第6話
ポカポカとした秋晴れが心地よい日。真司は図書室に来る前に顔見知りの司書の先生とすれ違い、換気のために窓を開けておくように頼まれたので、目につく窓は開ける。
「原さん、こんにちは……って大丈夫? 風邪?」
窓を開けた後に少しだるそうな様子で図書室に来た美優はマスクをしていた。インフルエンザの予防の季節にはまだ早い。
「いえ……、季節の変わり目なので、持病の喘息で咳が……」
真司は頷いた。美優をカウンターの奥の方に座らせ、生徒との接触を少なくなるようにする。
今日はいつもより多く来る人を捌いていると、蒼遥もやってきた。
「北川君、手伝って!」
言われるまでもなく蒼遥は手際良く処理していく。
しばらくするとひと段落したので、蒼遥は先ほどは置く暇もなく、カウンターの下に置いておいた荷物を置きに奥へ向かう。
「あ、蒼遥君、ごめんね。ここわからないんだけど……」
美優が話しかけているのを尻目に真司も勉強を始めようかと奥に荷物を取りに行こうとすると、二人の様子が見えた。
話しかけられた蒼遥は後ろから覆い被さるような体制で美優のノートを覗き込み、美優が持っていたシャーペンをさりげなく取り上げて何かを書いている。真司は不純異性交友だと指摘した方が良いのか逡巡する。さすがに美優も体を少し蒼遥から遠ざける。
「蒼遥君さ」
「うん?」
「もしクラスの他の女の子に聞かれても、こういうふうに教えるの?」
美優にしては珍しく踏み込んだ発言だ。美優の体調が悪く、少し冷静さを欠いているのかもしれない。チャンスだぞ、北川! という心境で真司は二人の会話の行方を見守る。
「数学について質問されたら教えはするだろうね」
なんでそんなわかりにくい答え方をするんだ! と真司は心の中で叫ぶ。そこは君だけだよ、とか言えないのか!
「ふうん。こういうふうに教えるとは限らないのね」
その答えに満足したのかしていないのかよくわからないが、美優が念を押す。真司はなんなんだ、この会話は……と脱力感すら覚える。
「さあ、どうだろうね」
ある意味お似合いの二人なのかもしれないなどと真司が考え込んでいるうちに、いつの間にか二人の会話は元に戻っていた。
「で、xを動かすと……」
「あ、yの値が変わるから!」
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