自称ドジっ子美少女アウィンちゃん!

@mugimoz

第1話


「あ〜もう!遅刻遅刻〜!」


その一言と共に可愛らさを繕った走りをする少女、『アウィン』。


「どーしてパパもママも起こしてくれなかったの!」


そうは言いつつ、起こそうにもあと5分と起きるのを断り続けたことは忘れているようだ。

走る先にはT字路。このまま走ると、曲がってくる人にぶつかる可能性がある。

ましてや、この時間。真面目で医学の道を目指すエリートオブエリート『シダー』が通る時間だ。

練り上げられた彼の1日のスケジュールの内、登校時間は1秒も狂うことはない。

よって、ぶつかるのは必然。

そのまま彼女は突き抜けるよう走り、角から来る人に気づくものの、急には止まれず…


「きゃ〜!」


スッ


「危ないですよ。」


スタスタスタ


見事に避けてシダーは去っていった。


・・・


「そこはぶつかるとこでしょぉおおおおおおおお!

ボーイミーツガールするとこでしょぉおおおおおおおお!

どぼじでよげじゃうのぉおおおおおおおお!」


アウィンは起きた事実に失望した。

将来有望なイケメンと運命的な出会いをして、ウハウハな生活は絶たれたのだ。

実は数週間前から彼の通学時間をリサーチしており、このT字路の草陰に監視カメラまで設置までしていた。かなり計画性のある犯行である。


「はぁ〜…。」


諦めかけた時、頭に電流が走る。


ピッカーン


(そうよ!まだファーストコンタクト。ドジっ子属性を推しつつ、何回も会えば堕ちる!確信!)


そう次の計画を立てるアウィンだった…。ちなみに今日はズル休みをしているので、遅刻オチなどない。


・・・

1週間後

・・・


今日も今日とて、シダーにアタックをするアウィン。結果は変わらず、若干彼の表情が引いているように見えた。

だが彼女はそれを気のせいと片付けようとした、その時。


ドゴーン


後ろからだ。

そうとわかった瞬間、彼女は走り出した。繕った走りではない、本気の走り。


「シダーくぅぅぅぅぅん!!!!」


着いた先には壁やコンクリが割れた異様な光景が広がっており、その中にボロボロで倒れている彼がいた。


「シダーくん!?」


「う…、逃げてください…。」


「逃げてって…?」


その時、彼女はズンっと内蔵が重くなる感触がした。振り向いた先には、巨大な恐怖の塊が立っていた。


セリ目 セリ科 ニンジン属


そう、ニンジンだ。彼女の大嫌いな食べ物。父親が克服させようと無理やり食べさせられて金玉を蹴り上げた(主に父親の)トラウマが3m以上の巨体で目の前にある。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

ニンジィィィィィィィン!?

ドウシテ…ニンジンガココニ…?」


「君には人参に見えているのですね…。私には母上に見えます…。恐らく、見た者の1番恐ろしい物に見える怪物のようです。

…と言うより、悲鳴の声太いですね。」


彼の推測通り、その怪物は見た者の1番恐ろしい物に見える物。そしてそれはゆっくりと近づいてきた。


「ンヒィィ!?」


「だから逃げてください。恐ろしいのは見た目だけじゃなく、力も…。」


「うっ…。」


あまりの恐怖に彼女の足は動けなかった。正直、泣きそうだ。


「逃げろ!」


「…っ!?

…やだ。

…やだやだやだやだやだやだ!」


「いいから…」


「せっかく、シダーくんがお話してくれてるのに!逃げるなんてやだ!」


彼女はニンジンに向かって走る。


「何を…」


「私のダーリンを傷つけたアンタは!

ニンジンだろうが許さない!」


それを言い終えたと同時に彼女はニンジンに飛びかかった。


が、それに合わせてニンジンは葉を拳のように丸めてカウンターを放つ。


ボコッ…バタッ


鈍い2つの音。彼女の心臓は止まった。


・・・


暗い暗い、真っ暗。

微かに声は聞こえる。何を言っているか聞き取れない。


(ダーリン心配してくれてる。でも、死んじゃうのか。

もっとお話したかったな。)


・・・


「ここは?」


真っ白な空間。


「はーい!私は女神でーふ!

あなたには異世界に転生してもらいまーふ!」


「は?」


突然の出来事にそんな反応をアウィンはした。


「あなたは私の手違いで死んだのでワンチャンで異世界転生でーふ!

まさかモンスターをこっちの世界に送っちゃうなんて私ってドジ!でもイケメン逆ハーレムチート無双生活だからゆるしてニャン!」


突然30はいってるババァがとても痛々しい発言をしてきた。


「…。」


「嬉しくって言葉も出ないって〜?」


「殺す…テメェをぶっ殺す!」


「え?」


「何が女神だァ?テメェのせいで、テメェのせいで…。」


「何よ!せっかくの異世界転生よ!逆ハーレムチート無双生活よ!凄いことなのよ!」


「いらねェよ!だったら返せよ!元の所にィ!」


「ククククッ…面白いな、女。」


目の前のクソ女神ではない、低くて渋い声が聞こえた。


「誰だァ!」


「いい怒りだ。実に興味深い。」


「だから名を名乗れッてんだろがァ!」


「これは失礼。我は『レヴィアタン』。

君にいい話がある…。」


「話だァ?」


「なんでここにあなたが?

ダメよ!悪魔の話に乗っちゃ!」


「「うるせェ(さい)クソビッチ女神!」」


その声の後、女神の姿は消えた。


「邪魔者が消えたところで…。

女、元の世界に戻りたくはないか?」


「戻りたいに決まッてんだろ!」


「なら我と契約せよ。元の世界に戻るだけでなく、我の力も授けよう。

ちなみに代償だが…」


「いいからさッさと元の世界に戻せよ!」


「親切に代償を説明しようと思ったが…まあよい、契約成立だ」


・・・


「…きろ…起きろ!」


声が聞こえ、目を覚ますと彼の顔が目と鼻の先だった。


「きゃー!ダーリンったら人工呼吸してくれたのぉぉぉ!

もしかして、おっぱいも触っちゃったぁ?ダーリンのス・ケ・ベ♡」


「いや、まだ呼吸確認の最中だから。

てかダーリンって…。」


かなり引いている彼を見て思い出す。


「あれ、ニンジンは?」


「まだ近くにいる。なんとか隠れてはいるが、いつ見つかるか…。」


「じゃ!ちょっとニンジン退治してくるから待っててね!」


「おい何いって…やられたばかりだろ!次は死ぬぞ!」


「心配してくれてありがと。でも大丈夫!恋する乙女は強いのよ!」


そう言って彼女は駆け出した。


・・・


「また会ったわね。」


再び対峙する巨大ニンジン。


「それで、力もくれるのよね?」


(やっとか、よかろう。)


ザザザァー


どこからか水が押し寄せる音が聞こえる。次の瞬間、彼女の周りを水が覆う。


(水を操る。それが授ける力だ。)


「水を操る?」


(口から火を、鼻から煙を吐く方が好みか?)


「いや女の子がそれはアウトでしょ…。まあ、いいわ。」


そう言って彼女を覆ってた水が、形を作る。それは、あのニンジンよりも大きく鋭い包丁のようだった。


(刃のように1点集中するのは分かるが、持たないのだから柄は必要ないだろう。)


「いいの!こういうのはイメージが大事なの!」


それを見てニンジンが逃げるように離れていく


「逃がすかァァァァア!

みじん切りにしてやるゥゥゥゥウ!」


持つ必要のない水包丁の柄を抱えて近づき、大きく振り上げて切り下ろす!


「キェェェェェェエエエ!!!」


ズバッ


その一振で、ニンジンは真っ二つになった。


「まだまだァァァァァァァ!!!」


続けて振り上げて切り下ろす、振り上げては切り下ろす。気が済むまで騒音と奇声を上げながら。


・・・


「フー、フー、フー。」


息を切らし、立ち尽くす。無駄に体力を消費した。


(初陣にしては中々だな。)


「そうだ、戻らないと…。」


彼のことを思い出し、少女は歩き出した。


・・・


「シダーくぅぅぅん!」


彼の元に戻る。

すると


「僕は一体…」


「シダーくん!…あれ?」


確かに彼はいた。しかし、怪我の痕跡はおろか服の汚れすらない。さらには割れた壁やコンクリなどどこにもなかった。


(クソ女神お得意の証拠隠滅か)


「どういうこと?」


(アイツにとって不都合なのだろう、モンスターさえ倒せば、無かったことにできる。そして…)


「あれ、シダーくん?どこいくの?」


「誰ですか、あなた。…急いでいるので失礼します。」


(会ったことすら記憶消去とは…なんとも雑な。)


「…。」


(残念だが我にはどうにもできん。恨むなら女神を恨め。)


「それって…」


(ん?)


「まだ遅刻ドジっ子作戦が通用するってこと…!?」


(…やはり面白いな、女。)


こうして記憶リセットされたことを逆手に取り、1週間の彼の避けパターンをデータにいれた作戦が始まってしまったのであった。

めでたし、めでたし。







「そこのアナタ!評価をつければ天変地異が起きて続き的なのが生えてくるかもしれないわよ!」

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