第2話 雨の日に星を見るには(ソラ:8歳) 後編

黄色いレインコートに赤の長靴、手には水玉模様の入った小さなビニール傘を携えて。それが、ソラちゃんの雨の日スタイルです。


お母さんと一緒に玄関を抜けお外に出てみると、今日一日降り続いていた雨もようやく雨足を弱めてくれたみたいで、今はパラパラと降る程度にまで落ち着いていました。

それでも勿論、お星さまは見えません。


そんな中、ソラちゃんがお母さんに連れられて向かった先は…なんとお庭でした。


「ママ…お庭でお星さまを見るの?」


確かに、晴れていればお庭からでもお星さまは見えます。

しかし、お庭で見るお星さまは近隣に建物があるせいで視界一面と呼べるほど見えるわけではありません。それに今日の天気ではそもそもお星さまなんて…これではソラちゃんのワクワク気分も急降下してしまいます。


「ふふふ、慌てないの。 これから見るのは『特別なお星さま』って言ったでしょう?」

「!!」


そうでした、今日見るのは普通のお星さまではなく特別なお星さまなのでした。それはまるで『魔法の言葉』であるかのように、急降下しそうになったソラちゃんの気持ちを持ち上げます。


「それじゃぁ、ソラちゃんの傘をママにちょうだい? それで…はい、代わりにこれを使ってね。」

「うん…???」


言われるがままにお母さんに傘を預けると、代わりに手渡されたのはお母さんがそれまで使っていた大きな黒い傘でした。

傘の取り替えなんて、どんな意味があるのでしょう?ソラちゃんはソワソワみょうちきりんな気持ちになりながらも、お母さんの指示に従います。


ただ、普段お母さんが使っている傘なだけあって、受け取った傘はソラちゃんには少し重すぎたようで…傘を握るソラちゃんは風があるわけでもないのにフラフラと左右に揺れ動いてしまいました。


「ソラちゃんにはまだちょっと重かったかな。 そうねぇ…ソラちゃんはその場でしゃがんで、傘を地面に付けてなら支えられるかしら? …うん、そう。それなら大丈夫?」

「大丈夫! でも……。」


お母さんの言う通りにしてみると、それならばソラちゃんでも傘を支えることができました。でも、そうすると今度は視界がお母さんの傘にすっぽりと覆われてしまいます。


真っ黒な傘を街灯もないお庭で広げてしまえば、お星さまどころかなにも見えません。ソラちゃんは不意に訪れた暗闇にちょっぴり怖くなってしまいました。


「そのまま、ちょっとだけ待っていてね。」

「うん…。」


こんな状態でお星さまなんて本当に見えるの…???ソラちゃんは不安でたまりません。今のソラちゃんにとって、話しかけてくれているお母さんの声が唯一の灯りなのです。



「では、これからソラちゃんが持っている傘に魔法をかけます! ソラちゃん、いい? 傘をしっかり、見ていてね!」

「??? …あっ! わぁぁぁぁ~!!」


なにも見えない傘のなにを見ればいいんだろうと不思議に思っていたソラちゃんでしたが、その疑問はお母さんが合図した次の瞬間には消えてしまいました。

視界を覆っていた真っ暗闇に小さな光の粒が幾つも煌めいたからです。それはさながら夜空に輝くお星さまのように。


お母さんが灯した明かりがソラちゃんの持つ真っ黒な傘へと光を差し込み、舞い降る雨はその光に濃淡を色付ける。

そして雨が傘を濡らすたびに、光彩がチカチカと揺らめきます。


「ママ、お星さま! お星さまだぁぁ〜〜!! すごいすごい! でも、なんでお星さまが見れるの〜〜??」

「それはね、ソラちゃん。 お星さまはお空にあるものだけじゃないからなのよ。」

「お空のじゃない…お星さま???」

「見方を変えれば、どこにだってお星さまはあるの。」


お母さんは『見えないお空のお星さまに囚われて、ソラちゃんまでずっと顔色を曇らせていてはいけない』とソラちゃんに伝えます。

お星さまが見えなくとも…お星さまのようにキラキラ輝いているものは他にも沢山あるのよ、と。本当に大切なのは『日常にあるもの』を、それが『かけがえのない綺麗なもの』なんだと気づけることなのよ、と。


それは『ソラちゃん』と言うお星さまを何時も見ているお母さんだからこそ思い浮かんだ言葉だったのかもしれません。

ソラちゃんの笑顔は、どのお星さまにも負けていないお母さんにとっての一番星なのだから!


「ソラちゃんがもう少し大きくなったら、ソラちゃんの傘にも魔法をかけてあげるからね。」

「わぁ! いいの~っ!?」



お母さんの想いがどこまでソラちゃんに伝わったのかはわかりません。

ですが、この日を境にソラちゃんは少し大人になり…そして、ちょっぴり雨が好きになったのでした。



おしまい

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雨の日に星を見るには 優麗 @yuurei

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