TRPG後日談
てぶくろ
【林間学校を終えて】
【桜色】
【サクラ色】
少女は隣を歩く少年の手を、しっかりと握りしめる。
時はほんの少し遡り――
探偵部の活動を終え、自然といつものように皆で帰る流れの時に
「二人で帰ります!」
堂々と宣言した少女は、少年の手を力強く握りそのまま足早に二人で学校を出ていく。
そして、よく立ち寄る公園に少年を連れ込むと――
――少女は少年の胸に飛び込んだ。
大きな帽子が地に落ちるのも気にせずに、相手を力強く抱きしめて上目遣いに見つめる少女。
少年は周囲の人の目もあるが、単純に恥ずかしいというのもあり少しだけ目線を逸らして身をよじっている。
「...貴方に怪我を...本当に...本当に...」
少女の口から後悔の言葉が溢れ出る。
少女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
それを見た少年は、自然な動作で少女を優しく抱きしめた。
――大丈夫だ。心配ない。――
少女の耳元で優しく囁き、抱きしめる腕に少しづつ力を込めていく。
夕暮れの公園で泣きじゃくる少女を、少年はいつまでも優しく包み込んでいた。
そして、少年は気付いたら少女の家に来ていた。
――もう遅いから、家まで送るぜ!
そう言った。確かに少年はそう言って、家まで送った。
少女が「せめて自分が手当をしたい」と言うので少しだけ上がるつもりだったが――
いつの間にかゲストルームに通され、いつの間にか夕飯を二人で食べ、いつの間にかシャワーを先に済ませてきた。
そして――――
少女の部屋のソファに、正座をして座っている。
――どうしてこうなった?なにがどうして?いや、これは冷静に考えたら望むべき展開ではないか?彼女の家に来た。両親は不在で、支度されていた夕飯を二人で食べて、自分は彼女の部屋で彼女の湯上りを待っているんだ。こんな素敵で最高な展開、今後有り得るか?いやあるかもしれないがそれは明日とか明後日とかに来るもんじゃない。きっともっとちゃんと手順を踏んでからじゃないとこの部屋には入れないだろうし、この前みんなで泊まりに来た時すらガードがしっかりしてた。それが今日はこんな展開だぜ。一も要も左之助も、ひよりも楓も居ない。正真正銘の2人きり。こんな環境が今後望めるか?むりだ、絶対に無理だ。そうだこれは夢かもしれない、というかきっと夢だ!公園で殴られるかおまじないでぶっ飛ばされたにちが――――
「お、お待たせしました」
部屋の扉をそっと開けて、肌から少し熱気の立ちのぼる少女がそう言葉を発した。
そして――
「服を脱いで、目を閉じててください...」
少女の言葉に、少年はゴクリと喉を鳴らした。
そして大人しく言われるがままに、上の衣服を脱いで目を固く閉じた。
「それじゃあ...行きますね」
少女がそういうと――
そっと、優しく少女の手が少年の体へと触れていく。
怪我をした箇所へ優しく薬を塗り、包帯などでしっかりと手当をしていく。
「...じつは――」
手当をしながら、少女は自分の家庭のことを少年に話し始めた。
母親のこと、父親のこと...
自分が話せる全てを少年に話し終えたのと、手当が終わるのはほぼ同時だった。
手当を受けた少年は、少女の頭を優しく撫でる。
髪を乱さないように、そっと優しく撫でる。
少年の手に撫でられた少女は、嬉しそうに少年にじゃれつく。
そして、気づいた頃には少女は寝息を立てていた。
少女を優しく抱き抱え、ベッドへと寝かせた少年はそのまま以前に使ったゲストルームへ行こうとしたが――服の裾を少女がしっかりと掴んで、離す気配がない。
少し強めに引いてみたががっちりと掴まれており、無理に離すとおそらく少女が起きてしまうのは明白である。
自分の頭をガシガシとかき、意を決して少年は少女のベッドへと潜り込んでいく。
そして、優しく少女を抱きしめながら、襲い来る何かと必死に戦いながら...朝を迎えた。
その日、前日の疲れや落ち込みがうそのように回復した少女と、対照的に目の下にくまを作った少年はいつもの仲間たちと楽しそうに笑いあっていた。
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