まほう

 ゆきさんが見せてくれたのは、「まほう」だった。雪さんの正体は「まじょ」で、それからお母さんが私を探しに来るまではいろんなことをを教えてもらった。色んな「まほう」のこと。「まじょ」のこと。雪さんは優しくて、


 やっぱりあの本は間違ってないんだって。

 「まじょ」は優しいんだって。

 「わたし」は間違ってなんていないんだって。

 間違っているのは「みんな」で、「わたし」じゃない。

 私は「わたし」を信じていいんだって。

 その時、そう確信してしまった。それからずっと、長く年月が経つまで。ずっと思い続けてきた。


 お母さんは泣いて私に抱きついた。花の香りが柔らかく優しく香った。抱きついたお母さんの身体はあったくて、つめたかった。そのまま数分が過ぎる。


「あ! おかあさん! まじょさんがね……」

 ここでまた、急に寒さが襲ってきた。そこに魔女はいなくて、雪はもう止んでいた。止んでいたというのに、そのときよりもずっと寒さを感じていた。

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白雪は溶けて 野田 琳仁 @milk4192

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