雨の日に星を見るには

優麗

第1話 雨の日に星を見るには(ソラ:8歳) 前編

「ソラちゃん。」


お夕飯の片付けをしながら、お母さんは優しい声でソラちゃんに話しかけます。すると、普段であれば元気な声のお返事がすぐにでも飛んでくるのですが…今回ばかりはなにも返答なく、あるのは息を潜めた沈黙ばかり。

そうです、今日のソラちゃんは少しご機嫌ナナメなのです。


「ねぇソラちゃん。 ママはソラちゃんとお話、したいなぁ~。」


それでも気落ちすることなく、お母さんはリビングの隅で体育座りしているソラちゃんへと話しかけます。

根気強く、辛抱強く。そうすればいずれソラちゃんが答えてくれるから。さすがお母さん、ソラちゃんのことがよく分かっています。


やがて根負けしたソラちゃんは体育座りに顔をうずめたまま、ポツリポツリと話し始めました。


「昨日…言ってたもん…。」

「うん…。」

「今日、お星さま見に行くって…言ったもんっ!!」


そう。それこそがソラちゃんの機嫌がナナメになってしまった理由だったのです。




ソラちゃんは自分の名前の由来でもある『お空』と『お星さま』が大好きなしっかり者の女の子。ですが、ソラちゃんはまだ8歳。お星さまが見たくても、暗い時間にお外に出ることはお母さんから禁止されていました。


しっかり者のソラちゃんはお母さんの言いつけをちゃんと守ります。ただ、それでもどうしてもお星さまが見たくなる時だってたまにはあるのです。

そんなとき、ソラちゃんはお母さんに『お願い』をします。


『ママ~。 ソラねぇ、お星さまを見に行きたいなぁ~。』

『う~ん、そうねぇ。 今日はもうお風呂済ませちゃったから…明日、見に行こっか!』

『やったぁ!』


そうして昨日、お母さんとお星さまを見る約束をしてからソラちゃんはずっと楽しみにしていました。

見渡す限りの大空と、その中でキラキラ輝く宝石を。星がなんなのか、とか難しいことはソラちゃんには分かりません。ただ、視界一面に広かる綺麗な景色をソラちゃんは見たかったのです。


しかし、その約束もこのままでは無くなってしまいそう。でも、お母さんだって意地悪で約束を破ろうとしている訳ではないのです。


「そうね…でも、この天気だと…。」


運が悪いことに、今日の天気は予報を覆しての雨模様。厚い雲に覆われて、お空もお星さまも見えそうにありません。

ソラちゃんはお空が見えなくなる雨が大嫌いでした。



こればかりはお母さんでもどうしようもないことは、ソラちゃんにも何となく分かっていました。だからこそ、悲しい想いを外に出すことなく静かにぐっと我慢していたのです。


「でもぉ! ソラ、楽しみにしてたんだもん~~!!!」


ただ、それも堰き止めていたものが一度溢れてしまえば抑えは効かなくなってしまいます。それに、我慢の限界でもあったのでしょう。

ソラちゃんはついには泣き始めてしまいました。


「うん。 ママも楽しみにしていたから、残念ね…。」


ソラちゃんが悲しい時、お母さんは忙しくても手を止めてソラちゃんを優しく抱きしめてくれます。

泣き止むまで急かすことなく根気強く、慈しみ深く。


ひっく、ぐすぅ…


お母さんが大好きなソラちゃんはお母さんに包まれると次第に気持ちが落ち着いていきました。

そして、一度感情を出し切ってしまえばそれ以上悪くなることはなく、あとは上向くのみ。それでもやっぱり、悲しい気持ちには変わりないけれども。


「…よぉし!」


悲しむソラちゃんを見かねたお母さんは、そこで『あること』を思いつきました。ソラちゃんはお母さんの突然の言葉にびっくりキョトンとしながらも、ちょっぴり期待に胸を膨らませています。


天気ばかりはどうしようもないと思いながらも、心のどこかでは『ママならどうにかしてくれるんじゃ』と思っていたのでしょう。

なにせ、ソラちゃんにとってお母さんはまさにヒーローなのです!


「今日は特別! ソラちゃん、お星さまを…『特別なお星さま』を見に行こっか!」

「!!!」


お星さまを見に行けるだけではありません。なんと、今回のお星さまは『特別』なのだそうです!


『特別』と言うことは今まで見てきたお星さまとは違うと言うこと。いつの間にか悲しい気持ちは吹き飛んでいて、今では胸いっぱいのワクワクがソラちゃんを包みます。


そして、ソラちゃんのお顔にはこうも書かれておりました。『やっぱりママはすごい!』と。

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