マニアルって大事なの?

如月米美

ありがとうって言われると嬉しい人

私、鈴木美沙は自販機に関するクレームを担当するコールセンターに勤めている。


昨晩、この地域では珍しい雪の降った。おかげで通勤する時は、ヒヤヒヤした。年に一回降るか降らないかのために、スタッドレスに変える人はあまりいない。なので、私を含め多くの人がノーマルタイヤで通勤する羽目になったのだ。


子どもの頃は滅多に降らない雪が嬉しかったけど、大人になった今になって分かった。

今日、大人たちが雪が嫌いって言っていた訳を思い知った。そういうことだったのか、、、


そんな日でも、働かなければならないのだ。嫌になってしまう。

しかし、外は寒さで痛いほどの気温で自販機にまで買いに行く人がいないのか、全くクレーム電話がかかってこない。

なので過去の事例の資料をまとめたりして過ごしていた。


そんな感じで油断しているとクレーム電話がかかってくる。

今日はどんなクレームかしら?


「こちら三鳥みどりドリンク会社の鈴木と申します。どのようなご用件でしょうか?」


『自販機の窓口であってますか?』


「はい。間違いございませんどのようなご用件でしょうか?」


『出張帰りに自販機で炭酸飲料を買ったら、なんかシャリシャリした食感がありまして、、、なんか凍りかけてる感じがします』


こんな日に出張か、、、大変だな。そんな日の帰りに、買った炭酸飲料が凍りかけている状態で出てきたら文句の1つは言いたくなるだろうな。

と今までの経験をもとに厳しい言葉を浴びさせれる覚悟した。


「すみません、代金を」


と言いかけたのを遮るように電話の相手は言った。


『いらへんわ、たかが100円のために電話せーへんわ』


内心驚いたが、表に出さず聞いた。


「なら、どういったご用件でしょうか?」


『俺は自転車を漕いでたからちょうど冷えてて良かったやけどさ、ほかのドリンクで凍ると分離しちゃうヤツない?振るとゼリーになるヤツとかカフェオレとか』


「分離してしまうドリンクがあることは確かです」


『やから、俺はいいけど他の買う人が困るかもって思ってね』


「すみません」


『謝らないでええねん、ありがとうっていってくれた方が嬉しい』


「すみません」


『いや、やから謝らないでええねん』

『俺は善意で電話したんや、なのに謝られると悪いことした気分になるんや』


「ありがとうございます」


『それでええんや』

『で、ドリンクが凍りかけているのは昨晩寒かったせいか?』


「いいえ、自販機の外と中で断熱出来るのでそういうことはあり得ません」


『なるほど、自販機がぶっ壊れてるってことか、、、』


「そういうことになりますね」


『ってことは、直さないと!』


「自販機に番号が書いてありませんか?」


『ありますね、、、その番号が何ですか?』


「その番号は自販機の管理番号になっておりまして、その番号で場所とかを知れるようになっています」


『AB123-456ですかね?』


「ホームセンターの前ですか?」


『はいそうですね、ホームセンターの前です』


「そちらに修理業者を向かわせます」


『俺は帰っていいんですか?』


「はい、ありがとうございました」


『それでいいんですよ』


電話口の向こうで笑い声がした。


電話を切り、ふと考える。

入社してから教え込まれたマニアルに疑問を覚える瞬間だった。


でも簡単に変えられるものではないけど、変えてみようと思った。

ありがとうって、言われると気持ちいいってのは私も分かる。

難しい問題だと思う。

ありがとうとすみません、どちらも正しい。人によるから、難しい。

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