差があっても制圧することができる。
勢いの乗った男性をホーム内側に向かって投げ、抑えつけた。
「よくやったテル」
入線する電車の前でテルに抑えられ、うなり声をあげる男性にアレックスは告げた。
「では、事務所に向かいましょう。すみませんが皆さんも来ていただけませんか?」
周囲にいた女子高生達に鼻の下を伸ばし、男性を押さえつけているテルの見下した視線を受けつつアレックスは彼らを駅事務所へ連れて行った。
「それで痴漢を見たんですね」
「そう、そうよ! この目ではっきりと見たのよ。あの男の右手があの子のスカートの中に入っていくのを見たのよ。そして思いっきりつかんだの」
駅事務所に移ったロングの女子高生は興奮気味にテルにまくしたてる。
事務所の一角にある公安室の小さな取調室で事件の概要を聞くようアレックスに言われてテルは話を聞いているのだが女子高生の話の圧に狼狽え気味だった。
「あの子嫌がっていたけど、抵抗しないことをいいことに、あの男ずっと揉んでいたのよ。長い時間ずっと。だから我慢できなくて突き出したのよ。ひどいと思わない?」
「思います」
静かにテルは答えた。
確かにこの女子高生の話を聞くだけなら男性がひどい。
しかしどこか引っかかることがあり、テルは共感できず表面的な返答に終始してしまう。
「ねえ、僕、ひどくない。あの子すごくかわいそうじゃない」
テルの反応の薄さに業を煮やした女子高生は身を乗り出して顔を近づけて訴える。
長いまつ毛の下から大きな瞳で訴えかける。
少しでも視線を下げれば襟元から除く谷間が目の入ってしまう。
うぶな男ならこれで魅了されてしまうが、姉妹たちの過剰なスキンシップを常日頃から浴びているテルには効かなかった。
「……っち」
女子高生が小さく舌打ちしたことにテルが驚いているとアレックスが入ってきた。
「駅員さあん、聞いてくださいよ。被害にあった子のことを言ってもこの子全然聞いてくれないんですよ」
女子高生は立ち上がり身をかがめると上目遣いでアレックスに訴えた。
「被害を受けた子が報われるようにきちんと処罰してくださいよ」
「ええもちろんです」
鼻の下を伸ばしながらアレックスは答えた。
「お客様への迷惑行為はどのようなことでも許しません」
「流石駅員さんかっこいい! 何でも協力しますよ」
女子高生は黄色い声を上げてアレックスを持ち上げる。
「ありがとうございます。では早速。ところで、お客様、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「……え?」
アレックスの質問の意味が分からず女子高生は首をかしげ答えた。
「いや痴漢された人を助けて」
「いや、どうしてあの列車に乗っていたのですか? あなた聖マリア女学院の生徒でしょう」
制服を見ながらアレックスは訪ねた。
「学校の最寄り駅とは逆方向ですが」
「ち、痴漢を見つけて」
「最寄り駅からは三つほど停車しますよ。その間に通報すれば良かったのでは?」
「こ、声を上げるのが怖くて」
「この駅では上げていたのに?」
「声を上げようか、悩んだんですよ怖くて」
「男性に無理矢理接触しても」
「な、何を」
アレックスが言うと女子高生の表情が変わった。
「先ほど仲間のお嬢さんが白状しましたよ。痴漢されたと言って男性から金品を脅し取ろうとしたと」
「そ、そんなことは」
「ポニーテールの人が貴方に言われてやったと」
「あいつ……自分が首謀者なのに私になすりつけるの!」
激高して女子高生は決定的な事を話してしまった。
仕舞った、という顔をしたが既に遅かった。
「少し、話をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
アレックスは後から来た鉄道公安官と共に女子高生に話を聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます