幼馴染に嘘告白されたうえにざまぁされた俺は男の娘幼馴染♂に慰められて新たな扉を開いたが、幼馴染に男の娘を寝取られたので奪い取ります

くろねこどらごん

第1話

「私、和隆のことが好きなの!付き合って…くれないかな?」




「マジ…かよ…」




 大変唐突で申し訳ない話なのだが、俺こと安部和隆あべかずたかは今、十五年の人生で最大の山場を迎えていた。




 放課後呼び出されてやってきた学校の屋上にいたのは長年見知った、ある意味腐れ縁のような幼馴染であったからだ。完全に予想外の人物からの突然の告白に、俺は呆然としたまま困惑するしかなかった。






 野薔薇亜梨沙のばらありさを一言でいうならツンしかないツンデレ女だ。


 亜麻色の髪を赤いリボンでツインテールにまとめ、その瞳は釣り目がちで勝気な性格を反映しているかのようである。ツンデレのテンプレのような外見だが、悔しいことにとても似合っているから始末に悪い。




 顔も相当に整った美形であり、プロポーションも抜群だ。


 日本人離れした手足の長さは立っているだけで様になるものがあり、実際にモデルにスカウトされたことがあると自慢げに話されたことも覚えている。


 さらに言うなら家も大金持ちの、正真正銘のお嬢様。見事なまでに完璧なハーフ美少女のお約束を守っているのはいっそ賞賛を送りたいくらいだ。




 なお、中身は散々甘やかされて育ったため、ワガママ・高飛車・気が強いという、これまたテンプレのようなツンデレ要素を兼ね備えたエリートに育っていたが、俺はこいつのデレたところを見たことがない。


 小さい頃からあれやれこれやれ、なにが気に食わないのか人の交友関係にもよく口出しされていた。たまに手まで飛んできて、喧嘩した回数も数知れず。


 一緒にいて居心地が悪いというわけではなかったし、馬が合わないというわけでもないと思うが、やたら突っかかられることが多かったのだ。




 おかげでこの年まで彼女の陰もまるでない。小中は亜梨沙のおかげで女子は離れて行くし、何故か俺の進学先にこいつも来たのである。しかも同じクラスなのだからたまらない。高校に進学した今でも女の子の知り合いが増えずにいた。




 高校生男子なんて性欲の塊と言っても過言ではない、俺としてもそろそろ限界に近づいているところだ。いろんな意味で、いつ爆発してもおかしくはない。


 もうひとりの幼馴染が取りなさなければ、俺たちの交流はとっくに絶たれていたことだろう。


 むしろそのほうが良かったかもしれないと思うくらいには、俺と亜梨沙の関係は臨界点へと近づいていた。絶縁一歩手前くらいだったかもしれない。




(そう思ってたのに、亜梨沙が俺のことを好きだったなんて…!)




 こうなると話は一気に変わってくる。これまでの行動がツンデレによる好意の裏返しだというのなら、全て許せるくらいに、俺はギャップに弱かった。


 いうならばこれは属性が織り成す好意の逆転満塁ホームランだ。全てが反転し、苦々しい思い出が甘酸っぱいものに変換される。脳内補正が早くも働き出している。






 ―――アンタ、なんであの子と話しているのよ(私とだけ話してればいいじゃない)




 ―――今度買い物に付き合いなさい!拒否権はないんだから!(ア、アンタの好みが知りたいわけじゃないんだからね!)




 ―――バカ、アホ、死んじゃえ!(好き、大好き!結婚して!)






 ……ふぅ、素晴らしい…




 なんだ、亜梨沙ってこんなに可愛かったのか…ツンデレ最高かよ。これは迷う必要なんてどこにもねーな。


 俺はこの告白を頷くことを心の中で即決した。




「……嬉しいよ。実は俺も亜梨沙のこと…」




「な、なーんてね!」




 その勢いのまま、俺も亜梨沙の想いに応えようとしたところで、彼女が口を開いた。




「ひょっとして本気にしちゃった?和隆ごときが私と付き合えると本気でも思ったの?残念でした!全部ウソよ、引っかかったわね。ざまぁ!」




 さっきまでの殊勝な態度はどこへやら、そこにはいつもの亜梨沙がいた。


 口が悪くて俺に突っかかってくる幼馴染の姿だ。そこに安心する要素などどこにもなく、俺は思わず狼狽えてしまう。




「え、告白じゃ、ないのか…?いや、それもツンデレなんだろ?そうなんだろ?」




「はぁ?ツンデレってなによ。相変わらずオタク臭くてキモいわね。そんなんだから未だに彼女もいないのよ。バーカバーカ!」




 顔を真っ赤にしてまるで小学生のような暴言を吐いてくる。


 普段ならまだ流せるようなその言葉も、今の無防備な俺には深く突き刺さる鉄杭も同様だ。




「なら、なんで告白なんて…」




「嘘告白だって言ってるでしょ。アンタのその間抜けな顔が見たかったのよ、ほんとブッサイクだわ。和隆はきっと一生女の子と付き合えることはないんでしょうね。よっぽど奇特で心の広い子でない限りだけど!」




 心を抉られながら、それでもなんとか絞り出した言葉。


 だけど残った僅かな希望も、即座に打ち砕かれた。




 嘘告白。それが本当なら、俺はとんだ道化というわけだ。




「嘘…だろ…」




 先ほどまでの浮かれた考えもすぐに霧散し、俺は地面に膝をついた。


 天国から地獄。そういっても過言ではない急激な落差に、俺の心は追いつかない。




「まぁ今日のところはこれで満足したわ。いい?絶対彼女なんて作っちゃダメよ、和隆は他の女の子と付き合っちゃ駄目なんだからね!」




 亜梨沙がなにか言っていたようだが、今はどんな言葉も聞こえない。


 俺はブサイクで、勘違い野郎。女の子と付き合えるはずもない人間。




 そんな言葉だけが、俺のなかでずっと響き渡っていたからだ。


 それからしばらくの間、その場から動くことができないほどのショックが、全身を駆け巡る。




 俺はその日、幼馴染に嘘告白され、ざまぁされた。














「う、うわぁぁぁっっっ!!!」




 あの後、どうやって帰ったかはよく覚えていない。


 誰かにぶつかったような気もするし、なんなら尻餅もついたような気がした。


 思い出せる記憶はアスファルトで舗装されたコンクリートの道路のみ。人の顔を見るのが怖かった。




 俺はブサイクのクソ野郎であると、亜梨沙に告げられたのが大きい。ろくに女の子とこれまで話せなかったのは亜梨沙が原因だとばかり思っていたが、どうやら俺自身にも原因は大いにあったのだと判明したからだ。




 道理で女の子と視線が合うことが少なかったわけだ。


 俺が視線を向けると、何故か顔を赤らめて避けられることが多かった記憶がある。


 きっと俺のあまりの顔面偏差値の低さに怒りを覚えたのだろう。




 実は顔には密かに自信があったのだが、それは自信過剰だったようだ。自分の認識まで歪めるナルシスト。新たな事実が発覚し、穴を掘って埋まりたいくらいだった。俺はあまりにも救いようがなさすぎる人間だ。




「おーよしよし。辛かったね、大変だったんだね」




 だけど、俺は救いを求めてしまった。


 誰かに吐き出さないと、心が張り裂けてしまいそうだったから。


 俺は弱い人間であり、そんな弱さを見せることができる人間は、ひとりしかいなかった。




「大丈夫、カズ君は悪くないよ。ボクはキミのいいところ、たくさん知ってるもの」




 そう言って俺の頭を撫でながら、優しい声をかけてくれるのは、俺の幼馴染だった。


 それはもちろん亜梨沙なんていうツンデレの皮を被った悪鬼外道の鬼畜女なんかじゃない。


 むしろ今の俺は女の子にトラウマを持ちつつあり、こんなふうに抱きついて弱さを見せることなんてできないだろう。女に甘えるなんて、今は考えるだけで肌が粟立ちそうになる。




「凛音…俺にはもう、お前しかいないよ…」




「大げさだなぁ。キミとボクとの仲じゃないか」




 俺の幼馴染、上野凛音うえのりおんは安心させるかのように、朗らかな笑顔を見せた。


 その口元からは僅かに八重歯が覗いており、胸がドキリとしてしまう。




「ありがとう、凛音…」




 その優しさが、今はひどく有難い。だけど同時に目の毒だ。俺は思わず目を落とし、凛音の体温を感じていた。暖かった。




 肩まで伸びた綺麗な桃色の髪。俺より小さな華奢な身体。


 少年のような女の子のような、どちらとも取れる声優さながらのハスキーボイス。顔立ちは亜梨沙以上に整っており、今すぐアイドルとしてユニットのセンターを取れるだろう、圧倒的美少女。凛音が世に出れば、きっと多くの男を虜にするだろう。


 だけど、決してそうなることはないことを俺は知っている。


 なぜなら―――




「なんてったってボクとカズ君は親友だからね!男同士、なにも遠慮することはないじゃないか」




 凛音は、男だからだ。




 女の子よりも女の子らしく、天使のように優しい心をもっていながら、俺と同性の存在。




「う、うわぁぁっぁぁ!」




「いくらでも泣いていいよ。話も全部聞いてあげるから」




 上野凛音は俗にいう男の娘であった。




 こんなに体は華奢なのに。こんなに二の腕が柔らかいのに。こんなにいい匂いがするというのに。




 上野凛音は、男なのだ。それが今は有難いが、同時にその事実にますます涙が溢れてくる。




 俺はいろんな意味で泣き続けた。












「…………ありがとう、もう大丈夫だ」




 それから一時間は経っただろうか。俺は涙で腫れた頬を擦りながら、凛音にお礼の言葉を投げかけた。随分みっともない姿を見せてしまったように思え、少し気恥ずかしい。いろんなものが流れ落ちていったように思えたのに、小さなプライドだけは未だ心のなかに燻っているようだ。




「そっか、それならいいんだけど。どうする?もっと頭撫でる?」




 そう言って首を傾げながら俺の顔を見る凛音。その顔はひどくあどけなく、無防備だ。


 俺を信頼しきった顔をしている。俺を嘲笑った亜梨沙の醜悪な顔とはまるで違うと、そう感じた。




 同じ幼馴染であり、同じように美形であるというのに、こうも性格が違うとは。


 人間とはつくづく不思議な生き物だと思う。そしてそれは、俺も同様だ。


 俺はゆっくりと首を振る。




「いや、大丈夫だよ。ごめんな、こんなブサイクな幼馴染が甘えるようなことしちゃってさ。一緒にいるの、嫌だったろ?」




 既に迷惑をかけていたが、これ以上甘えるのは駄目だろう。もう思い出したくもなかった幼馴染に言われた言葉が脳裏に蘇る。




 アンタみたいな死ぬほどのブサイクと一緒にいるのも嫌だった、か。これまでの亜梨沙の行動も、きっと他の女の子を俺から守るためだったんだろうな。


 アイツ、あれで案外面倒見のいいところもあったし、きっとそうなんだろう。




 そう考えると、俺は生きている価値なんてあるんだろうか。ネガティブな考えが自然と沸いてくる。枯れたと思った涙が、また溢れてきそうだった。




「へ?なんで?ボク、カズ君といるの楽しかったよ?」




 だけど、この世に神様はまだいるらしい。


 俺は確かにこの瞬間、救いの女神を見た。




「え…?」




「それにカズ君、めちゃくちゃイケメンじゃないか。全然ブサイクなんかじゃないよ。きっと亜梨沙ちゃん、また照れ隠しにそんなこと言っちゃったんだよ」




 凛音はごく自然に、俺を肯定してくれた。


 疑心暗鬼になりつつあった俺に、その言葉が本心からのものであると信じさせてくれるくらいに説得力があるものだった。しかも性悪な幼馴染までフォローするおまけ付き。天使は存在していたのだ。




「ほん、とか。俺といて、楽しかったのか?」




「もちろん。ボク、カズ君のこと好きだから」




 そう言って照れたように笑う凛音の顔は、これまで見たどんな笑顔よりも綺麗に見えた。






 ドクン






「ぇ、あ…あ、ありがとう」




 心臓が高鳴る。顔が熱い。凛音を見ているだけで、よく分からない多幸感が満ちてくる。




 俺は必死にお礼の言葉をかき集めた。たった五文字を吐き出すだけで、俺の心臓は痛いほどに脈を打つ。なんだ、これ。




「どういたしまして。でも、亜梨沙ちゃんそんなこと言ったんだ…ちょっと許せないなぁ」




 自分に起こった異変に困惑していると、凛音は思案げに眉を顰ませていた。頬も膨らませ、まるでマシュマロのようである。かわいい。




(……いやいや、なに考えているんだ。凛音は男だぞ!)




 いくら女の子みたいに可愛いとはいえ、男であることには変わらない。


 例えシトラスみたいなめちゃくちゃいい匂いがしようとも、とんでもなく可愛いかろうと、性別上は男だ。同性である。同性、だよな?多分。でも凛音は可愛い。めちゃくちゃ可愛いんだ。それは事実だ。




 俺の中で、新たな扉が開きつつあった。




「…よし、決めた!」




 思考の天秤が普通じゃない方向に傾き始めたなかで、凛音がなにかを決めたように大きな声を上げた。脳がとろけそうだ。




「決めたってなにを…」




「ボク、亜梨沙ちゃんに抗議してくるよ!カズ君に謝るよう、怒ってくる!」




 亜梨沙?そういえばそんなやついたな。既に脳が女の存在を拒否し始めていたから忘れそうになっていたが、俺が凛音の家に来たのもそれが発端だった。




 つまり凛音は俺のためにあのツンデレもどきクソ○ッチ女のところに行こうとしているのか。それはダメだ。凛音にそんなことをさせるわけにはいかない、天使が汚れてしまうじゃないか。




「そんなことしなくていいって。これ以上迷惑かけたく…」




「迷惑なんかじゃない!亜梨沙ちゃんの気持ちは知っていたから身を引いていたつもりだけど、親友が泣いているんだよ!なにか言わなきゃ気がすまないんだ!」




 なんとか説得を試みようとしたのだが、凛音の意思は固かった。


 スクリと立ち上がり、窓からカス女の家を睨む目に強い光が宿っている。


 思わず胸の奥がキュンとなった。素敵だ…




「ボク行ってくるよ!カズ君は帰っていいから。後でまた連絡するね」




「あっ、待てよ凛音!」




 そう言って凛音は部屋から飛び出していく。俺の説得など耳にも貸さずだ。それが少し寂しかった。




「帰っていいと言われても、戸締りどうすんだよ…」




 まぁ幸い俺は鍵がある場所を知っているからいいが、これが見ず知らずのやつだったらどうするつもりだったんだか。


 凛音の家に上がり込みたいやつなんて、いくらでもいるだろう。無防備すぎるにもほどがある。自分の可愛さに対する自覚が足りないんじゃないだろうか。




 さて、しかしどうしたものか。散々泣いたのもあってか、思考に冷静さが戻ってきている。


 まぁここは帰るべきだろうな。腹も減ったし、親も心配してるかもしれない。いくらどうしようもないろくでなし息子と言っても、帰ってこなかったら思うところもあるだろう。


 いつまでも凛音の部屋にいるわけ…には…




「……ここ、凛音の部屋なんだよな」




 くるりと辺りを見回すと、そこは確かに俺の幼馴染(♂)の部屋だった。


 ベッドに机、本棚にテレビやゲームといったシンプルな家具から、大きなクマのぬいぐるみのようにファンシーなものまで様々である。


 匂いもいい。なんというか、すごく落ち着く。許されるなら今すぐベッドにダイブしたい。間違いなくよく眠れることだろう。




「いやいや、両親も帰ってくるだろうし、それはまずい…」




 さすがにこれ以上迷惑をかけるのはまずい。誘惑を振り切り出口へ向かおうとした俺だったが、その足が急にピタリと止まる。




 扉の横には、凛音の服をしまっているだろうタンスがあった。
















「俺はいったいどうしちまったんだ…」




 あれから家に帰った俺は両親に事情を聞かれるもなんとか交わし、遅めの夕飯を食べた後部屋まで戻っていた。今は頭を抱えている最中だ。




 理由ははっきりしている。あれからずっと凛音のことが頭から離れないのだ。肉食系怪獣ツイン○ールのことなどどうでもいいが、凛音の声が聞きたくてたまらない。


 あのアバズレの家に単身飛び込むなんて、今さらながら心配がこみ上げてくる。


 ひどいことをされているんじゃないか。思えばアイツ…確か亜梨沙だったか、あれは昔から凛音に対して当たりがキツかったように思う。ともすれば俺以上に。




 俺と凛音が一緒にいると、大抵アイツが割り込んでくるのだ。今思えば俺と天使の逢瀬を邪魔するなど、腸が煮えくり返るほどの大罪だが、アイツのおかげで凛音との接点ができたことも事実ではある。




 その一点だけは感謝してもいいが、それでもやはり不安だ。


 間違いがなければいいのだが…




「凛音…」




 俺は凛音をどう思っているんだろう。いくら男の娘とはいえ、昔からの幼馴染であり、親友であるというのに…




 俺は答えを見つけるべく、一晩中悩み続けることになったのだった。
















「可愛いから別にいいんじゃないかな」




 翌日、俺は実に爽やかな気分で朝を迎えていた。生まれ変わった気分である。


 いや、事実俺は生まれ変わったのだろう。今の俺に女に対する興味などもはや微塵もない。一晩かけた自問自答。それは俺を新たな境地に導いていた。




 可愛いは正義である。異論は認めない。




 これがこの世の真実だ、なにを迷う必要があったのだろう。


 凛音は可愛い。俺は可愛い子が好き。だから凛音が好き。完璧な理論武装である。


 幼馴染としての絆?愛の前では些細なことだ。むしろ幼馴染から一歩先に進むためのいいスパイスになることだろう。




「待っててくれ凛音…」




 俺にはもう凛音しかいない。他のやつなんてどうでも良かった。特に女はダメだ。


 いくら顔が良かろうが異性は異性。本当の意味で分かり合えるはずもない。男でもあり女でもある男の娘という存在こそが至高の存在であると、俺はようやく気づくことができたのだ。




 結局あの後連絡はなかったが、それが俺の想いをますます高ぶらせている。焦らしプレイもまた良いものだ。俺は新たな扉を開いていた。






「いってきまーす!」




「い、いってらっしゃい…」




 両親に晴れ晴れとした気分のまま挨拶を告げ、俺は家を出た。


 若干引いていたような気もするが、まぁ気のせいだろう。


 俺の最優先事項は凛音との朝の抱擁を交わすこと。そしてこの想いを伝えることにほかならない。他のことは全て些事だ。




「……お、凛音!」




 そんな絶好調な気分のまま、俺は通学路を歩く凛音の姿を発見する。


 俺は脇目もふらずダッシュする。一刻も早く凛音に話しかけたかったから。それだけが今の俺の幸せだった。




 この時の俺は、完全に浮かれきっていた。凛音の隣を歩く人物の存在に、まるで気づかなかったのだから。






「凛音ー!」




「…あ、カズ君」




 俺は息を荒げ、凛音に追いつく。振り返った凛音は今日も可愛い。ブレザー姿がよく似合っている。ネクタイちょっと曲がっているな、後で直してやらないと。




「おはよう、昨日はありがとな。ほんと助かったよ」




「……ちょっと」




 ん?なんか雑音が聞こえたな。ひどいノイズだ。まぁどうでもいいか。




「いや、それは別にいいんだけど…」




「そっか、良かった。それでさ、俺凛音に言いたいことが…」




「…………ねぇ、聞いてる?」




 凛音が気にしていないようでほっとする。それじゃ早速本題に…




「ちょっと!無視しないでよ!」




「……ああ?」




 入ろうとしたところで、横やりが入った。


 それはもう聞きたくないと思っていたクソ女の声だ。なんだこいつ、天使の横にいるとか不敬にもほどがあるだろ。お前がいるべきところは地獄の底だろうに。




「なんだよ、亜梨沙。お前に用なんてないんだが」




「うっ…」




 軽く睨みを効かせると亜梨沙は怯んだようだった。それを見て少し胸がスっとする。浮かれていた昨日の馬鹿みたいな自分が報われるような気がしたからだ。


 だがそんな俺たちの間に割って入ってくるひとりの天使がいた。それが誰かは言うまでもないだろう、凛音だ。




「待って、カズ君。少し話を聞いて欲しいんだけど」




「ああ、なんでも言ってくれ。凛音のいうことなら俺はなんでも聞くよ」




 俺は即座に悪魔から目を離すと、凛音へと視線を固定した。


 あいつはもはや見る価値もない存在だ。凛音と比べるべくもない。


 俺は凛音の話に耳を傾ける。雑音などもはや耳に入らなかった。




「あのね…ボクと亜梨沙ちゃん、付き合うことになったんだ」






 その瞬間、俺の世界は崩壊した






「……は?」




 なにを言っているのか、理解できない。




「えっと、その…」




「わ、私と凛音は相性ピッタリだと思ったのよ!誰かさんとは比べるまでもなくね!どっかの誰かさんはきっと他の男から取り返す度胸もないでしょうけど!」




 言葉を濁す凛音に変わるように、亜梨沙が口を開いた。


 だけどその内容を理解できない。いや、したくない。




 それは、つまり…




「奪ったのか…俺から、大切な人を…」




 そんな言葉が気付けば口から漏れていた。




「……!そう、そうよ!大切な人!いやぁ、参ったわね、まったく!」




 なにが嬉しいのか、浮かれた声が人の形をしたナニカから発せられた。


 コイツ、この女、亜梨沙が、俺から…!




(寝取りやがったのか、俺から、凛音を…!)




 許せない。許せない。許せない。許せない。




 俺の凛音を、俺だけの凛音を、こんな腐れ外道女に…!




「……取り返す、絶対」




 俺は血が出るほど唇を噛み締める。それを見てますます喜色を浮かべる亜梨沙。勝者の余裕ってやつか?


 いいさ、今は甘んじて受け入れてやる。




 俺は視線を凛音に向ける。不安そうな顔をしている。ああ、そんな顔をしないでくれ。すぐ取り返してみせるから。






(俺の性癖を歪めた責任、とってもらうからな…)






 俺は、野薔薇亜梨沙をぶっ潰す

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