第11話 ちゃんと働いています
ユニークスキル『上空遠隔視』を使って、
恭兵が乗る車は北へ向かっている。
浩次はスマートフォンを手に呼び出しをした。
「見つけたぞ、高速道路を南方面へ向かってる」
そう言って通話を切ると、浩次は考えた。
もっと勢力が欲しい。
暴力団の武力だけでは恭兵に太刀打ちできない。
「もっと武力を持っている軍隊でも……」
あるじゃないか!
浩次はある存在に気づき、静かに微笑んだ。
「おいっ、出かけるぞ」
「どこにですかボス?」
○
高速道路に乗ってから1時間くらい経っただろうか。
しばらく沈黙が続いた後に、芽愛がその沈黙を破った。
「恭兵さん?」
「なに
「残り時間はどのくらいですか?」
恭兵はナビゲーターウォッチを見た。
「残り10時間ちょっと」
「まだそんなにあるんですね……」
「そう」
芽愛の言いたいことは分かる。追われる身としてはとても長い時間だ。
「その時間が過ぎたら、どうなるんですか?」
恭兵はどう答えようか考える。
当然ミッションが成功すれば恭兵は昏睡から目覚めて、それで終わりだ。
それをどうやって説明すればいいのか分からない。
別の世界から来ました、と言ったところで、また可笑しなことを、と思われるのがオチだ。
そんなことを考えていると、芽愛が恭兵に尋ねる。
「そう言えば恭兵さん、ノベル作家を目指してる、って言っていましたけど、普段は仕事してないんですか?」
「ちょっと芽愛、そんなこと聞くんじゃない。彼にも色々事情があるんだから……」
恭兵は
「あいにくニートじゃないよ。バイトだけど、スタンドで働いています」
「あら、働いてたのね。引きこもってゲームでもしているのかと思ってた」
「失礼だな。俺は――」
反論しようとした時、恭兵がルームミラーを覗くと、やたらと猛スピードで迫る1台のセダン。
「どうしたんですか恭兵さん?」
「ちょっと気になる車が……」
恭兵は通常の速度で様子を見ることにした。
やがてセダンは、追い越し車線から恭兵たちの車の横に並んだ。
すると、セダンの後部座席の窓が開き、拳銃を握る手が伸びてきた。
「ヤベッ‼」
恭兵はブレーキを踏んで急減速。何とか拳銃の照準から外れることが出来た。
「にゃろう!」
恭兵は
恭兵の放った銃弾は拳銃を持っていた男に続いて運転手にも命中。コントロールを失ったセダンは、猛スピードのまま蛇行した勢いで、やがて車が横に向き横転した。
「やっぱりバレたか」
「どうして私たちの居場所が分かったの?」
「兄貴のユニークスキルだ理事長。指定した相手の居場所がすぐに分かるんだ」
「ウソ、本当に生きていたの⁉ ――きゃっ⁉」
恭兵が運転する車が体当たりを受けた。もう1台居たのだ。
「うるさい連中――うおっ!」
再び恭兵の運転する車へ体当たりをすると、今度は道路の端へ押しつけた。
身動きの取れない状況も最悪だが、それに追い打ちを掛けるように、パンッ‼ と大きい音が聞こえた。
押しつけられたことでタイヤが削れ、バーストしたのだ。
そして敵の車の助手席からはチンピラの持つ拳銃が恭兵を狙っていた。
恭兵は咄嗟に身を低くして銃弾を避ける。高速道路を走行中ということも狙いを狂わせている。
「リロード、グロック32連マガジン」
〈マガジン、召喚します〉
恭兵の手元にグロックの
そしてスライドに付いているセレクターレバーを切り替え、
すると、何かを引き裂くような、ガー、という音を立てながら恭兵のグロックが火を噴き、その放たれた銃弾は容赦なく助手席のチンピラは勿論、運転席でハンドルを握るチンピラまで餌食になった。
ドライバーのコントロールを失った車は、恭兵たちの車から離れて行き、右へ左へと道路の端にぶつかりやがて停止した。
「大丈夫、怪我してない?」
恭兵が後部座席に座る芽愛と舞に問いかける。
「ええ、大丈夫」
ルームミラーを覗く限り、芽愛も舞も目立った怪我はしていないようだ。
しかし重症なのは車だ。タイヤがボロボロになってしまったため、車体は大きく揺れ、コントロールが難しくなっていた。長距離はとても走れない。
すると、目の前に長いトンネルが見えてくる。
「よしっ」
恭兵はトンネルまで何とか車を走らせる。
トンネルはかなり長いようで、なかなか出口が見えない。
そしてトンネルの中間くらいのところにある非常駐車帯に車を止めると、恭兵は車を降りる。
「こんなところで降りるの?」
舞のいうことも当然だ。高速道路を出歩くのは非常時の場合を除き基本許されない――ある意味今は非常事態とも言えるが……。
「このままじゃ走れないでしょ」
恭兵はまず、バーストしたタイヤを見つけるところから始めた。
左前のタイヤがボロボロだ。左後ろのタイヤも横の部分が少しすり減っているが、バーストした様子はない。
「酷いですね」
いつの間にか車から降りた芽愛がバーストしたタイヤを見て言った。芽愛の後ろには舞も立っている。
「仕方ない、スペアタイヤに交換しよう」
「そんなこと出来るの?」
「ダテにスタンドでバイトしている訳じゃないって証明してあげるよ」
舞に向けて言うと、恭兵はトランクルームを開け、スペアタイヤの収納スペースを開けた。
アニメの世界ということもそうだが、現実でも最近は燃費対策やコスト削減など様々な理由で、最初からスペアタイヤが乗っていない車もあるので心配だったが、この車にはちゃんとスペアタイヤが用意されていた。
安堵した恭兵は、早速付属のレンチで一度タイヤのナットを緩める。流石にスタンドみたいに道具がないので、ナットは非常に硬いが、レンチに乗る形で自分の体重を乗せれば簡単に緩めることが出来る。
それが終われば次はジャッキで車を持ち上げ、ナットを全部外した後、バーストしたタイヤを外す。
恭兵の慣れた手つきに芽愛の目は釘付けだ。
スペアタイヤを取り付け、ナットを絞めると、一度ジャッキを下ろして最後にレンチを手の力いっぱいにナットを増し締めすれば終わりだ。
「よしっ、これで終わり。じゃあ、車に乗って」
恭兵は道具を片付けると、車に乗り、後続の車が来なくなるタイミングを図って発進した。
バーストしたタイヤの時と違って揺れは無くなり、コントロールも容易だ。
しかし、恭兵の顔は硬い。
「どうしたんですか恭兵さん?」
恭兵の様子を見て芽愛が、訪ねる。
「次のパーキングで車を変えよう……」
「どうしてですか?」
「やっぱり不安」
それを聞いて芽愛が頭の上に「?」を浮かべるように首を傾げた。
「このスペアタイヤはあくまで応急処置。長距離を走るのはちょっとね……」
恭兵の言う通り、走る分には問題無いが、スペアタイヤはあくまで応急処置、あまり過信しない方がいい。
SUV車やワゴン車――乗用車も車によっては乗っている場合もあるが――のようにスペアタイヤでも、純正のサイズのタイヤであれば問題無いのだが。
それともう1つは、後ろのタイヤもバーストしていないとはいえ、やはりダメージがある。
タダでも高速でタイヤに負担が掛かるので、破裂する危険性があるのも理由だ。
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