第2話 明け方

 日が変わり、年が明ける。新年を迎えても、気持ちが急に変わるわけなく、実家に帰るのが気が重い。

 新年が明けてから3日経ち、1月3日。実家の前に居た。1年ぐらい帰ってないため久しぶりである。チャイムを鳴らすと、少し後に”はーい”という声ともにドアが開く。弟のけいが出迎えてくれた。

 「おかえり。兄ちゃん」

 「ただいま、景」

少しだけ気が緩む。

 「さ、上がって、上がって」

 「お、おう」

 うちは、普通の昔ながらの一軒家で父方の実家である。現在は景と父の2人暮らしである。

 仏壇が置いてある部屋へ、母に挨拶をするために先に寄る。

 (ただいま、母さん。遅くなってごめんね)

 

 手を合わせ終わり、荷物を置きに部屋に行く。

 「どれくらいいるんだったけ?」

 「明日には帰るよ。バイトもあるし」

 「そっか。もっとゆっくりしてけばいいのに」

 「しょうがないよ。・・・父さんは?」

 「父さんは買い物。もうすぐ帰ってくると思うよ」

 「あ、そう」

 「元気がないぞー。緊張してるな~」

 「うるせぇよ」

お互いに笑いながら、話す。景と話すとほっとする。でも、緊張が完全に取れずに家全体に伝染している気がした。

 

 「ただいまー」

 「お帰り、父さん」

 「お帰りなさい、父さん。久しぶりです」

 「お、おお。ただいま。おかえり、優。まぁ、ゆっくりしていけ」

 穏やかな空気が流れるが、緊張があるのは俺だけ?

 父が先に荷物を置きに台所に向かい、廊下を歩いていると、景が笑いをこらえてるのが見えた。

 「なんだよ」

 「いや、何でもないよ」

 「何かあるだろ。言え」

 「何でもないって」

 「いいから言えって」

 「しょうがないな。・・・2人ががっちがちに緊張してて、面白くて・・・」

こいつ。でも、外から見るとそうなのか?俺だけじゃないのか。

 景は一呼吸入れてから、

 「どう?少しはましになった?」

と笑顔のまま言ってくる。はぁー。まぁ、ましかな。緊張してるのは自分だけでないことがわかっただけでも。

 

 夕飯の時間。父の手料理を久しぶりに食べる。自分と父の様子を見ながら、景が笑うという場面がありながらも、穏やかな時間が食卓に流れる。

 後は、寝るだけとなった時間帯。俺は、父と居間のこたつで向かい合っている。正直、景がいないと気まずさが残る。

 「・・・優、実際どうなんだ?」

若干重々しい空気の中、父が口を開く。

 「・・・それなりにやってるよ。確かに厳しい面もあるけど....」

 それを聞いて父は一言、

 「だったら、帰ってくるか?」

と言う。突然言われ驚いた。意外だった。

 ありがたいが、自分にはまだ帰るという選択をする気はない。

 「父さん、聞いてくれる」

 俺は、僕は、自分の思いを話した。今の状況。まだ自分でやりたいこと。今取り組んでる小説の事、小説への思い。家族への思い。父さんにどれだけ助けられていたか気づいたこと、そして、感謝。そのような思いを、自分のたけを.....

 父さんは黙って聞いてくれた。終わった後に「そうか」と一言。

 話が終わり、立ち上がって部屋に戻る前に伝える。

 「・・・仕送りありがとう。名前、今度から自分のを書きなよ。・・・おやすみ」

そして、扉を閉める。

 

 翌日。帰るときに父の姿はなく、景が見送りにきて手紙を渡してくる。

 「父さんから。・・・昨日は上手くいったのかな」

もしかしてこいつ。すると、心を読んだように、

 「ちょっとだよ」と言う。

 一つため息をしてから玄関に手をかける。

 「じゃあな。また」

 「うん。また」

玄関を開けたとき、

 「頑張れよ!優!!いつでも帰ってこい!」

振り返ると景が笑って23と言う。


 家への帰り道。涙が出そうになるのを我慢した。泣くのは家に帰ってからだ。あぁ、手紙も読まないとな。はぁ、本当に父に似て頑固なのかもな。そんなことを考えながら家に帰る。行きよりも軽くなった心を携えて―――


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赤と緑とあの頃・・・ 秋月そらノ @s0right_wwfno

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