第5話

 一年後、勇樹との結婚式は、バンド仲間が、大勢参加して、賑やかだった。


「良いのかな?私だけ幸せになって」


 勇樹は、美咲だって、そう望んでいると、言った。


 賑やかな演奏が、いったん落ち着いた披露宴では、ビデオが流れた。


 画面に、美咲の姿が現れた。事前に撮っていたようだ。


「最近、新しい治療のおかげで、調子が良いの。だから、今のうちに、これを残します。私の夢は、里菜と同じ日に、紀男さんと結婚をして、私達が、お互いの家を同時に入れ替わるの。何だか不思議な気持ちになれると思うわ。私の両親は、里菜の事が、すごく気に入っているから、きっと喜ぶ。もちろんお兄ちゃんもね。私は、どうかな?こんな弱い身体でも紀男さんのご両親に喜んでもらえるかな?」


「美咲」

 

 お兄ちゃんの声。


「ゴメンね。でも、言っとかなきゃ」


 美咲は、予感してたのかな。


「もしも、やっぱり私が、駄目だったとき、これは、お兄ちゃんと里菜の結婚式に流してね。私のたったひとりのお友達。生まれてから、いちばん欲しかった親友の里菜。お兄ちゃんは、里菜の事を本当に好きよ。見ていれば、分かるわ。これからずっと一緒にいれるのね。ちょっと羨ましい」


「美咲」


 兄貴、ビデオの中で、涙声になってる。


「ゴメンね、里菜。もし私が駄目だったとき、ふたつの家の娘をひとりでしないと、いけないものね。どちらの家も大切にしてあげて。でも、私がいなくなったら、ほんの少しでいいから、私の両親の娘の時間長くしてあげてね。二人とも寂しがり屋だからね」


 私とお義母さんは、抱き合って泣いてしまった。


 兄貴も泣いている。


 勇樹も。


「では、里菜ちゃん、お兄ちゃん、お幸せにね。出来れば、私もその会場にいることを願うわ」


「私だって、美咲がいて欲しかったわよ」


 私もお義母さんもお義父さんも、勇樹も兄貴もみんな泣いている。


 私は、空を見上げて、美咲の姿を探した。


 きっと、見てくれている。


「私たち、きっと幸せになる」


 その日の空は、澄み切った空気の中、どこまでも青く、晴れ渡っていた。


          終わり

 

 




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恋とギターと妹と。 @ramia294

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