第9話(最終話)
無事に真司は第一志望の私立大学の文系に合格した。
放課後に向けて高校に行き、職員室で先生方に報告し部活にも挨拶をした後、思い立って図書室へ向かう。美優と蒼遥にも、小論文の書き方やその本探しに協力してもらったことだし、と思うと自然と笑顔になる。
「こんにちは」
「あっ、お久しぶりです!」
「こんにちは」
図書室に着くと、相変わらず人は少ないが、蒼遥と美優が二人で仲良くカウンターに座っている。
「第一志望のS大学の文学部に合格したから報告にきたよ」
「おめでとうございます」
「わー! すごい!! おめでとうございます」
二人に祝福され、真司は満面の笑みを浮かべる。受験も終わり、無事に四月から華の大学生になる。これで彼女が作れる。
「あの、実は僕たちも報告があって」
蒼遥が口火を切る。美優は「えっ、言うの⁈」というように蒼遥を見上げる。
「僕たち、付き合い始めました」
「うん、知ってる」
真司はつい、被せ気味に答えてしまった。いけない、初めて知ったことなのに。照れたように顔を覆っていた美優が驚いたように真司に視線を向ける。
「え、なんでですか? 誰から聞いて?」
その疑問はもっともである。だが、真司は言葉に詰まる。誰からも聞いたことがない。
「いや〜、カウンターに座っていた二人の雰囲気?」
苦し紛れに答えたが、蒼遥と美優は納得したように頷いた。心当たりがあったのだろうか。
「カウンターの下で手を繋いでたからですかね」
「仕事中!」
蒼遥から爆弾発言が飛び出し、思わず真司は叫んでしまった。図書室に来た人が当てられたらかわいそうだ。現に真司が当てられた。
「カウンターのそっち側に行ってもいい?」
腰を据えて話をしようと真司は二人に尋ねる。
「どうぞ!」
美優はそそくさと椅子を出してきた。
「それで、付き合ったきっかけ……というか、流れは?」
蒼遥と美優は視線を交わし、蒼遥が話し始める。
「以前、先輩に『告白に和歌って必要ですか?』と聞いた時、必要ないとのことだったのですが、必要なのは和歌ではなかったのかと気づきまして」
「うん……?」
「なんとか美優ちゃんに宛てた詩や短歌を書こうと思い立ちました」
「どうしてそうなった!」
多少ツッコミどころ満載でも覚悟して聞こうと心に決めていたが、早々に話を遮ってツッコミを入れてしまう。
「あ、ごめん、続けて」
「はい。ルーズリーフなどに試行錯誤して書いていたのですが、難しくて……。失敗したものを不注意でカウンター内の机に置いたまま委員会の仕事をしていたら美優ちゃんが見つけてしまい」
色々とずれているところはあるけれど、それは想像すると災難だろう。宛てた相手に未完成のものを見られてしまったのだから。
「文字が書いてあったんだもん、読むじゃない?」
美優が口を尖らせるが、当たり前のように言わないでほしい。それはただの活字中毒である。
「『恋の詩? 短歌? 素敵!』とはしゃいだ美優ちゃんにアドバイスを受け、添削されました」
真司は首を傾げる。その人に向けて書いた詩や短歌を本人にアドバイスを受け、添削されるなんてことがあるのか? そして、美優は理系なのにそういうことが得意なのか、と思いかけ、読書感想文や作文でよく入賞して名前が載っていたことを思い出した。得意だな。
「普通に詩や短歌を書いているだけかと思っていて……。なかなか口を割らなかったけど、蒼遥君、片想いの人に渡すって言っていたから、いいなあって思ったんですよ。ロマンチックじゃないですか」
「それで、告白の言葉とともに詩と短歌を渡したら、すごく驚いていましたね」
それは驚くだろう。まさか自分に宛てられているとは思わなかったに違いない。他の女子に添削された詩や短歌を片想いの相手に告白の時に渡すことになるよりは、まだよかった、のか? 真司は無理やり自分自身を納得させようとした。
「まあ……、うん、よかったね。末長くお幸せに」
「はい!」
二人が声をハモらせて返事をする。真司は引き攣った笑みを浮かべて腰を上げた。
「大学生活、頑張ってください!」
「楽しんでくださいね!」
寄り添う二人に笑顔で送り出され、真司は三年間過ごした図書室と最後のお別れをした。
図書委員の奥手JKと草食(⁈)男子高校生が繰り広げるもだもだな恋〜ただし先輩視点〜 郷野すみれ @satono_sumire
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