第7話

 前期が終わると三年生は委員会を引退となる。


 図書委員としての最後の火曜日、真司はいつも通り図書室に行く。すると、二人が耳打ちまではいかないが、かなり近い距離で話していた。真司が入ってきたのを認めるとぱっと離れた。一応他にも利用している生徒がいるのだから近すぎだったと思うけれど。


 蒼遥と美優にしては恐ろしいほど何事もなく六時近くになった。この頃になると利用している生徒はいない。また二人で楽しそうにこそこそやっている。知らないふりをするのが先輩の務めだろう、と真司は素知らぬ顔をする。


「そろそろ帰ろうか」


 真司が声をかけて立ち上がると意を決したように二人が立ち上がり、美優が紙袋を取り出した。


「先輩、半年間今までありがとうございました」


 蒼遥が頭を下げ、美優もそれに引き続きぴょこんと頭を下げる。


「あの……これ、私たちからのお礼の品です」


 美優が小声で紙袋を渡してくる。


 今まで図書委員は引退する三年生に栞を渡すのが定番だったから予想していたが、小さめの紙袋の大きさであるプレゼントは予想外だ。


「ありがとう! 開けてもいい?」

「はい」


 二人が頷くのを確認し、中身を見る。そこには例年通りの栞と紺色で紐付きの文庫本のブックカバーが入っていた。


「えっ、すごい。これどうしたの?」

「私が布と紐を買ってきて学校で渡したら、蒼遥君が作ってくれました」


 美優が胸を張る。確かに図書室の飾り付けなどで蒼遥は器用だったなと思い出しつつ、そこは、理由はなんでもいいから二人で出かけていて欲しかった、と真司は膝から崩れ落ちそうになった。


「先輩ブックカバー使われるし文庫本をよく読まれているのでちょうどいいかなと思いました。今までありがとうございました」

「半年だけでしたが、色々小説のお話とかできて、楽しかったです。受験、頑張ってください」


 そう言って涙ぐむ美優を愛おしそうに見つめる蒼遥の眼を見て、真司は後輩の気持ちを確信した。


 そうして真司の二年半の図書委員生活が幕を閉じた。

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