ここは、上野。

 近くには動物園がある。

 そこから逃げ出してきたのかな……?

「黙ってないで、何とか言ったらどうだい?」

 あ、喋る。しかも忘れてはいけない、二本脚で立ってるんだよね。

 新種のたぬきかな?

 あるいは見た目通りじゃない子供が物陰に潜んで喋ってるとか。

「少年、少年」

 すごいぐいぐい裾を引っ張ってくるから、根負けして、しゃがみこむ。同じくらいの目線になった。

「……えっと、ですね。僕、牡丹園に行こうか迷ってて」

「お金が足りないのかい?」

「それは大丈夫です。そうでなくて……」

 ざっくり事情を説明したら、それなら今日はそっちじゃなくて、神社に行けと言われた。

「せっかくすぐ近くにあるんだ、お参りして、ついでにお守りも買ったらいい」

「病気に効くやつがあるんですか?」

「あるよ、あるある。きっと喜ばれると思うから、ほら、行ってみたまえ」

「……じゃあ」

 そうしますと言ったら、たぬきはやっと裾から手を離した。

「さっ、この道を真っ直ぐだよ」

 笑みを浮かべてるみたいだけど、なんかふてぶてしい……。

「──大御所様」

 ふいに背後から、声がした。

 振り返っても誰もいない、たぬきに視線を戻したら──たぬきは、僕より少しだけ年上と思われる少年にだっこされていた。

「勝手に抜け出さないでくださいと、何度も言ってます」

「たまの散歩くらい許してくれたまえ」

「よっしーがめっさ怒ってます。このままだと、安倍川餅を全部食べてしまいそう」

「許さんぞおい。ほらのぶ、私を連れて行きたまえ」

「了解。……あの」

 少年が僕に言う。

「気にしないでね」

 そしてすたこら神社の方に行ってしまい、彼らの姿が見えなくなるまで、少し呆然としていた。

 何だったんだろうな。


◆◆◆


 結局、その後に神社に行ってお参りをし、言われた通りにお守りを買った。

 パンダやお花のお守りも売っていて、幼馴染みに買ってあげようか迷ったけれど、今度一緒に来るから、その時でいいかとやめた。

 次の日、学校に着くといの一番に幼馴染みは僕の元に来た。

「ケっ……鷹夜たかや君、昨日はごめんね」

 何度目かの謝罪に別にいいんだよと言ってから、お守りを渡す。

「下見がてら先に行ってきてさ、これ、たぬきにおすすめされたんだよね」

「たぬき?」

「他にもお守り売ってたし、牡丹園とか美術館とか、いっぱいあるから、今度は一緒に」

「ちょっと待ってケンちゃん、たぬきって何?」

「え、新種だよ。二足歩行で喋るの」

「そんなたぬきいないよ? え、ちょっと詳しく」


 その後、日を改めて二人で上野に行ったけれど、たぬきに会うこともなければ、お兄さん達に会うこともなく。

 たぬきで頭がいっぱいになってしまった幼馴染みは、たぬきの話を書くことになるんだけれど、それはまた別の話。

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幼馴染みとたぬきとお守り 黒本聖南 @black_book

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