「そうなんですね…まあ、兎よりはマシですけど…。」


俺がウサ耳とか、ホント笑えない。


円サンにだけなら、見せても構わないけど。

土屋辺りにでも見られたら何を言われることか…



こんな余興にすら、全力で楽しもうとすり円サンには、敵わないなと笑みが零れて。


…ふとそこで、最もな疑問が頭を過った。






「…お団子、買えば良かったんじゃ…ないですか?」


お月見ときて一番に連想するのは、

寧ろソッチなんじゃ…と。俺が漏らした瞬間。





「ああ~しまった~!!耳に気を取られて、肝心なお団子を忘れるなんてっっ…」


悔しげに頭を抱える円サン。

余程ショックだったのか…途端に泣き出しそうなくらい、目尻が下がってしまった。







「別にいいじゃないですか。月を見るだけでも…」


項垂れる円サンの背を撫でながら、声をかけるものの。





「だって、せっかく昴クンとのお月見なのに~…」



俺の事を思って尽くしてくれた円サンは、

シュンとなって自分を責め始める。






「くぅ~…どうしてオレってば、こうもドジっ子なんだろう…」


仕舞いには自己嫌悪に陥る円サンに。

俺はしょうがないなぁと、溜め息を吐いた。






「お団子なんか、なくてもいいですよ。」


態と声音を甘くさせ…耳元で囁く。





(俺は、円サンが食べたいです…)



「ッ…な、すばる、く……」


息を吹きかければ、ビクンと敏感な反応を示し。

耳元を押さえ赤面する円サン。


更に悪戯心を擽られた俺は、ニヤリと意地悪く笑って。


円サンの頬へと、手を伸ばした。






「虎って……肉食、ですよね?」


きっと今の俺は、凄く厭らしい顔をしてるんだろう。


何故なら俺を見た円サンの表情が、

一瞬だけど期待に満ちた色を…宿していたから。






「兎なら…黙って俺に食べられてくれませんか?」


アナタが悪いんですよ?

だってこんな可愛い事ばかり…してくるから。



ゆっくり顔を近付け、円サンの返事を待つ。


そうしたら…






「う、うん…昴クンなら、食べてもいーよ…」



円サンは応えてぎゅっと目を閉じる。

その姿に満面の笑みを湛えて。


俺も遠慮なく顔を寄せると─────…







「っ………?」


ちゅっ…と愛らしい音をたて、

額に優しいキスを落とす。





「ふふ…円サンて、本当に可愛い人なんですね。」


つい緩む口元を押さえ、

目を閉じたままの恋人をよしよし撫でてあげる。





「ッ…───!!かっ、からかうなんてヒドいじゃんか~!!」


見る間に顔を上気させ、頬を膨らます円サン。

怒った顔も可愛いとか…ホント罪深い人だ。






「いえ、そうじゃないんです。は後で、いくらでも出来るかなって…」



そう…

俺と円サンはひとつ屋根の下、共に暮らしてる。


お楽しみなんてベッドの中で、

いつでも好きなだけ愛し合えるんだ。



けど今は──────






「もう少しだけ、円サンとこの月を見ていたいなっ…て。」



今日見る月は、もう二度と目にする事は叶わない。

貴方と初めて見た、この目に映す美しい月は。


だから。





ごめんなさいと謝罪する俺に、円サンはにっこりと微笑んで。




「そだね…」


どちらとなく手を繋いで。


夜空に浮かぶ月を見上げ、

互いの存在と共に、記憶のひとつへと刻み込んだ。






愛し合う意味を問われたなら。


迷わずベッドの上で交わす、

淫らな行為のことばかりだと思っていた。



それも充分素敵だろうし、

貴方とならいくらだって愛し合えるけど…




今宵、ひときわ煌めく透明なあの月を。

貴方とふたり、この目に焼き付けてからの方が…



もっとステキなんじゃないかって。


またひとつ、貴方が教えてくれたんだ。







「月って確か、人を惑わす力があるんだって~。」


「…え?」



俺を惑わすのは───────貴方だけ。



おしまい♥️

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キャンディ。シリーズ短編あれこれ 祷治 @jmjmjm1046

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