第12話 陽動作戦 第三章END

 パーキングエリアに到着した恭兵キョウヘイたち。

 止まっている車はワゴン車が2台とシルバーの4ドアスポーツカーが1台の計3台だ。

 とはいえ、流石に無関係な人の車を盗むのは良心が痛む。


(せめて相手が悪党であれば気が楽だけど……)


〈注意。この物語は法律・法令に反する犯罪行為を容認・推奨するものではありません〉


(誰に説明してんだよ……?)


「どうしたんですか恭兵さん? 難しい顔をして?」

「えっ? いや、何でもない……」


 とりあえず適当な場所に車を止めて様子を窺うことに決めた。

 やはり体力が強化されているとはいえ、疲れる。


「少し休憩。――ところで学校に電話は?」

「あのね、スマフォは学校に置きっぱなしだし、どうやって連絡するのよ?」

「そうだ……」


 マイの言う通り、電話を探さなければならない。

 パーキングエリアに公衆電話でもあれば何とかなりそうだが、見渡す限り見当たらない。

 恭兵が、どうするかなぁ、と考えていると――


「――きゃっ‼」


 突然、芽愛メイの横のドアが開き、誰かが芽愛を外へ連れ出そうと腕を掴んで引っ張った。

 幸いシートベルトをしていたので、それが引っかかって外に連れ出されることは無かったが、それでもお構いなし、と芽愛の腕を引っ張っている。

 恭兵は咄嗟に拳銃を取り出し、芽愛の腕を引っ張る相手を撃つ。

 弾は男の腕に当たり、その拍子に男の手が芽愛から離れた。

 恭兵は車から降りると、周りに注意しながら銃を構えて男に近づいた。

 金髪に派手なアクセサリーを着たチャラい格好をしている、如何にもナンパ野郎的な印象を受ける男だった。

 恭兵は一度銃を使って男を殴って気絶させる。


「怪我は?」


 訪ねる恭兵に、芽愛は「大丈夫です」と答える。

 チャラ男の持ち物を調べると、スマートフォンと車のキーを見つけた……財布は金欠ではないのでそのままだ。

 キーのロゴを確認すると、スポーツカーの物と一致した。


「行こうか?」


 恭兵が芽愛と舞を誘ってスポーツカーに乗り込んだ。

 芽愛と舞が横たわるチャラ男に向けて「すみません……」と申し訳なさそうに言って横を通り過ぎる。

 そして恭兵はスポーツカーを走らせた。

 スポーツカーの中は、足元のマットは少し汚れて煙草臭いことを除けば快適だ。

 恭兵が「はいこれ」と、チャラ男から失敬したスマートフォンを後部座席に座る舞に渡した。


「連絡必要でしょ? それと、今日は緊急で実家に帰えると伝えて」


 舞はスマートフォンを受け取るが、放心したみたいに固まっていた。


「あっ、もしかして電話番号分からないか?」

「失礼ね――えっと松本まつもと先生の番号は確か……」


 スマートフォンに番号を打ち込み、電話を始めた。


「もしもし松本先生? 相川あいかわです――」


 舞は、緊急で学校を休むことと、鹿島かしまも同じく欠席することを伝えた。


「ところで、松本先生って女性?」

「はいそうです――あっ! 恭兵さんまさか……」


 芽愛は突然、悲しいような寂しいような暗い表情になり、目にも薄っすら涙を浮かべていた。


「いや、もし男だったら、色々面倒だから、と思って」

「本当……ですか?」


(なんで……というか何故疑われてるんだろう……?)


 まるで浮気を疑って悲しむ彼女のような状況の芽愛に、恭兵は身に覚えのない罪悪感に見舞われる。

 何故か……。


「ところでアナタ、本当は何処に行くつもりなの?」


 電話を終えた舞が恭兵に訊いた。

 実は舞の実家があるのは北の方面で恭兵が向かっているのは逆の南方面。舞がさっきまで何かを言いたげだったのはこれが理由だ。

 当然だが、これも恭兵なりの作戦だ。


「鹿島先生には悪いけど、アンタの実家に行くっていうのはフェイント。大体自分たちの行先を知ってる人間って、大抵捕まって目的地を喋ったりするのがベタな展開。だからそれを利用する」

「利用する、っていっても、もうバレていますよ。私たちが南に向かっているのは」


 助手席に座る芽愛が訊いた。

 南に向かっているのは浩次コウジに筒抜けだ。

 その証拠に浩次の手下たちが襲ってきたのだから。


「それも作戦の内、あいつらは俺たちが南に向かっていることに気づいたってことは、次にやるのは、南方面の封鎖だ」

「まずいじゃないですか恭兵さん?」

「だけど大丈夫」


 恭兵は余裕の笑みを芽愛に向けた。

 そして恭兵は、何と次のインターで高速を出てしまった。


「どうして出たんですか?」

「このまま待ちぼうけさせる」


 一度インターを出ると、今度は適当なところでUターン、再び高速に入った。

 1つ違うのは、今度向かったのは北の方面だ。


「北は鹿島先生が知っているから、とか言ってませんでした?」

「そう、ここからが本番。ところで実家以外で人気が無くて建物がある場所、知らないか?」


 舞が考えていると、何か思い立ったのか、芽愛が舞に振り向いた。


「お母さん、スマフォ貸して!」

「えっ? はい」


 舞からスマフォを受け取ると、操作を始めた。


「どうしたの芽愛ちゃん?」

「ネットで探した方が早いと思って」


(その手があった!)


 芽愛がネットで場所を探していると、一瞬だが手が止まり、何かに取り付かれたかのように、ある場所を探し出した。


「ここなんてどうですか?」


 芽愛は恭兵にスマートフォンの画面を見せる。

 場所はキャンプ場。


「キャンプ場?」

「幼い頃に行ったことがあって、今はシーズンオフですし、確かコテージもあります……」

「決まりだ。場所は?」

「お爺ちゃんの家よりも北です」

「なお好都合だ」

「どうしてですか?」

「万が一鹿島先生が捕まって、今の俺たちを兄貴に見られたとしても、予定通り爺さんの家に向かっていると思って、その家で待ち構えるかもしれ――そう言えば、爺さんの家を知ってる人間はどのくらい居るの?」

「私たちと親せきくらいですけど?」


(あれ、意味ないか?)


 住所を知っている人間が限られるのから、そのまま向かっても問題無いのかもしれない。

 物書きの癖で、物語あるあるの展開を回避しようとすれば、逆にその展開を迎えそうな気がしてしまう。

 仮に、芽愛の祖父の家に行ったとして、何処かで住所が知られ、手下が来る可能性も有るし、キャンプ場の向かっている最中に浩次の『上空遠隔視』で居場所を特定されるかもしれない。

 どう考えても浩次に居場所がバレてしまうフラグしか頭に浮かばない。


「いや、キャンプ場へ行こう」


 恭兵は念のためにキャンプ場へ向かうことに決めた。

 

                 ○

 

 高速道路の各インターの出口では、大規模な検問が行われていた。

 警察官が高速道路を出る車、1台1台に乗る人間を確認する。

 とはいえ、人手が足りない所為か、サッと顔を見ては直ぐに通すという、大分手抜きをしているような印象だ。

 パトカーも覆面車を含めて高速道路を巡回させているが、それでも見つかっていない。

 とある建物の一室。内装は理事長室のような如何にも偉い人が使っているような感じで専用の席もある。

 その席で、恭兵たちの発見の連絡を待つ浩次はイライラを募らせていた。

 南方面へ向かっていることを『上空遠隔視』で確認しているで、南に向かっているのは間違いない。

 なのに、どうして見つからないのか?

 すると、ドアがノックされた。


「入れ」

「失礼します」


 部屋に入って来たのは、年齢は50代で真面目そうな男。


「どうもボス」


 男はそう言って浩次にお辞儀をした。


「やぁ、それでいつになったら恭兵たちは見つかるんだ?」

「只今、全職員を導入して検問にあたっています」

「全職員って言っても、非番の奴も導入したのか?」

「いいえ、そこまでは……」

「バカ野郎‼ 非番だろうが何だろうが、全部の警官を使って恭兵たちを探せ‼」


 そう、この男の正体は警察庁長官、日本警察のトップの男だ。

 しかし今は、浩次のスキルの所為でただの操り人形に過ぎない。

 長官は「分かりました」と再びお辞儀をして部屋を出て行った。

 すると、長官と入れ替わりに武須田ぶすだが部屋に入って来た。


「ボス、理事長が松本先生に、今日は欠席する、と連絡があったそうです」

「どこに向かったか聞いたか?」

「いいえ。ただ、鹿島先生も今日は欠席すると言っていました」

「鹿島先生?」

「はい、保健の先生です。それで今日は代わりに松本先生が――」


 武須田が言い切る前に、部屋のドアが開いた。入って来たのは銀髪の組員だ。


「ボス、仲間の死体が見つかりました」

「何だそんなことか――いや待て、そいつらは何処の班だった?」

「確か黒猫町の辺りだったはずです」


 黒猫町と聞いた浩次は、何この咄嗟の思い付きで付けたような名前、と内心呆れていた。

 自分の作品のはずなのに……。


「黒猫町って、確か鹿島先生も黒猫町です」


 それを聞いて浩次は察した。恭兵たちは鹿島の家に泊ったに違いない。もしかしたら恭兵たちの行先も知っているかも、と。


「その鹿島って奴を探し出せ」

「はいっ」


 浩次の命令に武須田と組員が部屋を出た。


                               第3章 END

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覚醒するために××(チョメチョメ)アニメでアクションをやるハメになった件! 木村 仁一 @jin-ichi357

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