そして春

探偵部は、存続していた。



新しい部長――それはまた別のお話である。


厳かな卒業式と、探偵部の卒業式を終え数日後、サクラは一人で帰路に着いていた。


霊園に立寄るためである。


一族の立派な墓の前で静かに両手を合わせると、火が付けられたばかりのお線香があることに気づいた。


――誰か、来たんだね...


そして、静かに口を開く。


「...ごめんね、ずっと...来れなくて」


瞳にうっすらと溜まった涙がポツリと地面に落ち、黒いシミを作った。


「――おかあさん...」


ぽたぽたと涙を零しながら、サクラはこれまでの事を母に報告していく。


好きなアニメのこと、高校生になったこと、探偵部に入ったこと、友達ができたこと、おかしな事件のこと...そして、恋人ができたこと。


これまで話せなかった全てを話し終え、サクラが家に戻ろうとしたときにそっと肩に手が添えられた。

大きくて、コーヒーとタバコの香り...それだけでその手の主がわかり、サクラはそっと振り返った。


「おとう...さ――」


サクラの言葉を遮るように、手の主――サクラの父である龍彦はサクラを力強く抱きしめた。

そして――ひたすらに謝罪を始めた。


その謝罪は、かつてサクラが拒絶したものだったが、今のサクラの耳にはその言葉の真意――自分への深い愛がハッキリと伝わってきた。


「もういいよ、大丈夫だよ...わかってるよ、お父さんさん」


サクラの言葉を聞くと、龍彦はただ一言「ありがとう」と言って、またサクラを抱きしめた。

応えるように、サクラも父に抱きついてみせる。何年ぶりだろうか、父親にこんなにも甘えてみせるのは...


龍彦の運転する車に乗り、二人で家に向かう途中――


「おとうさん、私ね――」


と切り出したサクラの言葉に、龍彦衝撃を隠せなかった。

サクラに、恋人がいるのだ。




1週間後


西園寺家の玄関前に、サクラと坂本秋の姿があった。

サクラは少し緊張をした面持ちであるが、秋の方はもう限界を超えて緊張をしているようで膝が笑っている。


そんな秋の手を優しくサクラが握る。

そして、サクラが優しく微笑んでみせると秋はほんの少しだがいつものように笑って見せた。



西園寺家の数多ある部屋の中で、二人はリビングの椅子に腰掛けている。

チラチラと時計を確認する秋と、キッチンで飲み物を準備しているサクラ――そんな時、


「あら、サクラさん...お友達?」


長身で長い黒髪が目立つ女性が奥からサクラに声をかけた。


「あ、えみ――じゃなくて...お、おかあ...さん」


「――っ!」


女性はサクラの今の母親――父、龍彦の再婚相手の恵美子である。

様々な誤解の果て、サクラから拒絶され続けた恵美子だったが、出会ってから初めてサクラに「おかあさん」と呼ばれたことに驚き、持っていたマグカップを落としてしまった。


マグカップの砕ける音で秋がキッチンに顔を出した。

マグカップの破片を秋が集めていると、サクラが秋を恋人だと恵美子に紹介した。


「あら、あらあらあらあら、あら!」


「――今日は...お父さんに、秋を紹介しに...」


「まあまあまあ、まあ!」


恵美子はそう言うと、ケーキを買ってくる!と言ってそそくさと出かけて行った。


秋は砕けたマグカップの破片を全て集めると、それを一つ一つ丁寧に組み合わせ始めた。

直そうとしているようだ。


真剣な表情でマグを直す秋と、真剣な秋な顔をぼーっと見つめるサクラ。時計の針の音が、ハッキリと聞こえるくらいの沈黙の時間。

その沈黙を崩したのは、車がガレージに入っていく音だった。父親の車がガレージに入り、ドアを閉めるバタンという音が響くと、秋は思わず身体を強ばらせる。


玄関の扉が開かれて少しすると、靴入れの開閉音がリビングまで響いてきた。

そして、足音がトントントンとリビングへ迫ってくる。


そして、扉が開かれた――



次の日の朝。


いつもと変わらない朝、登校する生徒たちの中にサクラと秋は居た。

いつもは手を繋ぐくらいだったが、今日は人目をはばからずに腕を絡ませてこれでもかという程にくっついて歩いている。


秋が気恥しさや周囲の目を気にして、歩きづらいし危ないとサクラに言うが、


「...昨日、言いましたよねー」


サクラは満面の笑み、そして僅かに頬を紅潮させながら言葉を返す。


「私の事を、いっ――」


サクラがそこまで言うと、秋は慌ててサクラの口を手で覆う。


「んー!?んんん!!」


サクラが不満の抗議を訴えるが、秋はその訴えを無視して手でおおったまま歩みを進める。


昨日の西園寺邸での出来事は、2人だけの秘密にしようと約束したのに、サクラは昨日からこんな調子である。

普段の不安げな表情などは微塵もなく、秋に対してとても甘えてみせたりと、昨日からこんな調子で秋に接している。

龍彦の勧めで昨日は西園寺邸に泊まることになり、今日は朝からずっと一緒に歩いている。



満開の桜の季節。


別れがあり、また出会いのある季節。


最高の出会いをした少女は、


今、最愛の人と共に、


満開の笑みを咲かせている。













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TRPG後日談 てぶくろ @tebukuro_TRPG

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