神さまになることを宣言し、本当に神さまになったという幼なじみ「加奈子」について語る冒頭。すべて過去形という点が非常に不穏ですが……。
次に加奈子からの手紙が来て、最後の方でちょっとびびりました。まあ違う世界の存在になったなら、そういうこともあるでしょう。
そして恐ろしいのは、結末とそのつけかた。
アキラくんの件は「考えすぎじゃない?」と思ったのですが、その後に明かされる事実と、一話で語られてきた「加奈子がどういう少女だったか」という情報がすべて有機的に結びつき、ゾッとする破滅の予感をさせて終わります。
タイトルの「羽化」はてっきり人間から神さまになった加奈子のことを指していると思ったのですが、それだけではなかったという使い方。
そして「やはり、神様になるのは大変でしたか。」というキャッチコピーも、振り返ってみると空恐ろしいものがあります。
彼女がどのような手段を経て神さまになったのか、詮索は無意味というものです。ただ、主人公が最後に呼んだのが「加奈子」という人間の名前ではなく、すがるような祈りの言葉であったという絶望感の演出がまたたまりません。
「短編ホラーはこう書くのだ!」と突きつけられるような、読書体験の作品でした。
凡庸なことを言うようで申し訳ないですが、まず一言で感想を言います。「面白かった」です。率直に、そう思いました。かなり奇想天外なアイデアで書かれた、ホラーなのかシュールギャグなのか見極めの難しい作品ではあるのですが、ともかく、総合的に一言で言うと面白かった、という言葉でまとめるのが一番しっくりきます。
まず、「人が神になる」。それも、多神教的なニュアンスでの、例えば菅原道真公みたいなアレではなく、かなり造物主みのあるでかい神様になってしまう。そして、どうしてそういうものになれたのか、それはどのような存在であるのか、特に説明らしい説明はない。いや、これは無くていいんです。どんなに言葉を尽くしても多分条理を通すのは無理でしょうし、力強く「なれたんだからなれたのだ」と押し通した方が小説として強いので、これでいいと思います。
ある意味では悪夢のような結末ではありますが、しかし、もしかしたらこれは神による導き、人が新たなステージに向かう的な何かであるのかもしれず、まあ、いいんじゃないかな?(雑)というわけで、何度も言うようですが、面白かったです。