赤と緑とあの頃・・・

秋月そらノ

第1話 夜明け前

 年越しの準備で世間が賑やかな時。そんな時に俺は、バイトが終わりくたくたの体を引きずりながら家に帰っていた。

 アパートに着き、自分の部屋の鍵をあける。暗い部屋が迎え、部屋からは冷たい空気が流れてくる。

 「ただいまー。って言っても誰もいないしな」

一つため息をつき、寒と言いながら、部屋に上がる。急いで、暖房とこたつをつけ、荷物を片付け、こたつに入り寝転ぶ。まだ、寒いが段々とあたたかくなる。あ、寝そう。マジで寝そう。まぁ、いいか。急いでやることもないし。

 どれくらい時間が経っただろうか。年明けまであと数時間。さすがに、お腹も減ったし動かないと。出たくないとも思いながらも、重い体を動かす。

 ふと思い立ち、カーテンを開け外を見ると、雪が降っていた。ゆっくりとパラパラ降っていてきれいである。道のほうは薄く積もり始めており、今更だが、冬だなと実感する。多少積もるのはいいけど、たくさんは嫌だなぁ、などと考える。

 寒さと眠気を感じながらも、台所に向かう。備え付きの棚をのぞき込む。確か、置いといたものがあったはず。棚から”緑のたぬき”と”赤いきつね”を取り出す。夜ご飯と年越しそばを兼ねて食べることにし、赤いきつねから食べることに決める。

 お湯を沸かしてる間に、テレビをつける。テレビでは、年末恒例のバラエティーがやっていた。テレビを見て、クスッと笑っている間にやかんから音がなりお湯が沸いたことを知らせる。

 お湯を注ぎ、できるのを待っていると、CMで見たものを思い出した。

(そういえば、きつね耳をつけたかわいい美女が出てくるんだっけ。まぁ、現実で出てくるわけないか。出てくるなら会いたい。こう欲しいものがたくさん出て願い叶わないかなぁ。叶ったら、マッチ売りの少女みたいだなぁ。ちょっと違うか)

などと考えを巡らせる。

 食べていると、携帯にメールの着信を伝える音が鳴る。弟からであった。

 『正月は帰ってくるの?お父さん心配しているよ』

と書いてある。実家をでて一人暮らしを始めてからほとんど帰っていない。弟のけいは優しく連絡を入れてくれる。たまに、まで送ってくれるのである。会いたい気持ちもあるが、気まずくて実家には帰れない。

『うーん、多分帰らない。あと、心配なんてしてないでしょ』

送信してからすぐに返信があった。

『何を言ってるの!本当に心配してるよ!!』

返信を打つ前に、連続して送ってきた。

『帰りたくない気持ちもわかるけど、顔は出した方がいいよ!!』

『2人とも頑固なんだから』

『連絡はしたからね』

すごい勢いで送られてきた。”考えとく”と一言だけ打って携帯を置く。

「はー。頑固、ね」

言われてしまった。わかってはいる。意固地になっていることぐらい。でもなーと思う。食べ終わったため、緑のたぬきを食べるために、台所に向かう。


 お湯が沸くにはまだ時間がかかる。景に言われたため、嫌でも”父”について考えてしまう。

 別に父のことが嫌いと言うわけではない。尊敬もしている。家を出たのは、よくある意見の食い違いである。これからの進路に関して、言い争いになったのだ。あっちが正論を言ってるのはわかっている。でも、納得が自分の中でできなかった。大人になれなかった。クソガキだなとも思う。話し合わないといけないとわかっていても話に行く気にならない。もやもやする気持ちを抱えながら、今日に至ってるわけである。やかんの音が耳に入り我にかえる――

 そばを食べていると、子どもの頃を思い出した。

 うちはシングルファザーである。母は俺が小学生の時に亡くなった。それからは、父がシングルファザーとして俺たち兄弟を育ててくれた。

 母が亡くなってから初めての大晦日。あの時もどん兵衛を食べた。父は慣れない家事を一生懸命にやってくれていた。『大晦日だから年越しそば食べるぞ!』と張り切って作ろうしてくれた。自分は苦手のくせに。俺たちのために。でも、結局はうまくできずにどん兵衛になったのである。俺たちは、緑のたぬき。父は赤のきつね。父はうまくできなかったことを謝っていたが、俺たちにとってはうれしかったし、美味しかった。とても美味しく温かった、大切な記憶である。

 これだけではない。父は男手一人で二人を育てた。失敗しても、大変なことがあっても弱いところを俺たち兄弟には見せずに。俺たちに普段通りの生活を送らせるために。

 現状に思いをはせる。俺は何をやってるんだろう。夢を追いかけ、家を出たのに。何か言い返せることを残しただろうか。言えるような状況に持って行けただろうか。いつの間にか涙を流しながら、そばをすすっていることに気づく

 一つ決心し、パソコンを開く。コンテンストのぺージへととび、テーマの一つを見る。それから、連絡を取るため、携帯をとった。


 自分の部屋で過ごしていると、携帯が鳴った。兄のゆうからのメールだった。

 『正月家帰るから』

と一言。何か返そうとすると、

 『・・・コンテンストのための取材みたいなものだから。あと、親父に言っといて』

 『仕送りありがと。でも、名前を偽るの下手くそだなぁって』

思わず、笑ってしまう。やっぱり、気づいてたんだ。何を返すかちょっと考えてからメッセージを打つ。

 『自分で言いな!』

 何のコンテストかも知っている。相談も受けていたので、テーマもわかる。本当に素直じゃないなぁ。お父さんに伝えないと。なんて伝えようかな。あなたに似て、頑固な息子が帰ってきますよ。なんてね。

 やっぱり、素直じゃないなぁ。と思いながら、父に伝えるために自分の部屋を出る。


 窓を開け外を眺める。冷たい空気が入って来て、暖かい空気と入交り心地よい。いつの間にか、雪が降りやんでおり、月がきれいに見えた。くる年に想い馳せながら、景色を眺める。メールの返信を見る。思わず、笑いがこぼれる。

 「自分で言え、か」

 どのように言ってるか容易に想像できる。向き合おう、ちゃんと自分の言葉で伝えようと思う。考えてるうちに、冷えてきたため、窓を閉めパソコンに向かい合う。

 外からは鐘の音が聞こえ、年が明けたことをつげる――

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