湿度の街のハロウィンパーティ
楓トリュフ
Happy Baby Halloween
-この街は、一年中湿度が高い。街の中心にある巨大タワーが見えるだろ?通称ダストタワーだ。
2035年にメガストラクチャーの空中都市が完成して地上と宇宙は繋がった。高層階は勿論、富裕層の連中の世界だ。俺達には関係がない。
空中都市には水や植物、動物なんかも居るらしい。実際に見たことは無いけどな。
そんで、この最下層の街、湿度の街だ。上の奴等が捨てたゴミがダストシュートで落とされる。その時摩擦で発火する事があるんだ。それを中間施設で放水して湿らせている。結果、この湿度の街が出来たって事。
「んはぁっ、はぁっ、ふぁっ、ヴァーーー!!!!」
絶叫しながら、俺に股がって腰を振っているこいつが俺の飼い主。木刀のエリーことエリコだ。俺が路地裏でゴム男に殺されかけた所を、助けてくれた恩人だ。
エリーはこの街最強、最悪の殺し屋だ。しかも武器は木刀のみ。このバキバキの腹筋、ガチガチの腕、脚を見れば納得なんだけど。
動きが激しくなり、獣の遠吠えを上げて満足そうな顔をしていた。
「あのさー、ずっーと待ってんだけど?早くしてくれない?」
開けっぱなしのドアに、トカゲ頭の男が立っている。
配達屋の山田太郎だ。
「お前、人の情事を覗き見するなんていい趣味してんな?やーまーだぁ」
パンツを穿きながら、恨めしそうに睨み付ける。
「エリーさ、2ブロック先まで聞こえてるぜ。何が情事だよ。みんなビクビクしてるよ」
「まあ、いいや。荷物来てるぞ。ほれ、サインくれ」
山田は、ボストンバッグを渡してきた。なんだこれ?
"なまもの注意"って書いてある。
「なぁ、ポルチーニ、お前よくこんな化け物相手に出来んな?マジで尊敬するよ」
「いや、ポルチーニじゃなくてトリュフだって何回言えば分かるんだ、このレプタリアンが」
本当に、爬虫類は単細胞で困る。しかし、こんなにトカゲ丸出しのレプタリアンも珍しい。人間の体の方が異物なのではないか?まあいい、俺はバッグを開けてみた。
「うあっ、なんじゃこれ」
「なになに爆弾でも入ってた?っておい!!!山田、なに持ってきたんだよ!!!くっせー!!窓開けろ、窓」
糞だった。
子供っぽい嫌がらせだ。エリーは嫌われてる。にしても馬鹿が居たもんだ。カーテンの無い窓を開けると、ネオン管の蛍光ピンクで部屋が明るくなった。
「あれ?これ動いてねぇか?ひっくり返してみようぜ」
山田は強引にバッグをひったくり、チャックを全開にした。
「ほんぎゃーほんぎゃーほんぎゃーほんぎゃー」
オーマイガー。赤ん坊だ。
「おい!おい!山田、なにしてんだよ。ウンチちゃん人形抱いてさ。あっはっはー」
エリーは腹を抱えて大笑いしている。トカゲは、指で摘まんだ赤ん坊を繁々眺めてる。
「お前達の子供なんじゃないのこれ?」
「は?なんでだよ。ワタシ産んでないよ」
「お前知らねぇのかよ。デッケー鳥が連れてくるんだぞ赤ん坊。なんだっけなー...あそうだ!フコウノトリ」
「フコウノトリ?」(トカゲよ。お前は馬鹿か。)
「そうなのか?そう言えばワタシも、親の顔なんて知らねーしな。フムフム。山田は物知りだな」
駄目だ、コイツら。しかし、この赤ん坊は何処から来たんだろう。
「なあ、山田、この荷物、差出人誰なんだ?」
「ん?ちょっと待ってろ。...あったこれだ。Deep network .inkって、闇サイトじゃん」
「ああ、思い出した。この前、ポイント貯まってたから応募したんだった懸賞。何だよ、日本刀が欲しかったのに」
「一等、臓器移植用レプリカントだって。なるほどね。」
山田は、少し考え込んでいる様子だ。エリーは赤ん坊を洗面台に連れて行く。泥のついた野菜のように、じゃぶじゃぶ水道で赤ん坊を洗う。
「レプリカントだったら、家には居るしな。まあ2人飼うのもいいけどさ、金に変えちゃおうかな」
「あのさ、俺が貰ってもいいかなこいつ。」
「山田、まさか食うつもりか?」
レプタリアンは元々、獰猛な種族だ。若さの秘訣は赤ちゃんです。か。
笑えないジョークだな。しかし、山田の表情は真面目だった。
エリーがタオルで赤ん坊を包んだ。なかなか可愛いじゃないか。
「お前ら見てるとさ、相棒が欲しくなったんだよ。それにさ臓器移植したら、こいつ死ぬんだろ。かわいそうじゃね」
「よし。いいよ。お前にやるよ。1万でどうだ?」
「金、取るのかよ。しょうがねーな」
山田は、札束をテーブルに放り出した。よくもまあ、こんな小銭を持ち歩いてんな。エリーが数えろとジェスチャーをしている。
「ところでさ、こいつ名前何にする?ウンチ君?」
流石に可哀想だろ。俺は金を数える手を止めていた。
「へいSiri、英語でウンチって何?」
Siriも可哀想に、馬鹿な質問をされてるよ。
「英語では、ウンチを “number two “と言います。」
「ナンバーツー? 二って事だよな。山田ニ…山田二郎だ。」
「へー、二郎か。いいんじゃないか。ワタシはウンポポがいいけどな」
二郎が突然泣き出した。前途多難な命名式が済んだんだ。泣きたくもらるよな。でもまぁ、赤ん坊が泣く時は大体腹が減った時だろう。
「山田、餌の時間だぞ。なんか食わせてやれよ父ちゃん」
俺は新米パパに試練を与えてやった。どうするトカゲ君よ。
「ポルチーニ、レプリカントって飯食うの?オイルとか飲んでるのか?」
「飯食うに決まってんだろ。俺もお前もエリーも二郎も一緒だよ。お風呂?ご飯?それともわたし?ってヤツだよ」
台所でエリーがゴソゴソしている。
「赤ん坊は、歯がないんだぞ。ナッツとか食えないよなぁ。何が良いかな....あっあった」
「ほれ、ウオッカ。呑みたい人、手~上げて。嫌いなヤツ居ないだろ?」
「違うだろ、ミルクだよ。そういやお前、乳でるか?」
3人ともエリーの胸元を見る。俺はよく知っている。
エリーの乳は、乳というか大胸筋だ。流石に美味しいミルクが出る気がしない。エリーは、わざとらしくモジモジしている。
「そうだ。マリアンナん所に行こうぜ!ストリップ劇場。アイツなら出るだろ。あれでミルク出ないなら詐欺だな」
赤ん坊を抱いて、エリーが走り出す。俺達も慌てて追いかける。
若干、夜風が冷たくなってきた。
道端で寝てるヤツ。
派手な田舎娘。
獣のに乗った男。
マッチ売の猿。
湿度の街は、毎日がハロウィンパーティーさ。
あんたが遊びに来たら、案内してやるよ。勿論、金は貰うけどな。
湿度の街のハロウィンパーティ 楓トリュフ @truffle000
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