第30話 エピローグ
「ぐばああああ!」
この鳴き声は少しの間だけペットにしていたハシビロコウだと思う。
見上げると、予想通りのくすんだ青色と特徴的な枯れ葉のような嘴を備えた鳥が見えた。
ん、すぐに降りてくるかと思ったけど翼を開いた滑空姿勢のまま体勢を変えようとしない。俺たちを通り過ぎて行くつもりなの……え。
「え、えええ!」
「成長したんでしょうか」
無邪気に首を傾げるユエだったけど、成長なんてもんじゃないぞ。
縮尺を間違ったんじゃないかという大きさだ。滑空姿勢だったのは、俺たちのところまでまだ距離があったから。
どんどんハシビロコウの姿が大きくなっていく。マウスをドラッグして拡大していくかのように。
「で、でかい」
「朱雀くらいでしょうか」
バサバサア――。
翼をはためかせ、ハシビロコウが着地する。その風圧で髪の毛が舞い上がり、ジャケットが飛ばされそうになった。幸いユエがチャイナドレスだったので裾がめくれかえることもなく、お団子頭も無事だ。
「ぐああ」
鳴き声も大きくなってる! なかなかの音量……隣家に騒音被害で殴り込まれそうなくらいだな。
ハシビロコウは色を変えた朱雀だと言われても違和感のないサイズにまで大きくなっている。
降り立った彼は華麗に翼を伸ばしてから元に戻した。
続いて、嘴をちょんちょんと首元へ向け、長い脚を折り畳む。乗れってことか?
ユエと頷きあい、先に俺がハシビロコウの背に乗り、彼女を引っ張り上げた。
「ぐあー」
立ち上がったハシビロコウが走り始め、勢いをつけたところで翼を開き宙に浮く。
あっという間に上空30メートルほどの高さになった。
「すごいです !空を飛べるなんて!」
歓声をあげるユエ。しかし、彼女が両手を胸の前で組み、腰を浮かせるものだから、彼女が落ちないよう抱き寄せる。
察した彼女がひしと俺の胸にしがみついた。これで彼女が落ちることはない。
彼女が空に惹かれようとも、俺がちゃんと支えていればよいのだから。だけど、一度落ちそうになる行動をして反省するところがあったのか、彼女は俺の背中に手を回ししっかりと抱きしめたまま動かなくなった。それはそれで、せっかく支えたのにと少し残念な気持ちになる。
まあいい。あえて指摘するほどのことでもないだろ。
高度が上がり、風の勢いがますます強くなってきている。眼下はもう地面がある程度にしか見えず、雲の合間から差し込む光がキラキラと俺たちを照らす。
「ハシビロコウ、このままもっと高く、高く飛べるか?」
「ぐあー」
鳴き声は大きくなったが、気の抜ける感は変わっていない。
ハシビロコウはポコポコと嘴を打ち合わせ、一気に高度をあげる。巨木も個別に確認することができなくなり、緑の絨毯のように見えた。
山より高く、雲に突入し、更に高く。
「あった!」
白い雲を大地とするかのように雲と空の境目に城があった!
城は中華風ではなく、西洋風ファンタジー風の外観だ。ダンジョン扱いだから、この城ただけ西洋風なのかは不明。そもそもハンバーガーを裏ボスにするような開発だし、驚くほどのことではない。
城のテラスで降ろしてもらい、ハシビロコウにはここで待ってもらうことにした。
「ありがとうな」
「ぐあー」
首を下にしたハシビロコウの嘴をペシペシ叩く。
よし、行こう。
◇◇◇
テラスから玉座のある部屋までの道のりは覚えている。既に武器を回収しているから、お宝はもうないけど。
ものの10分とかからず玉座の部屋に到着した。
玉座の裏を覗き込み、その場でしゃがみ込む。う、うーん。確かこの辺に。
膝を揃えて屈んだユエもキョロキョロとあたりを見渡して特徴的なものがないか探してくれているようだ。
しかし、あの姿勢って。靴を少しズラすと見えるよな。見えそうで見えないとか確認してないからな。
ん。
あった。あそこだ! 見えた!
「そこだ。赤いのが」
「今日は青ですが」
「下着の色じゃなくて、そこ、ユエの足元に」
「し、失礼しました。わ、わたしの下着になど興味はないですよね」
「そんなわけはないけど。今はほら、探し物があったから」
「み、見ますか……?」
しゃがんだまま艶めかしい太ももをもじもじさせたユエがてれてれと冷や汗をかく。
しかし、自分から下着を、なんて言い出すような柄じゃないと思っていたのだけど、きっと、この状況に混乱しているだけだ。うん。
彼女に立ってもらうのも良いのだけど、このまま進めてしまうか。
発見したのは赤い四角い模様である。ほんの小さな親指の先くらいのひし形なのだけど、床から僅かに盛り上がっている。
体を伸ばし、ユエの足もとにあるそれに手を触れた。
「え、あ、う。まさか本当に見られ……」
「危ない」
ユエならすぐに気が付いて動くと思っていた。ギギギギと開いていく床に彼女が挟まれそうになってしまったので、慌てて彼女を抱きとめ事なきを得る。
「あ、ありがとうございます」
「ボーっとするのは俺の役目だろ」
冗談めかして言うと、彼女にようやく笑顔が戻った。
音が止まり、床にポッカリと穴ができた。穴の中は階段になっており、人一人がギリギリ通ることができるくらいの広さになっている。
「行こう」
「はい!」
ユエの手を取り、彼女を連れ立って階段へ足を伸ばす。
カツン、カツン。
階段を降りる音だけが響き、すぐに行き止まりに到達した。鉄の扉があり、横に開くタイプとなっている。
両手を扉の窪みに入れ、ぐぐぐっと力を込めるとあっさり扉が開く。
中は世界観にそぐわない小さな部屋だった。青白い光が天井から降り注ぎ、15インチくらいのモニターと前の壁を覆い尽くすほどの大きなスクリーンがまず目に入る。背もたれの無い椅子が二つ置かれていて、飛行機のコクピットのような謎の機械が鎮座していた。
先に椅子へ腰かけ、たじろくユエにも隣に座るように促す。
「こ、ここは……見たこともない光る道具が沢山……」
「ここは操縦ルームだよ。このコンソール……ええと、なんかいろんな計器がならんでいるこれ」
バンバンと謎のレバーや光るボタンが並んでいるコンソールを叩く。
コンソールの下に戸棚があり、そいつを開き中からゲーム機のコントローラーのようなものを取り出した。
「それは?」
「これで天空の城を動かすことができるんだよ」
クリア後のおまけ要素だ。ハンバーガーを仕留め、エンディングを迎えた後にキャラクターを動かすことができてさ。
そこで玉座の裏から操縦ルームに入ることができる。クリア後のご褒美として、空から自分が冒険した世界を眺めることができるってわけさ。
目立つ赤いボタンをポチっと押すと、モニターとスクリーンに電源が入る。
モニターとスクリーンには青い空と雲が映し出されていた。
「画面を見ながら、これで城を動かすことができるんだよ。ユエ、どこに行ってみたい?」
「そ、そんなことが。夢みたいですね。で。では。ドラゴンズロア……いえ、わたしの故郷近くでもいいですか?」
「うん。行こう」
「もう廃村となっていますが」
「そうか、それだったら、城とユエの故郷を拠点に農業したり交易したりして過ごしていかないか?」
「ロンスーさんさえよければ、ユエもご一緒させてください!」
ユエが椅子を動かし、俺の肩へ頬を寄せる。
「それじゃあ、出発進行!」
スクリーンに映し出される映像が、ゆっくりと動き始めた。
おしまい
※これにて完結になります。今回はまだ新作準備できておりません、、。
新作投稿始めましたらまたお知らせしたいと思っております。
ここまでお読みいただきありがとうございました!!
※新作はじめました!!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859420545427
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
「俺に任せろ」と宣言し死ぬ予定のモブに転生した俺は、逃走することを決めました~絶対安全な天空の城でのんびりと暮らす……ために最強装備を漁ります~ うみ @Umi12345
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