第8話
個別試験受験前に小論文についての本を借りるために久しぶりに火曜日の図書室に行くと、蒼遥のみがカウンターにいた。
「久しぶり」
「あ、先輩、お久しぶりです」
真司としては、美優との進展を聞きたいのだが、この二人はそもそも始まっているかすら怪しい。すると、いつも饒舌な蒼遥にしては口籠もりながら口を開く。どのくらい饒舌かと言うと、真司が前に、うっかり蒼遥が読んでいる本について尋ねたら三十分ほど語られたくらいだ。あれ以降、蒼遥が読んでいる本については触れていない。
「あの……、質問があるんですけど」
なんとなく美優とのことだなと直感する。人並みかそれ以上にモテてている真司は胸を張る。どんな質問だ、どんと来い。
「告白に和歌って必要ですか?」
だが、聞かれたことは予想の斜め上のさらに上をいくもので、思わず、は? と声に出てしまった。
確かに、古典も新書も読んでいた蒼遥だが、今日は古典だけ何冊も蒼遥の席に積んである。
「必要ないと思うな」
だが、後輩の真面目な質問を茶化す気にもなれず、頭ごなしにも否定できず、曖昧な答えになってしまった。
「そうなんですね。ありがとうございます。もう詩も短歌も書いてみたのですが、参考にします」
告白に和歌など聞いたことがない。だが、案外美優は「わあ、ロマンチック」などと言って喜ぶかも知れない。そんなことを考えてしまった自分が道を踏み外してしまいそうで、真司は頭をブンブンと振った。今は自分の入試に集中しなければいけない。鈍すぎる後輩たちの恋路に関わっている場合ではないのだ。
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